第59話 分かり合えない心

影の1人【スパイア】。その圧倒的な力の前に、夜光達は手も足も出ずに敗北した。

とどめをさそうとしたスパイアの剣を止めたのは、なんと影の1人【エアル】であった。

スパイアを立ち去らせた後、エアルは同行していたレオスと共に、重傷を負った夜光達の手当を開始したのであった・・・


エアルが夜光達に手当を施している頃、ホームでは突如近くで起きた爆発によって、客もデイケアメンバー達もパニック状態になっていた。

誠児や笑騎を含めたスタッフ達に、場を収めるように命じたゴウマは、単身で林へと駆け出した。


林にたどり着いたゴウマの目に映ったのは、林の木々を包み込むほどの火とレオスが生み出した影兵達の姿であった。

「一体何が起こったんだ? なぜ影兵が?」

影兵達はすぐそばにいるゴウマを見もせず、自らの体を土に変化させて火に覆いかぶさり、鎮火して回っている。

それは、レオスが消火を命じた影兵達である。

レオスの影兵は土でできているため、アストに倒されでもしない限り、自由自在に土に変化したり戻ったりできる。

「どうやら、消火だけを命じられているようだな・・・」

影兵は意志を持たない分身体であるため本体の命令以外のことは決して行わない。

なので消火だけを命じられている影兵達は、襲ったりはしない。

そう理解したゴウマは、林の中へと進んでいった。


林の中でゴウマが見たものは、とても受け入れられない光景であった。

「みんな!!」

それは重傷を負って意識を失っている夜光達。

そして、彼らに手当を施しているエアルとレオス。

ゴウマは思わず一番近くにいたセリアを抱きかかえた。

「セリア!!しっかりしろ!!セリア!!」

ゴウマが必死に呼びかけても、セリアは返事をしない。

「一体これは・・・・」

動揺するゴウマをなだめるように、ルドの手当をしているレオスが口を開く。

「落ち着けよ、ゴウマ国王。 やけどやケガはしているが、女達は死んじゃいねぇ」

「一体これはどういうことだ? 夜光達がどうしてこんなことに・・・」

「すまねぇな。 俺達の身内が少し暴走しちまって。 詫びって訳でもねぇけど、今は俺とエアルで手当てをしたいるって訳だ」

親しそうにそう語るレオスに、エアルはこんなことを口にする。

「レオス。 まずは手当てを急げ、人命が掛かっている」

エアルにそう言われると、レオスは「へいへい」とダルそうに答え、手当てに専念する。

ゴウマはセリアを地面にそっと降ろし、エアルの元へと歩み寄る。

エアルが手当てを施している夜光の腹部には大量の血が付着していた。

「・・・夜光は助かるのか?」

ゴウマがおそるおそるエアルにそう尋ねると、ゴウマは手当てをしたままこう答えた。

「命に別状はない。傷もあと少しで癒える・・・だが出血がひどい。 今は彼の脅威的な生命力で持ってはいるが、急いで輸血をする必要がある」

「わかった! すぐに近くの病院に手配する!」

ゴウマはそう言うと、緊急用の小型電話をポケットから取り出し、病院に連絡を取った。


一通り夜光の手当を終えたエアルは、レオスにこう告げる。

「レオス。 彼女たちの手当てを終えたら、彼女たちを病院まで運べ」

「おいおいそこまでするのか?」

「人を呼んで運ぶより、我々が運んだほうが速い」

「ったく。俺は衛生兵になった覚えはねぇぞ?」

エアルの言葉に呆れるほかないレオス。

「嫌なら別に構わん。 私1人でも問題ない」

「だからその嫌味な言い方はやめろっての!!」

