第73話 雷の咆哮

パークの裏切りによってビンズ達の前に現れた新生アスト。

彼らは無抵抗なビンズ達を攻撃しただけでなく、ビンズ達を庇おうとしたリッシュ村の村長を殺害し、

連帯責任だと村まで焼き払った。

ハロとコトルまでも殺害され、新生アストに強い怒りと殺意を抱くビンズ。

そんな気持ちを残し、ビンズまでもが心臓を撃ち抜かれた・・・



ビンズを殺害した闇鬼は、ビンズを無造作に放り投げた。

ビンズの体は地面に落下し、腹部から出る血液で地面を赤く染め、そのまま微動だにしなかった・・・


「くくく。 すみませんねぇ、ビンズさん。 でも、金に目が眩まなかったあなたが悪いんですよ?」

闇鬼に殺害されたビンズを見下すかのように、笑みを浮かべるパーク。

彼には悲しみも後悔もなく、心にあるのは金を手にしたいという欲望のみであった。


「ではアストのみなさん。 私はあなた方にビンズ達の情報をリークしました。

約束通り、私にこれまで我々が盗んだ金を全て譲り、私の罪を抹消していただきますよ?」

新生アスト達に向きを変え、パークは得意げにそう告げる。

パークはビンズ達の情報と引き換えに、金と自由を騎士団と新生アストに要求したのだ。

「約束を反故にしようとしても無駄ですよ? こちらには”神の契約書”があるのですから」

そう言ってパークが懐から取り出したのは、1枚の白い紙であった。

表面がなぜかキラキラしているが、見た目は普通の紙と変わらない

だが、この神の契約書は、王族と大臣にしか使用を許されない特別な契約書である。

書いた内容は、どんなことでも守らなくてはならないのが、暗黙のルールである。


「この契約書に、今私が言った内容が記載され、騎士団総長のサインもある。

そして、ご存じですよね? 神の加護を得ているこの契約書は絶対に破ることができないことを!」

神の契約書は、神の加護と言う不思議な力で守られている。

そのため、切ることも破ることも燃やすことも濡らすこともできない。

噂では、女神の髪の毛を刷り入れているとか・・・

ちなみに、神の契約書には王族と一部の大臣だけが持つと言われる特殊なペンでしか、文字を書くことができない。

騎士団総長であるクレンツ ガルテラスもその1人だ。


「私には特殊な人脈がありましてね? おかげでこの契約書の存在を知ることができました。

これがあれば、あなた方は私との約束を反故にできない」

パークは自慢げに新生アストにそう告げるが、本人たちは興味がなさそうにただじっとパークを見つめる。


「確かにその契約書がある限り、我々は貴様の要求をのまなければならない・・・が」

闇鬼がそう言いかけた次の瞬間、1発の銃声が辺りに響き渡った。


「あぁぁぁ!! いっ痛い!! 痛いぃぃぃ!!」

銃声が鳴り響いたと同時に、右手を撃ち抜かれたパークが手を抑えながら、もがき苦しんだ。

そして、蒼雪の手に握られた拳銃から、わずかながら煙が立ち上っていた。


「なっなんのマネだぁ!?」

右手の痛みに耐えながら、怒り込めた疑問をぶつけるパーク。

「くくく、バカな男だ。 そんな紙切れ1枚で、本当に我々が要求を飲むと信じていたのか?」

完全にバカにした笑いを向ける闇鬼に、パークは続けてこう言う。

「ふざけるなぁ!! 神の契約書は絶対!! 反故にすれば、極刑にもなるのではないのか!?」

ハメき散らすパークを無視して、撃たれた時にパークが落とした神の契約書を炎尾が拾う。


「我々新生アストが薄汚い犯罪者との約束を、本気で守ると思っていたのか?」

炎尾はパークを鼻で嘲笑い、手に持っていた神の契約書を握りしめる。

すると、神の契約書は、一瞬で燃え上がった。

「ばっバカな!! 神の契約書が燃えるなんて!!」

目の前の現実が信じられず、動揺するパーク。

そんな彼にとどめを刺すために、剣を逆手に持ち、パークの心臓に向ける妖雅

セリアのアスト

「我々アストの力を見くびらないでもらいたい。アストの力を持ってすれば、神の契約書など紙切れ同然」

アスト体には、女神石と呼ばれる貴重な鉱石が含まれている。

