第60話 アスト解散
影のメンバーであるスパイアとの戦いで重傷を負った夜光達。
エアルとレオスの手当てによって、なんとか一命を取り留めた。
しかし、ゴウマはエアル達の心の闇を払えず、深い悲しみに心を痛めていた。
スパイア戦での敗北から2日経ち、ホーム内ではレッドフェスティバルの後片付けを行っていた。
夜光達マイコミメンバーも、喫茶店の片づけに専念していた。
「ねぇ、スノーラちゃん。壁に飾ってあった折り紙や絵はどこに置くの?」
壁の飾りを取っていたセリナが、拭き掃除を行っているスノーラに尋ねる。
「それは物置きの適当な箱に入れて置いてください。 わかりやすいように目印のようなものもつけて」
「りょうか~い」
忘れないようしっかりとメモするセリナの後ろから、客用に使っていたテーブルと椅子を持ち上げているルドがスノーラに尋ねる。
「スノーラ。 このテーブルと椅子ってどこから借りたんだっけ?」
「それは2階の突き当たりにある面談室から夜光さんに持ってきてもらったものだ」
「わかった。 じゃあちょっと運んでくる」
ルドは重いテーブルと椅子を持ったまま、顔色一つ変えずに、マイコミルームから出て行った。
セリア、ライカ、キルカの3人はほうきを片手に、マイコミルームの掃き掃除を行っていた。
「「・・・」」
掃き掃除をしつつ、セリアとライカの視線はキルカに注がれていた。
「・・・」
なんとキルカは眠ったまま、掃き掃除を行っていた。
しかも適当に掃いているのかと思いきや、しっかりゴミを集めている。
本人の解説によると、これはいつ睡魔に襲われるかわからないキルカは、眠ったままでも行動できるように特殊なトレーニングしているとのこと。
トレーニング内容は不明だが、本人はまだまだトレーニング不足だと言う。
そのため、起きろと言い難い空気が漂っている。
「・・・はあ。 こいつのことは放っておきましょう・・・あっセリア。 ゴミ袋の底が敗れたみたいだから、新しいものを取ってきて」
「はっはい」
持っていたほうきを立てかけ、ゴミ袋を取りに行こうとキルカとすれ違った時!
「・・・!」
「えっ?・・・きゃあ!」
セリアは突如悲鳴を上げ、その場で胸を抑えながらしゃがみこんでしまった。
「どっどうしたのよ?」
ライカの問いかけに、セリアは震える口でこう言う。
「わわ・・・私の・・・ぶっブラジャーが・・・」
ブラジャーと聞いた瞬間、ライカはすぐさまキルカに視線を向けた。
「ってやっぱりあんたか!!」
案の定、キルカの手には、可愛らしい花柄のブラジャーが握られていた。
普通よりかなり大きいサイズのブラジャーなので、セリアのもので間違いない。
「あんた。本当に寝てるの?」
「・・・」
後にキルカはこの現象について、「眠っていても本能的に体が動いてしまう」と語っていた。
気を取り直して、後片付けを再開していると、先ほどテーブルと椅子を運んで行ったルドと、疲れ切って今にも倒れそうな夜光がマイコミルームに入っていた。
「しっ死ぬ・・・」
夜光は、ぼそりとそう呟きながら、そばにあったソファに横になった。
「クソッ!! どいつもこいつもケガ人をこき使いやがって!!
