第72話 平和を守る惨劇

ゴウマの温かな心の言葉によって、自分達の罪と向き合い、出頭することを決意したビンズ達。

ビンズ達は出頭する前に、リッシュ村の人達への手紙を書き、自らの手で届けに行った。

ゴウマを含めた全員が、ビンズ達の再出発を信じ切っていた。

・・・しかし、そんな彼らの希望も、突如起きた爆発によって、絶望への変わっていった・・・


時間をさかのぼること10分・・・

ビンズ達がリッシュ村に向かっていた道中でのこと・・・


自分達が書いた手紙を手に、どこかほがらかな顔を浮かべるビンズ。

その手紙には、自分達が影として強盗殺人を犯していたことと、その罪を償うために出頭し、また一から人生をやり直すという、ビンズ達の決意が書かれていた。


「みなさん、本当に申し訳ありませんでした。 私なんかについて来て頂いただめに・・・」

歩きながら、思わずそう呟くビンズ。

ビンズは出頭することに迷いはなかった。

だが、従業員達を巻き込んでしまったことに関しては、まだ強い後悔が残っていた。


「ビンズさん、どうか謝らないでください。 私達は自分の意志であなたについてきたんです。

罪を償う覚悟なんて、最初からできていますよ?」

ハロは歩みを止めず、ビンズの後悔を取り除こうと言葉を発する。

それに続いて、コトルも「そうですよ! ビンズさん!」と明るい声を掛ける。


「・・・ところで、ビンズさん。 こんな時に聞くのもなんなのですが、我々が集めたお金はどうするんですか?」

ハロとコトルが優しい言葉を投げかける中、なぜか金に関する質問を投げかけるパーク。

「パーク。 こんな時にお金のことなんてよしなさい!」

不謹慎な質問を投げかけたパークを叱るハロを、ビンズは「いいんですよ」となだめ、パークの質問にこう返す。

「・・・パーク。 お金はゴウマ様に任せることにします。 あの方ならきっと、良い判断を下してくれるでしょう」

「しかし! あの金の中には、犯罪によって集められた金も入っています!

そう言った金は大抵、国が所有することになります!

そうなれば、リッシュ村のような貧しい村は貧困に苦しんだまま、大臣や王族のような高貴な人間達が、より贅沢な生活をすることになるんですよ!?」

「・・・そうかもしれませんね。 ですが、そんな高貴な人間の中にも、ゴウマ国王のように人を思う心を持っている方もいるのです。 彼のような男がいれば、貧困という苦しみから大勢と人達を救ってくれると、私は信じています」


