第58話 沈黙の剣士

逃げ出したリックを追って、ホーム近くの林に入った夜光達。

捜索の中彼らの目に飛び込んできたのは、リックの死体と血に塗れた剣を持つ赤い剣士の姿であった。

夜光達はエモーションし、赤い剣士に立ち向かおうとするが・・・


夜光達が赤い剣士を取り囲んだ時、赤い剣士は人型から、クモのような姿へと変化した。

それと同時に、夜光達に強い殺意が襲い掛かってきた。

「なにこれ・・・怖い」

赤い剣士の殺意の前に、ガタガタ震えるセリナ。

しかし表には出さないものの、それはアスト全員が感じているものである。

「くっ! こんなところで腰を抜かしているほど、暇じゃねぇんだよ!」

夜光は恐怖を振り切るように、赤い剣士に突撃する。

両手に持ってた剣を交差させるように斬りつけようとする・・・が。

「なにっ!」

剣が当たる寸前で、赤い剣士はすばやく後退し、夜光の攻撃を避けたが・・・

「くらいなさいっ!!」

後退した直後に、後ろに回っていたライカが、風を纏った鉄扇で剣のように薙ぎ払うとするが、赤い剣士は後ろを見もせず、肘でライカの腹部を強打した。

「がはっ!!」

ライカはそのまま後方へと吹っ飛んでしまった!

