第57話 哀れな真相

劇物を混入した疑いのあるリックを追い詰めるために、ライカの演技力とマイコミメンバー達の協力によってはめられたリック。

その時、リックの顔が醜くく歪み始めた。


「イラ立たせる? 一体なんのことよ!」

ライカが強い口調で追及すると、リックが少し遠い目をしながら語り始めた。

「俺は13歳の時にトレック劇団に入団したんだ。実力は申し分なく、入団してから1年もたたない内に主役の座を射止めることができ、それからトレック劇団で開催される劇では、俺が必ず主役を演じることになっていった。 まあ、才能あふれる俺にとっては主役を演じるのは当然だがな。だから観客が俺の演技に感動し、称賛の声を浴びせてくる。 まさに俺は劇団の王だった!・・・だが、バンデスが入団してから、俺の役者人生は狂った!!」

リックは怒りと憎しみを込めるように拳を握った。

「バンデスの演技力はほかの三流役者共と同じく素人同然だった。 顔も若さも俺の方が圧倒的に上回っている。そんな才能のない役者に待っているには土台のような無様な役だけのはずだった・・・なのに!!」

リックは突然床に怒りを込めた拳をまるで過去をぶち壊すかのように放った。

その後のリックの話をまとめると、こうなる。


今から10年以上前のこと・・・

ライカの父であるガウンが入団してから5年ほど経った時、ガウンは主役に抜擢された。

それはリックが初めて主役に抜擢された劇で、リック本人や世間では当然リックが主役をするものだと思っていた。

納得できないリックは、当時の演出家に直談判した。

リックは「なぜバンデスが主役なのですか!? あの劇の主役は僕のはずです!!」と噛みつくようにそう尋ねると、演出家は静かにこう言う。

「リック君。 君の演技は大変素晴らしい。 だが君の演技には心が宿っていない」

「こ・・・心?」

「演技とは物語の登場人物たちの心を写し出す、言うならば鏡のようなものだ。 どんなに素晴らしい演技をしても、心のない演技は、何もしていないのと同じだ」

「バカな!! 役者は才能が全て!!心などというあいまいなものなど、完璧な演技の前では不要です!!」

「リック君。 それが君とガウン君との決定的な差だ」

「どっどういう意味でしょうか?」

「一流役者であろうと新米役者であろうと、完璧に役を演じることなどできない。必ず自分の演技に納得できない部分が見つかる・・・それらを1つ1つ乗り越えていくことで、役者は成長していくんだ。

リック君。才能はもちろん大切だが、才能があるからこそ、自分はあくまで1人の役者だと自覚しなければならないんだ。

だからこそ、決して自分の演技に納得せずに努力し続けるガウン君を主役に抜擢したんだ。

そうすることが、君達にとっての成長につながると思ったのでね」

「・・・」

リックはその後、一言も話さずに押し黙ったままその場を後にした。

・・・だが、リックは納得などしていない。

「(くだらない!! 役者は才能が全て!! バンデスのような三流役者のクズなど、すぐに消えるはずだ!! 今のうちにせいぜい主役の座を楽しむがいい、バンデス!!)」


ところが現実は、リックの予想と大きく異なっていた。

ガウンが主役の舞台は入場者は常に満員で、観客の中では、「バンデスの演技を見ていると、まるで舞台に吸い寄せられそうになる」というような、高評価な声が多くあり、舞台は大成功となっていた・

そして、ガウンの人気はそれだけに留まらず、その後も数々の舞台で主役や準主役などを演じ、みるみる内に知名度を上げていく。

それだけでなく、その人の良さからほかの役者達からの信頼も得ていた。

その頃になると、リックはほとんど出番の少ない脇役ばかり与えられ、、世間ではリックの名が忘れさられ、役者達からは、今まで自分の才能を鼻にかけていたリックを蔑むようになっていった・・・


人気を完全にガウンにとられたリックは、徐々に演技の練習すらしなくなり、現実から逃げようと違法薬物にまで手を出していた。


そんなある日、リックが薬物の売人にガウンへの恨みをこぼしていた。

そんなリックに、売人は「それほど恨んでいるのなら、これを使ってみてはいかがですか?」と粉の入った瓶をリックに渡した。

「なんだ?これは」

リックの質問に、売人は不気味に微笑む。

「クリプトスという薬物です。 これを飲むと、脳に多大なダメージを与え、最後にはなんらかの後遺症が残ります。 まあ、運が悪ければ脳死する可能性もありますが・・・」

「なぜこれを俺に?」

「あなたのように他人を恨む者は大勢います。 そういった方々がが望むのは単純な相手の死ではなく、それ以上の屈辱です」

「じゃあ、これを飲ませたら、バンデスは脳死し、生き地獄を味わうのか!?」

「少なくとも、舞台に立つことは不可能でしょうな。 その上、この薬物は分析が難しく、確実に事故として処理されるでしょう」

当時は現在よりも、クリプトスがまだ世に広く知られていなかったため、分析は難しかった。

その時、リックの心に悪魔が宿った。

「よし。 これを俺に売ってくれ」

「もちろんです・・・ただ、貴重なものなので少々値が張りますよ?」

「構わん!! 金ならいくらでも出す!!」


こうしてクリプトスを手に入れたリックは、翌日の練習でガウンが飲んでいた飲み物にクリプトスを混入した。

それを飲んでしまったガウンは、パニック発作を起こし、病院に搬送され、脳死にはならなかったものの、パニック障害という後遺症が残り、役者人生を絶ってしまった・・・


そして現在・・・

過去を語り終えたリックがゆっくりとライカを見る。

「・・・君がバンデスの娘だと聞いた時は驚いた。

だがもっと驚いたのは、君がトレック劇団の舞台に立つことになってしまったことだ。

マスクナがあんなことを言わなければ、君にクリプトスを飲ませようなんて考えなかったんだがな」

リックの身勝手な発言に、ライカは役者を目指す者として、激しい怒りを覚えた。

「あんたみたいなクズに、役者を名乗る資格はないわ!! あんな父親のフォローをするつもりはないけど、要するにあんたは、父とあたしが自分を超えることを恐れただけでしょ!? この臆病者!!」