”ゴウマを信じる”。 それはビンズ自身の本音であり、出頭という決意は変わらないということ。

「・・・そうですか・・・”残念です”」

「えっ?」

パークの最後の言葉が気になり、ビンズが思わず聞き返した時であった。


突然の銃声と共に、ビンズは脇腹を撃ち抜かれた。

「うっ!!」

その場に倒れ込んだビンズ。

急所は外れているため致命傷にはなっていないが、痛みで身動きが取れなくなった。

「「ビンズさん!!」」

慌ててビンズを介抱するハロと、状況が飲み込めずにパニックを起こすコトル。


「やっと見つけたぞ・・・スコーダー」

そう言いながら彼らの前に現れたのは、機械の鎧に身を包んだ集団【新生アスト】であった。

その中で、拳銃を握りしめている蒼雪

スノーラのアスト

を見て、先ほどの銃撃は彼らの仕業だと、ビンズ達は感づいた。


「いきなり何しやがる!!」

激情したコトルが、新生アスト達に喰って掛かる。

その質問に答えたのは、リーダーである闇鬼(夜光のアスト)であった。

「我々は新生アストである。 この心界の平和を脅かす邪悪な存在である影の1人、スコーダー。

貴様をこの場で討伐する!!」

闇鬼の言葉を聞き、脇腹を抑えて止血していたビンズが質問を投げつけた。

「なっなぜあなた達がそれを!?」

ビンズの質問に返答したのは、思いもよらぬ人物であった。


「私がお呼びしたんですよ・・・ビンズさん」

そう返したのは、先ほどまでビンズと肩を並べて歩いていた男【パーク】であった。

パークは新生アストに歩み寄り、まるで裏切りを示すかのように、闇鬼と肩を並べた。

それには、ビンズ・コトル・ハロの3人は、言葉を失うほどのショックを与えられてた。


「な・・・なぜ君が・・・」

振り絞るような声で、パークに問いかけるビンズ。

「あなたが悪いんですよ?ビンズさん。 あれだけの金を集めたにも関わらず、それを貧乏くさいリッシュ村の連中の生活費にあてるあなたがね」

リッシュ村を侮辱する発言に、ハロは怒りを露わにする。

「何を言っているの!? 私達がお金を集めてきたのは、全部リッシュ村のためだったじゃない!!」

「冗談じゃない。 私があなた方と共に強盗団をしていたのは、金のためです。

強盗団に入ったのも、楽に大金が手に入るからですよ。

でなければ、あんな薄汚いギルドに何年も務めたりしませんよ」

「パーク、テメェ・・・ふざけるな!!」

怒りに我を忘れたコトルは、拳を固めてパークに向かって走り出した。


「ごふっ!!」

パークに近づく前に、旋舞

ライカのアスト

がすばやくコトルの腹部に蹴りを入れた。

コトルは腹部を抑えたまま、その場に膝を付いた。

あばらの何本かが折れたようで、腹部に激しい痛みを感じるコトル。

その顔には、悔しさと怒りがにじみ出ていた。


「ふざけているのはどっちですか? 強盗殺人なんて犯罪を犯しておきながら、奪った金を貧乏人共に分け与えるなんて、正義の味方にでもなったつもりですか?」

まるで嘲笑うかのような目で、ビンズを批判するパーク。

大抵の人間は強盗を行う場合、自分の利益だけを考えて金を奪うのが普通だ。

ビンズのように、他人の支えにするために金を奪おうとする人間は、いたとしてもわずかだろう。

それを考えたら、パークの考えは強盗犯としては普通なのかもしれない。


「・・・私は金を奪い、人を殺した。それがリッシュ村のためだと思ったからだ。

だけどそれは、自分1人の力でどうにかしようと考えてしまった私の過ちだ。

その結果、ゴウマ様を傷付け、君は金という強大な力に惑わされてしまった。

・・・申し訳ない。 私がふがいないばかりに・・・」

ビンズは裏切ったパークに怒るどころか、自分のせいでこんなことになってしまったと、謝罪した。


「なんで謝るんですか!?ビンズさん!! 悪いのは裏切ったパークの奴でしょう!?」

ビンズの謝罪に納得できないコトルは腹部の痛みを忘れ、怒りに身を任せて声を上げた。



「・・・ビンズさん?」

木々の暗闇から現れた人物に、ビンズ達は驚きを隠せなかった。

その声は、長年リッシュ村を共に支えてきたリッシュ村の村長であった。


「村長・・・なぜここに」

驚きのあまり、止血している手から力を抜きそうになってしまったビンズ。

「先ほど、銃声のような音がしたので、様子を見に来たんです・・・それより、これはどういうことなんですか? なぜビンズさんが血を流しているのですか?」

状況が飲み込めず、動揺する村長に、闇鬼がこう説明する。

「そのビンズと言う男は、影のメンバーの1人、スコーダーです。

奴は、あなた方の村を救いたいなどと言う理由から、あちこちから金品を強奪し、尊い国民の命を奪ってきた極悪人です」

「ビンズさんが・・・影?」

村長は驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

それはこの場にいる誰もが当然の反応だろうと思っていた。

自分の近くに、強盗殺人犯がいれば、誰でも驚き、拒絶する。

どんな理由があれど、それは避けては通れないことだと、ビンズは悲しみを押し殺して理解しようとしていた。


「・・・申し訳ありませんでした。 村長」

リッシュ村のためとはいえ、親友とも言える村長を欺いたことに対し、謝罪の言葉を述べるしかないビンズは、自分がみじめで仕方なかった。

・・・しかし、村長の口から思いもよらぬ言葉が出てきた。


「・・・いいえ、謝るのはこちらです」

そういうと、村長はゆっくりと立ち上がり、ビンズの元へゆっくりと歩み寄る。

「あなたが私達の村のために、そこまでしてくださっていたなんて、知りませんでした。

思えば・・・私達はいつもあなた方に甘えてばかりで、あなた方の苦労を知ろうとしたことがなかった。

いつも自分達のことばかり考えて、心のどこかで、あなた方がいることが当たり前とさえ、思ってしまっていました」


村長は、ハロに介抱されているビンズと目線が合うように、膝を曲げる。

「村を思って頂き、ありがとうございました。 ビンズさん。 そして、申し訳ありませんでした」

「村長・・・」

ビンズは思わず涙を流した。

こんな自分を受け入れ、感謝と謝罪を述べてくれた村長。

彼の温かな言葉で理解した。

自分達の行動は間違っていたが、村を救いたいと思う気持ちは間違ってはいなかったのだと・・・


村長は再び立ち上がると、新生アストに頭を下げて懇願する。

「どうか、ビンズさん達にやり直すチャンスをください。 お願いいたします」

「村長、自分が言っていることがおわかりか? あの男は影です。

このまま放っておけば、また多くの命が危険にさらされてしまうかもしれません。

この場で葬った方が賢明だと思いますが?」

闇鬼はこの場での処刑をやめようとはしない。

だが、村長は食い下がる。

「お願いいたします! ビンズさん達が罪を犯した原因は、私達にもあります!