女神石に宿る強大な力の前には、神の契約書に宿る加護など無意味であった。

「そっそんな・・・」

絶望と恐怖に心を支配されるパーク。


「神の契約書が燃えて消えた以上、貴様の要求を飲む義理もなければ、生かす理由もない」

闇鬼のその言葉を合図に、妖雅が剣を振りかざす。

「たっ助けて・・・」

最後の最後に命乞いをするパークだが、妖雅はためらうことなく、パークの心臓を突き刺した。


「ビンズ!!」

そこへ現れたのは、爆発を見て駆けつけてきたゴウマであった。

彼の目に最初に止まったのは、血まみれで倒れているビンズの変わり果てた姿であった。

「び・・・ビンズぅぅぅ!!」

すぐさまビンズの元へ駆け寄るゴウマ。


「ビンズ!! しっかりしろ!! 返事をしてくれ!!」

しかし、いくら呼びかけても、ビンズが返事をすることはない。


「こっこれは、一体・・・」

ゴウマの後からついてきた誠児達も、この光景には驚きを隠せなかった。


「ハロさん!!」

倒れているハロに駆け寄るセリナとルド。

「ハロさん!! 起きて!! ハロさん!!」」

必死に呼びかけるセリナの横で、ハロの脈を調べるルド。

「・・・(ダメだ。 完全に死んでいる)」

ハロが死んでいることはあからさまだが、それを理解することはできなかった2人。


「・・・むごいことを」

そう呟くスノーラの視界に映っていたのは、首を切り落とされたコトルの死体であった。

その無残な姿には、いくら種族が違うからと言っても、目を覆いたくなってしまう。

「この切り口・・・ピルウィル(旋舞の鉄扇)の風? よりにもよって、あたしの愛用武器で殺したって訳?」

自分の愛用していた武器にって、コトルを無残な姿にしたことに、激しい怒りを覚えるライカ。


「・・・ダメみたいですね」

セリアは倒れている村長を揺さぶり起こそうとしたが、村長が起きることはなかった。

「焼け死んだか、煙を吸って死んだか・・・どちらにせよ助からないだろうな」

燃え上がる村を見つめながら、キルカは冷たくそう言うが、実際にその言葉通りである。


「お前らは誰だ? なんでアストを装着している?」

新生アストに向かって、夜光はそんな質問を投げつけた。

「我々は新生アスト。 この心界の平和を脅かす悪の組織、影。

そのメンバーであるスコーダーをたった今、討伐した所です」

そう答えたのは、皮肉にも闇鬼であった。

その言葉に、夜光の横から、激しい怒りで顔が歪んでいる誠児であった。

「ふざけるな!! ビンズさんはこれから国に投降して、新しい人生を歩むつもりだったんだぞ!!

それをよくもこんな・・・」

変わり果てたビンズの姿を見て、堪えてた涙があふれ出た誠児。

しかし、闇鬼は呆れたように首を振り、こう述べる。

「投降? バカバカしい。 そんなもの出まかせに決まっています」

「なぜそう言い切れる!?」

「ビンズは罪もない者を殺し、自らの欲望を満足させるために金品を盗んだ極悪人です。

そんな外道の言うことなど、信じる方がどうかと思いますがね」

その言葉に対し、夜光は鼻で笑う。

「フッ。 よく言うぜ。 自分達だって、リッシュ村の連中をステーキにしたクセによ」

「彼らは盗んだお金で生活を維持していました。

その事実を知らなかったとしても、罰を受けるのは当然です」

そう告げたのは、リッシュ村を焼いた炎尾本人であった。


「・・・なぜだ」

ビンズの死体を抱きかかえ、涙を流していたゴウマが小さく呟いた。

「なぜビンズ達を殺した!!」

怒りに狂ったゴウマが、新生アスト達に言葉で詰め寄る。

「質問の意味がわかりませんね。 我々はアスト。 影を倒し、この心界の平和を守ることが使命じゃないですか?」

へらへらとあざ笑うように剛角がそう返す。

「平和だと!? 無防備な相手を殺すことが、平和を守ることだというのか!?」

「影はこの世に害をもたらす存在です。 それを駆除するのは、アストとして当然の行動です」

影を虫ケラのように言う彼らに、ゴウマの怒りは頂点に達した。

「マインドブレスレットを返せ!! お前達のような人間にそれを持つ資格はない!!」

・・・その時だった!!