「黙れ!!このガキが!! お前も舞台に立った所で、バンデスのような三流役者と同じ末路を辿るだけだ!!」

罵倒するリックに、ライカは真っすぐにこう返した。

「あたしは、父やあんたのようにはならない! あたしはあたしとして、自分らしい役者を目指す!!」

「くだらない!! 役者は才能が全てだ!! お前やバンデスのように努力しか能のないゴミこそ、舞台に立つ資格はない!!」

リックが今にもライカに襲い掛かりそうになった時だった。

「よしなさし!!リック!!」

場の空気を止めるような声が辺りに響いた。

その声の主に視線を向けるために、リックはゆっくりとドアの方へ振り返る。

「・・・マスクナ」

そこに立っていたのは、マスクナであった。

彼女の横にいるマナが、マスクナを探して、控え室まで連れてきたのだ。

マスクナは、憐れむような目でリックにこう語り掛ける。

「リック、あなたには失望しました。 身勝手な嫉妬のために、バンデスさんの役者人生を絶っただけでなく、ライカさんにまで手を出そうとしていたなんて・・・」

「黙れ!! お前がこんな素人を舞台に立たせようとしなければ、こんなことにはならなかったんだ!!」

「素人であろうがベテランであろうが、舞台に上がれば1人の役者です。そして何より、役者は人気を得るために演技をしている訳ではありません。 観客に感動や笑顔を届けるために演技をしているのです。 そんなこともわからないなんて、あなたはトレック劇団で何を学んできたのですか!?」

「・・・くっ!!」

マスクナの強い言葉に押し黙るリックに、マスクナは最後にこう伝える。

「あなたをトレック劇団から追放します。 あなたはもう、トレック劇団の役者ではありません」

その言葉は、リックにとって一番恐れていた言葉であった。

「ばっバカな・・・俺が追放? 俺はトレック劇団のトップスターだぞ!? その俺がいなくなれば、劇団は終わりだ!!」

「例えそうであったとしても、今のあなたを舞台に立たせるわけにはいきません」

感情的なリックの言葉に冷静に返すマスクナ。

現実を受け入れられないリックは、頭を抱えてうろたえる。

それを見ていた夜光達も、だんだんリックが哀れに見えてきてしまう。

「俺は・・・俺は・・・リックスカーだぁぁぁ!!」

感情が暴走したリックは、控え室から飛び足してしまった。

「待ちなさい!!」

ライカが慌てて追いかけて行き、それを追うように夜光達も続く。

「あわわわ」

マスクナの横であたふたするマナに、スノーラがこう言い放つ。

「マナ! マスクナさんのそばにいろ!」

「わわっわかりました!!」

マナにマスクナを任せ、スノーラも駆け出して行った・・・


控え室を飛び足したリックは、ホームのそばにある林の中にいた・・・

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・クソッ!! 俺が追放だと? これも全てバンデスとライカのせいだあの親子はいずれ必ずつぶす!!・・・そしてマスクナ、俺を追放したことを後悔させてやる・・・」

バンデスやライカ、マスクナへの恨みを口にするリックに、ある人影が近づいていた・・・

「・・・!!誰だ!?」

リックが背後から近づいてくる人影の気配に気づき、振り返るが誰もいない。

辺りを警戒していたその時!!

「あああぁぁぁ!!」

突然リックの両足が、切断され、リックがその場に倒れ込んだ。

「だっ誰だ!! やっやめろ!! 殺さないでくれ!!たっ頼む!!」

辺りを見渡しても、誰もいない。

リックは見えない恐怖と両足の痛みに耐えかね、大声で叫ぶ。

「だっ誰か!! 助けてくれぇぇぇ!!誰かぁぁぁ!!」


林の中を捜索していた夜光達は、リックの叫び声を聞き、急いで駆けつける・・・が。

「なっ!!」

『!!!』

夜光達がその場で見たのは、両足を切断され、首を切り落とされたリックの死体であった。

そして、その横に立っていたのは・・・

「お前は、あの時の!!」

それは、以前ラジオ局や広場で出くわした赤い剣士であった。

その時は、なぜか夜光にしか姿が見えなかったが、今は全員が確認できる。

「夜光さん。 もしや、こいつが以前言っていた赤い剣士ですか?」

スノーラが夜光に確認すると、夜光は「あぁ」と頷く。

「あんた、なんでリックを殺したの? 答えなさい!!」

ライカが問いかけるも、赤い剣士は無視し、その場を後にしようとする。

「逃がすか!!」

ルドの掛け声と共に夜光達はエモーションし、アストとなった。


エモーションした夜光達は赤い剣士を取り囲み、武器を構える。

その時赤い剣士は、シャドーブレスレットのパネルを操作する。

すると、シャドーブレスレットから『バトルモード!!』をいう音声が鳴り響くと同時に、赤い剣士は姿を変える。

それはまるで、クモと人間が合わさったような姿である。

・・・だが、夜光達が驚いたのはその変化ではなく、変化後に押し寄せてくる言葉にならないような、力の波動であった。

「なっなんだよこの感じ・・・」

まるで天敵動物に威嚇された小動物のように、全身が震える夜光達。


それはスコーダーやレオスが夜光達に向けてこなかった感情・・・”殺意”であった・・・

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