「テメェ!!」

ルドが渾身の力を込めて、赤い剣士に向かって斧を振り下ろす。

「なにっ!?」

赤い剣士は、左手の人差し指と中指のみで、ルドの攻撃を防いだ。

「こっこの!! 離せ!!」

なんとか赤い剣士の指を振り払おうとするが、完全にに力負けしているため、それは叶わない。

すると赤い剣士が、ルドのあご目掛けて力強く蹴り上げた。

「ごはっ!!」

ルドは数メートルほど上空に飛ばされ、地面に激突した。

「このっ!! ちょこまかと!!」

夜光は再び赤い剣士に突撃するが、赤い剣士はまるでもて遊ぶかのように、夜光の攻撃を全てかわし、そのたびに、軽く蹴り飛ばしていった。

「夜光さんっ!」

苦戦する夜光を援護すべく、セリアも突撃する。

「セリアちゃん! 1人じゃ危ないよ!」

セリアに追いかけるように、セリナも突撃する。

その後方から2人を援護すべく、スノーラが援護射撃を行う。

さらに、先ほど倒されたルドとライカが起き上がり、夜光達の加勢に向かった。


・・・ところが6人掛かりにも関わらず、赤い剣士には攻撃が全く当たらない。

その上、赤い剣士のカウンターは必ず夜光達に命中している。


「くっ! どう考えてもスピードもパワーも私達よりもはるかに上だ」

そう呟くスノーラに、ルドがこう言う。

「そんなの別に今回が初めてな訳じゃねぇけど・・・これは何かが違う」

これまで戦ってきた影達は、夜光達よりも実力は上だった。

だが、みんなで力を合わせてなんとか撃退はしてきたものの、今回は力を合わせてどうにかできる相手ではないと、ルドは感じ取っていた。

「だけど、剣士の癖に一度も剣を使っていないっていうのは、すごくむかつくわね」

ライカの言う通り、この戦闘で、赤い剣士のカウンターは、全て蹴りや空いている左手で殴りつけるのみで、剣は一度も使っていない。

手加減しているのか、使うまでもないと嘲笑っているのか。

どちらにしろ、本気を出していないことは確かだ。


「面倒だ! 一気にケリをつけてやる!」

夜光はエクスティブモードとなり、精神力を最大まで高めて赤い剣士に向かって剣を再び交差させながら斬りつけようとする。

パワーもスピードもエクスティブモードの力で上がってはいるので、少なくとも一撃くらいは当てられるだろうと、心のどこかでアストの力を過信していた夜光。

・・・しかし、結果は予想をはるかに超えてしまった。

「・・・」

赤い剣士は避ける動作を見せずに、すばやくシャドーブレスレットを操作する。

シャドーブレスレットから『ファイアアップ!!』という音声と共に、赤い剣士の剣が炎を纏った。

「!!!」

赤い剣士は、炎を纏った剣を軽く薙ぎ払い、夜光の攻撃を防いだ・・・が夜光が驚いたのはその直後。

「何っ!?」

赤い剣士の斬撃によって、夜光の剣【闇双剣】が2本共あっさり折れてしまったのだ。

「まっマジかよ・・・」

折れた剣を見て、思わず茫然としてしまう夜光・・・が本当の恐怖はこのあとに起きてしまった。

「夜光さん!! 逃げて!!」

セリアの叫び声ではっと我に返る夜光であったが、手遅れであった・・・

「ごはっ!!」

一瞬の動揺を突かれ、夜光はアストごと腹部を剣で貫かれた・・・

「「夜光さん!!」」

「「夜光!!」」

「兄貴!!」

思わず叫ぶメンバー達。

赤い剣士が夜光の体から剣を引き抜くと、夜光の腹部から大量の血が滝のように流れ出した。

「あ・・・あ・・・」

夜光は両手に持っていた剣を落としたのと同時にエモーションが解除され、そのまま崩れるように倒れてしまった。

すぐさま夜光のもとへ駆け寄るメンバー達。

「「邪魔だ!!どけ!!」」

夜光のそばにいる赤い剣士を追い払うように、斧を振り回すルドと銃を連射するスノーラ。

もちろんそんなめちゃくちゃな攻撃など、当たるはずもないが、夜光から赤い剣士を少し遠ざけることはできた。


「夜光さん!! 大丈夫ですか!?」

夜光を抱きかかえ、必死に呼びかけるセリア。

だが夜光の意識は朦朧としており、ほとんど意識のない状態であったため、返事をすることができない。

ライカは夜光の服を捲り上げ、腹部の傷を見てみた。

「出血がひどいわ。 傷もひどいみたい・・・急いでホームに回収してもらわないと」

しかしそこへ、セリナから悪い知らせが飛び込んできた。

「みんな大変!! ホームに連絡が取れないよ!!」

「なんだと!!」

セリナの知らせを聞き、、ルドもホームに通信してみるが、全くつながらない。

ほかのメンバーを通信を試みるが、結果は同じであった。

「どうなってんだよこれ!!」

ここでスノーラがこんなことを口走る。

「もしかすると、奴のすさまじい精神力がマインドブレスレットになんらかの妨害を与えているのかもしれん! 確証はないが・・・」

「それであってるんじゃない? そもそも、こんな重傷者がいて、転送システムが動かないなんてありえない!!」

マインドブレスレットには、装着車が重傷を負った時に、すぐさまホームへと転送するシステムが備わっている。ライカの言う通り、重傷を負った時点で、夜光が回収されないのは明らかにおかしい。

「じゃあ俺が兄貴を背負って、直接医務室まで運ぶしか!!」

ルドがそう言って夜光を背負おうとした時!!