『・・・コロス』

突如、全員の頭の中に響き渡る3文字の言葉。

『・・・コロス」

「なっなんだ?」

闇鬼を含め、新生アスト達は辺りを警戒する。

もちろん夜光達も辺りを警戒し始める。

『・・・コロス』


「・・・ビンズ?」

ゴウマは、抱きかかえていたビンズの死体に向かってそう言う。

ビンズは確かに死んでいる。

だが、ビンズの体からは、言葉には言い表せないような何かを放出していた。


「なっなんだ? ポケットが熱い」

ゴウマは右ポケットから発せられる熱に気づき、中の物を取り出した。

「これは・・・シャドーブレスレット」

ビンズから預かっていたシャドーブレスレットから、熱が放出されていた。

それはまるで、ビンズの収まらない怒りを現わしているようであった。

・・・そして次の瞬間、夜光達の目に信じられない物が映った。


「コ・・・ロ・・・ス・・・」

そう言ってゆっくりと立ち上がったのは、死んだはずのビンズであった。

「ビンズ・・・お前・・・」

ゴウマにはこの現象について、1つ思い当たることがあった。

しかし、それはゴウマにとって、最悪以外のなにものでもなかった。


「バカな!! 貴様は確かに殺したはず!!」

ビンズが立ち上がったことには、周りの誰もが驚いた。

特に驚いたのは、自らの手でビンズを殺害した闇鬼であろう。


「う・・・うおぉぉぉ!!」

まるで獣の雄たけびのような声を出すビンズ。

それに反応するかのように、ビンズのシャドーブレスレットが紫色の光となって空を飛び、落雷のようにビンズの頭上へと落ちた。


『うわぁぁぁ!!』

辺りにいた者は、その落雷で吹き飛ばされた。


落雷が収まり、立ち上る煙がゆっくりと消えていく・・・そして。


「あっれは・・・スコーダー!!」

夜光達の目の前にいたのは、サソリのような姿をした、スコーダーであった。

全身からあふれ出る精神力は、電気として放出されていて、かつて夜光達が戦った時とはまるで別人のように強くなっていた。


「バケモノめ!! 今度こそ殺してやる!!」

そう言うと、蒼雪は手に持っていた拳銃をスコーダーに向け、すばやく発砲した。

その早打ちから、普通なら間違いなく命中するはずだが・・・

「・・・」

スコーダーは目にも止まらぬ速さでジャンプし、新生アスト達の前から姿を消した。


「どこへ行った!?」

武器を構え、辺りを警戒する新生アスト。

・・・その時。


「あがっ!!」

突然、声を上げた炎尾へ全員が視線を向けた。


そこには、後ろからレイピアで炎尾の心臓を貫いたスコーダーの姿があった。

炎尾はアストの中でも防御力が優れている。

装甲も見た目は軽く見えるが、アストの中で最も固い装甲でもある。

それをあっさりと貫き、まして心臓を一瞬で貫いた事実を、新生アスト達は受け入れることができなかった。

「いつの間に!!」

妖雅が驚いた瞬間、またもや持ち前のスピードで姿を消すスコーダー。

心臓を貫かれた炎尾はその場で倒れ、アーマーも解除された。

解除された炎尾から出てきたのは、黒髪の若い女性であった。

心臓を貫かれたため、胸からは大量の血があふれ出ていた。

その美しい口元からは、一筋の血が流れていた。


「このバケモノ野郎!! どこ行きやがった!! 俺がぶっ殺してやる!!」

仲間を1人失ったショックからか、ありえない光景に動揺したからか、剛角は無謀にも、1人でスコーダーを迎え撃とうとした。


「・・・」

そして、またもや突然現れたスコーダーが、剛角の装甲を貫いた。

・・・が、本体にレイピアが届く前に、スコーダーの気配を感じ取っていた旋舞の蹴りを受けてしまい、

その隙をつかれ、剛角に首を掴まれた。

「残念だったな、バケモノ。 このまま砕撃轟(剛角の斧)で真っ二つにしたやるぜ!!」

剛角が砕撃轟を振り下ろそうとした時、握っていたレイピアに強い電流を流し、そのまま剛角の内部に放出した。

レイピアはすでに装甲を貫いているので、電流はダイレクトに放出される。

「あがががぁぁぁ!!」

電流によって、関電する剛角。


怒りでアストを殺害していくスコーダーの姿を見ていたゴウマが涙ながらにこう叫ぶ。

「やめろ・・・やめてくれ!! ビンズぅぅぅ!!」


しかし、ビンズの心にその言葉が届くことはなかった。

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