ここはブラック企業かよ!!」
愚痴をこぼしながら、腹部のケガをさする夜光。
スタッフである夜光は、マイコミの後片付け以外にも、ほかのデイケアプログラムの後片付けのお手伝い(主に力仕事)を任せられている。
夜光は朝からあちこちに駆り出され、2時間ずっと働いていたのだ。
本当ならケガをした夜光には、極力労働をさせないようにする予定だったのだが・・・
昨日の深夜、夜光は料理プログラムが使う調理場に侵入し、冷蔵庫から肉や魚を盗み、堂々と調理場で焼いて食べていたところを警備員に見つかり、御用となってしまったのだ。
それを聞いたゴウマはあきれ果て、罰としてマイコミ以外のプログラムの後片付けの手伝いを命じられたというわけである。
「自業自得だ」
ルドのなんとも言えない言葉に、メンバー達は頷く。
「全く。 いい大人が盗み食いなんてして、恥ずかしいと思わないのですか?」
「仕方ねぇだろ? 俺は肉を食って失った分の血を取り戻さないといけないんだ!」
スノーラの質問に対し、全く反省の色を見せない34歳。
「だったら外食にでも行けばいいでしょ?」
「金がねぇんだよ!」
「それはあんたが酒代や女遊びに使うからでしょ? この際、女と酒を封印して真面目にお金を貯めたら?」
ライカの最もな意見に、夜光は猛反論する。
「冗談じゃねぇ!! 俺から酒と女を取ったら何が残るんだよ!? 封印なんかしたら俺は理性のない野獣になるぞ!!」
「・・・もうなってるじゃない」
ライカが半眼でそう呟いた後、メンバー達は嫌がる夜光に無理やり後片付けを手伝わせるのであった・・・
嫌々とはいえ夜光が加わったことで、後片付けはスピーディーになり、マイコミルームはあっという間に、いつもの姿に戻った。
床や壁も綺麗になり、とても新鮮な気分になれた。
そして、ちょうど後片付けが終わった直後に、ゴウマがマイコミルームに入ってきた。
「ゴウマ国王。 どうしたのですか?突然」
いち早くゴウマに気づいたスノーラを筆頭にメンバー達がゴウマのそばに歩み寄る。
「突然すまないな。 少しみんなに話があるので、全員地下施設に来てくれないか?」
「ここじゃあ、まずい話なのか?」
夜光がそう尋ねると、ゴウマは静かに頷いた。
「重大な話なんだ」
ゴウマの表情から、どれほど重大かが読み取れた夜光達は、何も言わずに地下施設へと向かった。
地下施設にある作戦指令室。
ここでゴウマはアスト達に指示を出したり、戦況を把握したりしている部屋。
あちこちには、影の反応をキャッチする機械や撤退時に使用する転送システムを操作する機械など、様々な機械が並んでいる。
「それで?親父。 話ってなんだ?」
夜光にそう聞かれると、ゴウマは一瞬だけ夜光達から目を背けるが、何かを決意したかのような目で再び夜光達に視線を戻すと、はっきりとした口調でこう言い放つ。
「単刀直入に言おう。 今日をもって・・・アストを解散する!」
『!!!』
それは衝撃の言葉であった。
「ちょっちょっと、お父さん! どういうこと!?」
セリナがそう尋ねた直後、スノーラはあることを思い出した。
「もしかして、私達が赤い剣士に敗れたからですか?」
3日前、夜光達は影の1人である赤い剣士”スパイア”に、ほとんど手加減されたまま敗北してしまった。
スノーラはその敗北が原因かと考えていたが、ゴウマは首を横に振る。
「いや。 きっかけはそうだが、これは少し前から考えていたことだ」
「どっどういうことですか?」
冷静なスノーラでも若干、戸惑いを見せ始めていた。
「ワシはアストが君達を選んだという理由だけで、君達をアストとして戦わせていた・・・だが、騎士団でも兵士でもない君達を戦わせることが本当に正しいことなのか、ずっと疑問に思っていた」
「待ってくれよ! オレ達は自分でアストとして戦うことを選んだんだぜ?」
ルドの言う通り、ここにいるメンバーは、ゴウマにアストとして戦ってほしいと頼まれはしたが、全員き拒否することはできた。 もちろん拒否しても、ゴウマは一向にかまわないと思っていた。
「・・・そうだな。 だが、そんな君達の優しい言葉に甘えてしまったために、君達を危険にさらしてしまった挙句、命まで失わせてしまいそうになってしまったんだ」
スパイアに敗北した後、もしエアル達がそこにいなければ、もしかしたら、ここにいる誰かが命を落としていたのかもしれない。
ゴウマにとって、それは影に負けることよりも恐れていることなのである。
・・・そし次の瞬間、ゴウマは驚愕の行動を取った。