などと言い合いながらも、手当てを終えたレオス。

するとレオスは突然シャドーブレスレットを操作し、アーマーを解除した。

解除したアーマーから出てきたのは、まるで熊のようなごつい大男であった。

「さすがにあの姿のままで、病院に入る訳にはいかねぇわな」

レオスは大きなため息をつきながらも、セリア達5人をいっぺんに担ぎあげた。

それと同時に、エアルも夜光を抱きかかえるとゴウマに向かってこう言う。

「輸血を手配した病院に案内しろ」

その言葉に、ゴウマは迷うこともなく「わかった」と返した。


ゴウマの案内で、近くの病院まで夜光達を運ぶエアルとレオス。

人間以上の力を持つ彼らのおかげで、予想以上速くに早く病院に到着した。


それからまもなく、夜光達は病院のスタッフによって治療室に連れていかれた。

ゴウマ達もその後に続き、治療室前で待つことになった。


心配で胸が張り裂けそうになるゴウマ。

壁に寄りかかって治療が終わるのを待つエアル。

ソファで大の字で爆睡しているレオス。


全員の無事を祈るほかないゴウマの心には強い後悔は溢れていた。

「なぜ・・・影の反応に気づくことができなかったんだ? ワシがすぐに気づいていれば・・・」

そう呟くゴウマに、エアルは小さく口を開く。

「彼らが戦ったスパイアには、【アサシンモード】という能力がある。自分の姿や気配を消すだけでなく、近くにある機械を狂わせるほどの精神力を放つことができる、奴にしかない能力だ。

仮に影の反応をキャッチしたとしても、通信や転送システムが使えないあの状況では、結果はそれほど変わらなかっただろうがな」

「・・・どうして彼らを助けてくれたんだ?」

「人殺しの私が言うのもなんだが、目の前で傷を負った者がいれば、助けるのが当然のことではないのか?」

「・・・そうだな・・・ありがとう」

「礼を言われることではない・・・それに元はといえば、我々の不手際が原因だ・・・申し訳ない」

ゴウマに深く頭を下げるエアル。

しかしゴウマは、「お前こそ、謝る必要はない」と優しく告げた。


夜光達が治療室に入って2時間ほど経った時、治療室から医師が出てきた。

「夜光達は!?」

ゴウマは心配のあまり、大声で医師にそう尋ねると・・・

「男性の方は今、輸血を行っているところですが、命に別状はありません。

その他の方々も軽傷で、心配いりません」

それを聞き、ゴウマはようやく安堵の表情を浮かべた。

しかし、医師は不思議に思っていた。

夜光の体からは大量の血液が失っていたにも関わらず、致命傷となった傷がない。

やけどを負ったと聞いていたのに、セリア達のやけどはほとんど治っている。

まさか、影の力で応急処置を施したなどとは、夢にも思わないだろう・・・


治療室から病室へと移動された夜光達。

全員ぐっすりと眠っていて、その寝顔を見たゴウマは安堵のあまりに涙を流した。

夜光達の無事を確認したエアルは、病室を後にしようとする。

「レオス、行くぞ。 もう私達がいる必要はない」

「ふああ~。まだ眠いんだけどな」

大あくびをしながらも、ゆっくりとエアルの後に続くレオス。

背を向けて立ち去ろうとする彼らに、ゴウマは思わずこう言う。

「・・・エアル。 まだ人殺しを続けるのか?」

エアルは振り向きもせずに、ただ「・・・あぁ」とだけ返す。

「なぜだ!? これほどまでに人を思う心を持つお前が・・・いや、お前たちが、なぜ人を殺し回っているんだ!?

