第74話 復活の光

ビンズ達を殺害し、用済みとなったパークも殺害した新生アスト。

その惨劇を、平和を守るための行いだと主張する彼らに、ゴウマ達は怒りを見せる。

そんな時、死んだはずのビンズがスコーダーとなって立ち上がり、新生アスト達に襲い掛かった。


スコーダーを捕えた剛角であったが、鎧を貫いたレイピアと通して大量の電流を浴びてしまった。

「あ・・・」

感電した剛角は悲鳴すら上げられず、糸が切れた人形のように倒れた。

アーマーが解除されると、中から黒焦げになった男性が姿を現した。

その悲惨な姿は、スコーダーの放った電流の強さを示していた。

もちろん、そんな協力な電流をまともに浴びて、男性が生きている訳がなかった。


剛角から解放されたスコーダーはまだ生きている新生アストに再び襲い始めた。


「一体・・・何が起きているんだ?」

突然の出来事に言葉を失う誠児達。

「あいつ・・・生き返ったのか?」

夜光がそう呟くと、ゴウマがこんな言葉を口にする。

「・・・ビンズは間違いなく死んでいる」

「死んでいるって、現にスコーダーになって、アストを襲ってんじゃねぇか」

「今のあいつを動かしているのは、アストに対する怒りと憎しみだ。

ビンズが最後に残したその感情にシャドーブレスレットが反応して、スコーダーを暴走しているんだ」

「・・・ビンズさん」

悲し気な目でスコーダーを見つめる誠児。

人に共感できる彼にはビンズの気持ちが痛いほどわかる。

目の前で大切な仲間を殺され、ずっと守ろうとしていたリッシュ村を、ゴミのように焼き払われてしまえば、誰でもビンズのように怒り狂うのは必然だと、誠児は心のどこかで思ってしまった。

ビンズがアストを殺害しまわっているのは、人として許されない行為だ。

だがビンズの気持ちを思うと、誠児はビンズの殺人を完全に否定することができなかった。


「・・・奴の狙いがアストなら、このままアストを全員殺害させておけば、怒りは収まるのではないか?」

冷淡にそう口にするキルカ。

確かに、スコーダーの力が新生アストを上回っているのは明らかだ、

新生アストが全滅するのも、もはや時間の問題であろう。

「バカを言うな! このまま彼らが殺されるのを黙って見ていろと言うのか!?