「・・・みんな・・・本当に申し訳なかった」
『!!!』
なんとゴウマは夜光達の目の前で土下座したのであった。
ゴウマはこのディアラット国の王だ。
王にとって土下座がどれほど、恥ずべき行為なのかは、異世界から来た夜光でも理解できる。
「おっおやめください!お父様!」
セリアとセリナは、土下座する父に思わず駆け寄る。
その様子を見ていたキルカが、口元を緩ませてこう言う。
「やれやれ。 国のトップに立つ男が簡単に頭を下げるとは・・・情けない」
「ちょっとキルカ! そんな言い方はないでしょ!? ゴウマ国王はあたし達のことを思って・・・」
キルカの嫌味ったらしい言葉に怒りを覚えたライカ。
言い争う前に、ゴウマは大声で2人に言い放つ。
「やめろライカ!・・・キルカの言う事は最もだ!・・・だがキルカ。 ワシは国王として頭を下げているのではない。 ゴウマウィルテットという1人の人間として、君達に頭を下げているんだ。
今まで危険な戦いをさせておいて、こんなことでしか償いをすることができない自分が一番情けなく思っている・・・」
「・・・」
冷めたような目でゴウマを見るキルカであったが、別にゴウマを軽蔑しているわけではない。
ただ、ゴウマが言葉通りの思いで、土下座をしていることは理解できた。
ゴウマはセリア達の肩を借りるような形で再び立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。
「・・・みんなにはマインドブレスレットを返却してもらいたい。
君達のアストとしての任務は今日で終わりにする。
だができれば、マインドコミュニケーションは今まで通り続けてほしいと思っている」
『・・・』
メンバー達は決断できないまま、沈黙が続いた・・・
「・・・わかったよ」
その沈黙を破ったのは、夜光であった。
夜光はマインドブレスレットと闇神の指輪を外し、ゴウマに手渡した。
「・・・夜光」
「俺は別にやりたくてやっていた訳じゃねぇし、土下座までした親父の気持ちを無視する理由はない。
それと指輪も邪魔だから渡しておく」
『・・・』
夜光の言葉を聞き、メンバー達(キルカは覗く)は一斉にマインドブレスレットを外した。
「・・・わわ私は、お父様がそうおっしゃるなら、そっそれに従います」
「私も。 ちょっと驚いたけど、お父さんが私達のことを思って言ってれたのはわかったから」
「戦いから逃げるみたいで抵抗があるけど、ゴウマ国王に土下座までされたら、オレにも断れねぇ」
「まあ、アストなんてバイト感覚でやってただけだし、別に惜しくもないわ」
「元はと言えば、我々の敗北が原因です。 ゴウマ国王の気持ちを無視する資格などありません」
メンバー達も夜光に続いて、マインドブレスレットをゴウマに返却する。
「・・・みんな。 今まで本当にありがとう」
みんなへの感謝と共に、再び頭を下げてしまったゴウマであった・・・
その日の夜・・・
ゴウマは施設長室で、きな子とアストの件について電話をしていた・・・
『・・・そうか』
「勝手なことをして申し訳ありません」
『いや。 ゴウマちゃんの気持ちもようわかるからな。 気に病む必要はないで?・・・でもアストはどないするんや?』
「・・・まだ考えていません。 今の所アストを装着できる、強い精神力を持っているのは彼らだけなので」
『その強い精神力が問題やねんな。 その条件さえなかったら、騎士団に押し売りに行くのに!』
「ふふ。 相変わらずですな・・・ところで、そちらから何か騒がしい声が聞こえますが?」
ゴウマの受話器から聞こえるのは、「このー!!」、「とりゃ!!」といった雄たけびのような女の声
『・・・あぁ。 女神様が犬のぬいぐるみと戦ってんねん』
「なんでまた・・・」
お菓子とかき氷を奪われた腹いせに、女神はわざわざ犬のぬいぐるみを買ってきて、八つ当たりをしているのだ。
『難しい年頃やねん。 そっとしといたって』
「・・・はあ」
『まあ、アストの件はウチもなんか考えとくわ』
「ありがとうございます」
『ほな。お休みや!』
きな子との電話が終わり、帰宅する準備を始めた時!
「・・・んっ?」
自室の電話が鳴りだした。
「こんな時間に誰からだ?」
ゴウマは受話器を取り、耳に当てる。
「もしもし?・・・あぁ、君か。 こんな時間にどうしたんだ?」
それは、夜光達に待ち受ける次なる物語への始めりの電話であった・・・
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