どうして何も言ってくれないんだ!? お前達がそうやって押し黙ったまま、人殺しを続けていくから、世間では、影を悪魔や魔物のような存在だと認識されているのだぞ!!」

「その認識に間違いはない。 私達は人を殺し回っている悪だ。

たとえ何人の命を救おうと、その事実は変わらない」

「話し合うんだ!! 話し合えばきっと、ワシ達はお互いを理解し合えるはずだ!!」

ゴウマは真剣に、影との交渉を望んでいる。

もちろんそれは、エアルもレオスもわかっている。

「・・・かもしれんな・・・だがたとえ理解し合えたとしても、我々は剣を置く気はない」

そう言い残し、エアルとレオスは病室を後にした・・・

ゴウマはその場で膝を付き、大きな悲しみに耐えるように、両手を強く握り閉めた・・・


その翌日・・・

ゴウマからの連絡を受けた誠児と笑騎とマナは、夜光達のいる病院へお見舞いに向かった。


「・・・失礼します」

ノックの後、誠児が病室のドアを開けると、中では予想以上のことが起きていた。

「いたたた!!やめろぉぉぉ!!」

夜光はなぜか床に倒れており、マイコミメンバー達によって踏みつけられていた。

「なっなんだ?これ?」

誠児と笑騎があまりの光景にぽかんとしていると、マナが病室の隅で小さくなっているナースに声を掛けた。

「あの~、これってどういう状況なんですか?」

ナースはおそるおそる口を開く。

「そっそれが、先ほど時橋さんに「私が退院したら、お茶でもいかがですか?」と言われまして。

そうしたら突然みなさんが起き上がって、時橋さんを踏みつけ始めたんです」

『・・・あぁ。 そういうことか』

ナース自身はわかっていないようだが、3人はこうなった原因を理解したのと同時に、夜光達は元気であることがわかったので、一旦病室から出ることにした・・・


その後、大ケガをしたはずの夜光達は、わずか1日で退院してしまった。

影達のヒーリングが効いたのか、それとも彼らの生命力が異常なのか。

理由はよくわからないが、夜光達はその足でホームへと戻っていった・・・


ホームでは、スタッフや一部のメンバー達がレッドフェスティバル最後の目玉である花火大会の準備をしていた。

夜光達がいなかった間、マイコミ喫茶は最初は誠児とキルカとマナが切り盛りしていたが、セリアがくれたお菓子の恩返しをしたいとやってきた女神が加わり、店は大繁盛だった。


そして退院してきたセリア達もウエイトレスに戻り、接客を再開する。

夜光はケガを理由に、裏方を辞退させてくれと懇願するが、マイコミメンバー達から

『いいから働け』という鶴の一声によって、断念した・・・


そしてその夜、花火を見るために屋上に上がった夜光達。

「ごめんね。 セリナちゃんが大ケガをしている時に、私、何もできなくて・・・」

「ううん、マナちゃんは悪くないよ。 それにこうして一緒に花火が見れるんだから、もっと笑顔で見ようよ!!」

「・・・うん!!」

セリナのために何もできなかったと自分を責めるマナに、セリナは満面の笑顔で抱きしめた。


「・・・そういえばリックの件はどうなったんだ?」

「昼間にゴウマ国王から聞いたのだが、マスクナさんが後日、正式にリックの死亡を発表するようだ。

もちろん、リックのこれまでの悪事も全てな」

「すげぇよな。 劇団の人気が落ちることを覚悟にそんな発表をするなんて」

リックはトレック劇団でも、トップの実力を持つ役者である。

そんな男が、薬物に手を出した上に、ガウンに劇物を飲ませて、役者人生を絶った。

個人のこととはいえ、劇団の人気が落ちることは間違いないであろう。

「だが、真実は世間に伝えなければならない。 どんなデメリットがあろうとも、それが人としての責任だ」

ルドとスノーラは、現実の厳しさを1つ学び、夜空を見上げた。


「いい加減にしなさいって言ってんのよ!この変態女!!」

「何を言う。 我のおかげでクリプトスを飲まずに済んだのだぞ? 

ならば感謝の証に、我と熱い夜を過ごすのが常識であろう?」

「そんな常識があってたまるかぁぁぁ!!」

キルカの魔の手から逃げ回るライカ。

「お二人さん!! ぜひ俺もその夜に参加させてもらえませんでしょうか!!」

キルカとライカに向かって勢いよくダイビングする笑騎・・・が。

「ごべばっ!!

2人はタイミングよく、笑騎をかわし、2人で腹部を思い切り蹴り上げた。

「・・・幸せや」

空高く舞い上がり、そのまま床に激突した笑騎は、まるで、天使を見たようなすがすがしい顔でそう呟き、意識を失った。


「なるほど。 次のコンセプトは百合にするか・・・ヌフフ、きっと儲かるで」

新たなネタを掴んだきな子が、ライカとキルカを物陰から見ながら、カメラを準備し始めたのであった。


「血が足りねぇ・・・」

そう呟きながら、まるで漫画のような巨大な骨付き肉にかぶりつく夜光。

さらには酒瓶を手に、豪快に飲む始末。

「腹に穴が空いた割には元気だな」

皮肉っぽくそう言う誠児に、夜光は「男のケガなんて肉と酒と女があれば治る!!」と断言する。

隣にいたセリアが、「そうなんですか?」と夜光に尋ねるが、誠児はため息をつい一言。

「真に受けないでくれ・・・」


そして、花火が空に舞い上がった。

夜空には無数の花火が、太陽のように輝き、夜の闇を照らしていた。

・・・そして、全員でこの言葉を叫ぶ。

『たーまやー!!』


「・・・やっぱり夏にはかき氷ですよね~」

花火を見ながらおいしそうにかき氷を食べる女神に、忍び寄る影・・・

「ワン!!」

ブラックドギーは、女神のおかき氷を一瞬で、奪い去った。

「あぁぁぁ!! 私のかき氷ぃぃぃ!!」

最後の最後に、犬に振り回される女神の叫びは、花火の音によってかき消されたのであった・・・


同時刻、施設長室の窓から花火を見ながら、ゴウマはこう呟く。

「・・・ワシは、間違ったことをしているのか?」

それは、ゴウマの”ある考え”を表す言葉であった・・・

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