突然、炎でできた糸のようなものがメンバー達の首に巻き付いた。

その糸は、燃えるような熱を持っているが、アストを装着しているメンバー達の首を絞めることはできない。

「なっなんだよこれ!!」

糸の先を見ると、赤い剣士の背にあるクモの足のようなものから、糸が出ていた。

メンバー達は個人の武器で糸を切ろうとするが、糸はびくともしない。

「くっ!!切れない!!」

「今あんたに付き合っている暇はないのよ!!」

糸を切ろうと必死になるメンバー達の中からセリアが飛び出し、エクスティブモードを発動させ、赤い剣士にすばやく近づくと、そのアーマーに一太刀浴びせた。

「邪魔をしないでください!!」

『!!!』

それにはほかのメンバー達も驚いた。

6人掛かりで袋叩きにしようとしても、全ての攻撃を受け流されたにも関わらず、セリアは初めて攻撃を命中させた。

セリアの攻撃は特殊なもので、斬った相手の体力と精神力を削ることができ、訓練を積んだ騎士団でも一太刀浴びれば、疲労で動けなくなるほどの威力を持つ。

だが赤い剣士は、少し態勢を崩しただけで、あまり効いていないようだ。

「うっ!」

全身全霊を込めた一太刀を放った上、赤い剣士との戦闘でのダメージや疲労で、セリアは膝を付いてしまった。

セリアの攻撃は特殊なため、ほかのアストよりも消耗が激しいので無理もない。

「・・・」

赤い剣士はセリアから少し距離を置くと、左手の指を鳴らした。

『なっ!!!』

その直後、セリア達の首に巻き付いていた炎の糸が爆発し、セリア達は悲鳴を上げる暇さえなく吹き飛ばれた。


爆発が収まると、辺り一面真っ黒な煙に包まれ、あちこちの草木が燃えていた。

セリア達は、爆発の威力が高かったため、全員気を失ってしまい、エモーションも解除されていた。

全身にやけどを負っている上、出血もひどい。

特に生身で爆発に巻き込まれた夜光は、セリナがとっさにシールドを張っていたおかげで爆発からは逃れられた。


赤い剣士は倒れているセリアに近づき、剣先を向けた。

セリアの首を落とそうとしているのだ。

「!!!」

赤い剣士が剣を振り下ろそうとしたその時!

「やめろ」

突然赤い剣士は手を掴まれ、剣を静止させられた。

「どういうつもりだ?スパイア」

赤い剣士を止めたのは、顔の整った(要するにイケメン)40代くらいの男であった。

「もう勝負はついているはずだ。 ターゲットでもない少女の首を落とす必要がどこにある?」

「・・・」

赤い剣士は黙ったまま口を開こうとしない。

「先ほどの一太刀を、命で償えとでも言う気か? もしそんなつまらんことで剣を血で染めると言うのなら、貴様に影を名乗る資格はない。 私自ら、この場で貴様を処刑する」

「・・・」

にらみ合う男と赤い剣士の間に、巨大な人影が近づく。

「その辺でやめとけよ。 エアル」

現れたのは山のような体格を持つ、影の1人、レオスであった。

レオスは、シャドーブレスレットを操作し、影兵(自分の分身体)を数十体呼び出す。

「テメェら、この辺りの火を消しに行け。どんなに小さな火種でも必ず消せ」

レオスがそう命じると、分身体達はバラバラに散っていった。

「レオス。 消火のためとはいえ、影兵達が騎士団に見つかるのは避けろ」

エアルがそう警告すると、レオスは「わかってるよ」とぶっきらぼうに答えた。

「・・・」

赤い剣士スパイアは、エアルの手を振りほどくと、剣を収め、その場を立ち去って行った。


「相変わらず愛想のねぇ奴だ」

レオスが立ち去るスパイアの背中を見ながらそう呟くと、エアルは倒れている夜光に駆け寄り、シャドーブレスレットを操作する。

シャドーブレスレットから『ヒーリングモード!』!という音声と共に、エアルの左手が薄い緑色の光に包まれた。

その左手を夜光の腹部のケガにかざすと、傷口が少しずつ塞がり始めた。

それを見たレオスが呆れたような口調でこう言う。

「おいおい。 敵の手当てなんかする気か?」

「敵であろうとなんだろうと、目の前にいるケガ人を放っておくわけにはいかん」

「けっ! 人を殺しまわっている奴のセリフとは思えねぇな」

そう言いながらも、エアルの行動には関心しているレオス。

そんなレオスの人柄を知っているからこそ、エアルはこんなこと言い出す。

「レオス。 お前は彼女たちのケガを治せ」

「げっ! 俺もかよ!!」

「嫌なら良い。私1人でも事足りる」

「嫌味なこと言いやがって。 わかったわかった、やればいいんだろ?」

レオスはそう言うと、ヒーリングモードを起動させ、セリア達の傷を治しに回っていった。


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