だからどうか命だけは、勘弁してください!!」

ついには、土下座までしてビンズ達の命乞いをする村長。

その姿に、ビンズ達は涙を流しながら、村長に感謝した。


「・・・仕方ありませんね」

闇鬼はやれやれと首を横に振り、そう呟く。

「あっありがとうございます!!」

村長は、ビンズ達が許してもらったのだと喜んだ・・・が。

「えっ?・・・」

闇鬼は、すばやく右足に装備していたシェアガンを手に取ると、村長の額を撃ち抜いた。

村長の額から血が噴き出し、体はそのままあおむけに倒れた。

ビンズ達は一瞬何が起きたのかわからず、思考が停止してしまった。


「そ・・・村長ぉぉぉ!!」

村長を大声で呼び、脇腹の痛みを忘れて、村長の元に駆け寄るビンズ。

「村長!! 村長!!」

どれだけ呼んでも、村長が目覚めることはない。


「おっお前・・・何してんだぁぁぁ!!」

村長の死に激情したコトルが、そばにあった木の棒を手に取り、闇鬼に向かって走り出した。

「コトル!! やめなさい!!」

ハロの静止も聞かず、コトルは闇鬼に殴りかかろうとする。

・・・しかし、闇鬼の元にたどりつく前に、旋舞の放った風の刃によって、あっけなく首を切断された。

コトルの首からは、噴水のように血が引き出し、首が地面に落ちると同時に、体もその場で力尽きた。

「心界の平和を守る我々アストに、武器を向けた報いだ」

コトルの首に、旋舞は冷たくそう言い放つと、コトルの首を踏み潰した。


「コトル?・・・いやぁぁぁ!!」

その悲惨さに、ハロは目を覆った。


「なぜ・・・なぜ、殺したぁ!?」

新生アストに向かって、怒りのまま質問を投げかけるビンズ。

「その男は、影と知ってなお、貴様を庇おうとした。

それはこの心界に住む者たちにとっては、許しがたい裏切り行為である。

心界の平和を守る我々にとっては、当然のことだ」

闇鬼はそう言うと、炎尾

セリナのアスト

に向かって、恐ろしい命令を下す。

「炎尾・・・連帯責任だ。 村を焼け」

「了解」

その言葉に、ビンズは「やめろぉぉぉ!!」と止めに入るが、すばやく闇鬼が左手でビンズの首を掴み、捕えた。


「やめろ! 村の人達は関係ない!!」

「彼らは盗んだ金品によって、生活をしていたのだろう?

そんな寄生虫のような人間など、この国には必要ない」

「彼らも国が守るべき国民ではないのか!?」

「ふっ・・・愚かな。 善良な国民と薄汚い貧乏人を一緒にされては困る」


「メテオ!!」

エクスティブモードとなった炎尾が爆炎杖を振りかざすと、上空に巨大な火球が現れ、リッシュ村へと落ちた。

リッシュ村は炎と煙に包まれ、火の海となって、焼失した。


闇鬼達のあまりにも、冷酷な言葉に、ビンズ以上に温厚であったハロも怒りに立ち上がる。

「何が平和を守るよ!! あんた達がやったことは、ただの人殺しじゃない!!

あんた達に比べたら、ビンズさんの方がずっと立派よ!!」

ハロが怒りの言葉を口にした瞬間、いつの間にかハロの後ろにいた剛角

ルドのアスト

が右腕でハロの首を絞めた。


「ハロさん!!」

助けに行きたいが、ビンズ自身も闇鬼に捕まっているため、動けない。


「老いぼれが・・・我々アストを侮辱した報いを受けるがいい」

剛角は右腕に力を入れ、ハロの首を絞め続ける。

「お・・・お前達は・・・悪魔よ・・・」

その言葉を最後に、ハロは二度と動かなくなった。


そして、闇鬼はシェアガンの銃口を首を掴んでいるビンズの心臓に向ける。

「スコーダーよ。 これまでの悪行を悔いて、地獄に落ちるがいい」

闇鬼はシェアガンの引き金に掛けてある指に力を入れる。


「・・・許さない・・・お前達だけは絶対に!!」

怒りと憎しみによって、鬼のような形相となったビンズは、ランを殺したマッド以上の殺意を新生アストに抱いた。


そして銃声と共に、ビンズの命は尽きた・・・

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