どうにかして、ビンズさんと止めるべきだ!」

キルカの意見に反対するスノーラに、セリアがこう言う。

「で・・・でもいいったいどうするのですか? ままマインドブレスレットもなしで・・・」

「セリアの言うの通りよ。 マインドブレスレットをあいつらが持っている以上、あたし達は何もできないわ。 対抗手段がないまま突撃しろって言う訳?」

セリナとライカの言う通り。

マインドブレスレットと言う唯一の対抗手段がない以上、夜光達が束になって掛かっていても、一瞬で殺されるのは目に見えていた。

「それは・・・」

押し黙るスノーラに対し、ゴウマがこう言う。

「やめておきなさい、スノーラ。

今のビンズは、怒りと憎しみで支配されている。

仮に君達がアストを装着しても、ビンズが以前のように手心を加えたりしない限り、勝機はない」

前回の戦闘では、ビンズが夜光達を傷つけないように手心を加えていたために隙ができ、夜光達に敗北した。

しかし、今のビンズは怒りと憎しみに支配された正真正銘の怪物である。

戦おうとすれば、夜光達が負ける可能性が高い。


手をこまねいて見ているしかない夜光達の前で繰り広げられている戦闘と言うなの虐殺。

「この化け物が!!」

ヤケを起こした蒼雪が、無鉄砲に銃を乱射する。

しかし、スコーダーは軽々と弾丸を避け、蒼雪に接近する。

「くっ来るなぁぁぁ!!」

恐怖した蒼雪が最後の抵抗として、エクスティブモードを発動させ、全精神力を込めた弾丸をスコーダーの胸に命中させた。

弾丸を受けたスコーダーは氷に包まれ、動きを封じたかのように見えた。

「化け物め! 一生凍っていろ!」

蒼雪がほんの少し、安堵に浸った時であった。


「う・・・うおぉぉぉ!!」

獣のような雄たけびと共に、雷で氷を砕いたスコーダーは、すさまじい速さで蒼雪に接近すると、なぜかそのまま蒼雪の体を通過したかのように見えた・・・が。

「あぐっ!! そっそんな、バカな・・・」

蒼雪にはいつの間にか無数の刺し傷があり、そこから大量の血が流れていた。

先ほど蒼雪の体を通過する一瞬の間で、目にも止まらぬ攻撃で、蒼雪の体に無数の穴を空けたのだ。

そして蒼雪は、驚くのと同時に倒れ、息絶えた。


蒼雪を殺害した後、スコーダーの目に止まったのは、闇鬼であった。

「うおぉぉぉ!!」

雄たけびと共に、闇鬼に向かっていくスコーダー。

「こっちだよ! 化け物!」

スコーダーの背後に、いつの間にか回り込んでいた旋舞が、風を剣のように纏わせたピルウィル(鉄扇)で、スコーダーの背中を切り裂いた。

風の衝撃で吹き飛ばされたものの、スコーダーの体にダメージはない。

しかし、スコーダーが吹き飛ばされた地点に、妖雅がエクスティブモード状態で待機していた。

「はぁ!!」

妖雅は飛んできたスコーダーの体を斬り、その体力と精神力を大幅に削った。


スコーダーはそのまま地面に落下し、動かなくなった。

「フフフ、力尽きたか。 所詮は人殺しの外道。

平和を守る使命を託された、我々には勝てんのだよ」

勝利を確信し、スコーダーにとどめを刺そうとシェアガンを向ける闇鬼。


しかしその時、妖雅が突然倒れ、アーマーが解除された。

闇鬼と旋舞が妖雅に視線を向けると、そこにはレイピアによって心臓を刺された童顔の少女が倒れていた.


「まさか・・・妖雅に斬られた瞬間に刺し殺したというのか?

あの態勢で!?」

勢いよく飛ばされた上、態勢がおぼつかない空中で、なおかつ妖雅に体力と精神力を大幅に削られた瞬間に、妖雅の装甲を貫き、心臓を貫いた。

とても反撃などできない状況にも関わらず、スコーダーは妖雅を一撃で仕留めた。

このことで、闇鬼の心にもようやく恐怖が芽生え始めた。


「だが奴はもう丸腰だ!!」

そう言うと、旋舞はエクスティブモードになり、ピルウィルを仰いだ瞬間、巨大な竜巻が姿を現した。

それは、以前スコーダーに単独で挑んだライカが使用した竜巻よりもさらに強力なものであった。

スコーダーの唯一の武器であるレイピアは現在妖雅の体を貫いている。

電流も、鎧に穴を空けない限りは致命傷にはならない。

旋舞は絶好の機会だと思った。


スコーダーがシャドーブレスレットを操作すると、シャドーブレスレットから『サンダーアップ!!』と言う音声と共に、スコーダーの体を大量の電気が包み込む。

スコーダーが右手を上げたと同時に、上空の雲が一点に集まり、雷雲へと変化する。


「・・・」

スコーダーが無言で手を振り下ろすと、雷雲の中から雷が落下し、竜巻もろとも旋舞の体を貫いた。

落雷によって、真っ二つにされた竜巻は消え失せ、鎧ごろ体を貫かれた旋舞はアーマーが解除され、中から出てきた金髪の少年はそのまま倒れて動かなくなった。

感電と刺傷の傷が大きいため、死んだというのは目視でもわかった。


「ひっひいぃぃぃ!!」

残った闇鬼は、恐怖に完全に支配され、仲間の死を嘆く事もなくその場を逃げ出した。

しかし、スコーダーのスピードで逃げ切れる訳もなく、すぐに回り込まれた。

その上、レイピアまで回収されていた。

「く・・・クソォォォ!!」

破れかぶれになったシェアガンを構えようとする・・・が。

「あぁぁぁ!!」

目にも止まらぬスピードで、闇鬼の右手をレイピアで斬り飛ばした。

闇鬼の右手からは、ドクドクと血が流れ、闇鬼は残った左手で右手を抑えることしかできなかった。

「た・・・頼む・・・許してくれ・・・」

右手の痛みとスコーダーに対する恐怖から、闇鬼は膝を付き、命乞いを始めた・

「お・・・俺達は騎士団の命令に従っただけだ!! だっだから俺は、命令に従うしかなかったんだ!!

金は返す!! 罪も消すことを約束しよう!! だからお願いだ!! 命だけは!!」

必死に命乞いをする闇鬼。

そこには、アストとしても騎士団としても無様としか言いようのない姿があった。

しかし、怒りの化身となったスコーダーに命乞いなど無意味であった。


「うおぉぉぉ!!」

雄たけびを上げたスコーダーは、闇鬼を蹴り飛ばした。

闇鬼が仰向けに倒れたのと同時に、スコーダーは闇鬼にまたがり、一心不乱にレイピアで刺し続けた。

それには、彼自身の怒りと憎しみが込められているかのような乱暴な刺し方であった。

「助け・・・助けて・・・」

刺された痛みと出血から、意識が朦朧としていた闇鬼。


「・・・」

刺されてから3分ほどで、アーマーが解除された闇鬼は息絶えた。


「・・・」

アストを皆殺しにした後、スコーダーはその場に立ちすくんでいた。


「怒りが収まったのか?」

誠児は願うかのように、じっとスコーダーを見つめた。

しかし、現実はそう上手くはいかなかった・・・


「うおぉぉぉ!!」

雄たけびを上げたと同時に、猛スピードでこの場を後にしたスコーダー。

夜光達が辺りを見渡しても、すでにスコーダーはいない。

「どこへ行ったんだ!?」

必死にスコーダーを探す誠児。

ここでゴウマはふとあることに気が付く。

「もしかして、騎士団本部に向かったのか?」

「騎士団本部? なんでそんなところに・・・」

「先ほどの闇鬼の言葉で、新生アストのバックに騎士団が付いていることを知って、復讐の対象になってしまったんだろう」

ゴウマの話を聞き、ルドが「ちっ! 余計なことを・・・」と舌打ちをした。


「・・・!!」

誠児は突然、死んだ闇鬼の元へと駆け寄る。

「誠児! 何をする気だ!?」

ゴウマがそう尋ねると、誠児は闇鬼が身に着けていたマインドブレスレットと闇神の指輪を外した。

「闇鬼になって、ビンズさんを止めます! これ以上、あの人に殺人を犯してほしくない!」

「よすんだ!誠児。 お前の不安定な精神力ではエモーションできるかどうかわからんのだぞ!?

運良くできたところで、今度はお前が襲われかもしれないんだぞ!?」

「わかっています!! でもこのまま暴れ続けたら、ずっと生き地獄を味わうことになってしまう!!」

「誠児・・・」

ゴウマとて、ビンズを止めたい思いは同じだ。

しかし大切な人を止めるために、別の大切な人を危険にさらすような真似はしたくなかった。


「・・・」

マインドブレスレットを見つめ、意を決して、マインドブレスレットを付けようとする誠児。

しかし、そんな誠児の手を静止した人物がいた。

「・・・夜光」

「・・・俺が行く。 他人に甘いお前が行くくらいなら、自分に甘いだけの俺が行った方がまだマシだ」

「だけど、お前の身に何かあったら・・・」

「バーカ。 俺が正義のために男と心中するようなヒーローに見えるか? 死に場所くらい自分で選ぶ!!」

「・・・わかった。 絶対に死ぬなよ?」

「当たり前だ」

誠児からマインドブレスレットと闇神の指輪を受け取った夜光は、その場でエモーションした。

黒い光に包まれ、夜光は闇鬼のアーマーに身を包まれた。


「お前らはどうする?」

夜光がマイコミメンバーにそう問うと、マイコミメンバー達(キルカを除く)は互いにアイコンタクトを送り一斉に、自分達のマインドブレスレットを新生アストの死体から取り上げ、右手に装着した。

そして、全員同時にアストへとエモーションした。


夜光達はマインドブレスレットでイーグルを呼び、飛んできたイーグルに一斉にまたがった。

「・・・いくぞ? お前ら」

『了解!!』



そして、夜光達は闇夜の中へと飛び立った。

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