ギルド・リッシュ編

第61話 ギルド・リッシュ

夜光達に重傷を負わせてしまったことに責任を感じてしまったゴウマ。

彼は、これ以上夜光達に傷ついてほしくないという思いから、アスト解散を宣告した。

ゴウマの固い決意を感じ取った夜光達は、ゴウマにマインドブレスレットを返却するのであった・・・


アスト解散の翌日・・・

夜光達はいつも通りマイコミルームで自由な時間を過ごしていた。

本日は特に予定もなく、そういった場合は大抵トランプなどして時間をつぶしている。

特に何事もなく、静かな空間で時間だけが過ぎていく・・・かと思った。

「失礼する」

静寂を破って現れたのは、またもやゴウマであった。


ゴウマは真っすぐに夜光の元へと歩み寄る。

「今日はなんの用だよ?」

扇風機の風に当たりながら、興味がなさそうに尋ねる夜光。

「昨日、知り合いのギルドマスターからホームのパンフレットとディアラット国の求人募集の本をいくつかほしいと連絡が来てな?

なんでも、ギルドに通っている子供達に見せたいそうだ」

「・・・ギルド?」

「就職活動を支援する施設のことだ」

「(要するに、ハローワークみたいなもんか)」

「今からそこへ向かおうと思っているんだが、同行してもらおうと思っていたスタッフが夏風邪を引いてしまって、人手が足りないんだ」

「・・・まさか」

夜光の額から一筋の冷や汗が流れた。

「代わりにワシとギルドまで同行してもらえんか?」

「断る!! 何が悲しくてこの炎天下の中を歩いて、そんなガキ共に会いに行かなけりゃならねぇんだよ!?」

夜光はゴウマと目を合わせようともせず、きっぱりと断った。

もちろん夜光が素直に引き受けるとは、思っていないゴウマは”ある作戦”を考えていた。」

「・・・夜光。 これを見てくれ」

ゴウマがなぜか小声で差し出したのは一枚の写真。

「なんだよいきな・・・り・・・」

写真を見た瞬間、夜光の目つきが明らかに変わった。

「おっおい、親父・・・だっ誰だ?この美人?」

写真に写っていたのは、スタイル抜群なセクシーな金髪美女であった。

「ギルドの看板娘であるハロさんだ。 もしお前が同行するなら、ワシが彼女を紹介してやろう」

「・・・歳は?」

「確か・・・30歳くらいだったかな? 結婚していたが、旦那とは死別したらしい」

「・・・いいだろう、これも仕事だ! パンフレットの1部や2部、持って行ってやろうじゃねぇか!」

女に釣られた夜光は、さっきとはまるで別人のように張り切って仕事を引き受けた。

「そうか。 ならさっそく向かうぞ?」

「わかった!・・・じゃあお前ら、俺はちょっと仕事に行ってくるから、今日は適当に遊んで帰れ!」

デイケアスタッフとは思えないほどの無責任な捨て台詞を言い残し、夜光はゴウマと共に、マイコミルームを出て行った。


『・・・』

残されたマイコミメンバー達の目は、疑惑の目となっていた・・・


マイコミルームを出た夜光は、一旦ゴウマと別れ、資料室にあるパンフレットと求人募集の本を持てるだけ持ち、ゴウマの待つ正面玄関へと向かった。


そこには資料を積んだ馬車と、ゴウマと話をしている誠児の姿があった。

「夜光! お前もギルドに向かうんだってな」

「まあな。 気は進まないが、仕事なら仕方ねぇ。 お前も来るのか?」

「あぁ。 この世界でどんな風に就職活動をしているのか、興味があるからな」

「お前らしいな」


それからすぐに、夜光とゴウマと誠児の3人は馬車に乗り、ギルドに向かって出発したのであった。


3人が向かうギルドはディアラット国の外にあるらしく、外に出るには国境にある門を通らなければならない。

本来、門を通るには国王の許可証がいるのだが、国王であるゴウマ本人がいるため、門番にゴウマが話を通すと、あっさりと通行を許された。


門を出てから2時間ほど馬車にゆられ、3人はのどかな風景が見える村へとやってきた

「・・・随分のどかなところだな。 空気がなんだか新鮮だ」

誠児がゆっくりと深呼吸をすると、まるで肺が洗われるような気分になった。

「ここは”リッシュ村”といってな?風景はのどかだが、お金のない貧しい人々ばかりが暮らしているため、周りからは”貧困の村”と蔑まれている村だ」

悲し気にそう呟くゴウマ。

「(・・・どこの世界にも貧困問題はあるだな)」



リッシュ村に入ってから30分ほどで、馬車は大きなツリーハウスのような建物の前で停車した。

建物には大きな看板が掲げられており、そこには【ギルド・リッシュ】と書かれている。


3人は馬車から降りると、ゴウマが一足先に、ギルドのドアまで向かい、呼び鈴を鳴らした。

呼び鈴を押してからすぐに、「はい!」と言う声と共にドアが開けられ、若い男が出てきた。

「ゴウマ様! お久しぶりです!」

男はゴウマの顔を見た途端、驚きと喜びで震える。

「君こそ元気そうで何よりだ」

互いに再会を喜び、固い握手を交わす。


そこへ、馬車からパンフレットを持って歩いてくる夜光と誠児。

「あぁ、紹介しよう。 彼らは今年からホームでスタッフをしている夜光と誠児だ」

ゴウマに紹介され、誠児は「初めまして、誠児です。本日はよろしくお願いします」と軽く会釈する。

一方に夜光は、軽く会釈して「よろしく」とぶっきらぼうに挨拶をする。

「初めまして。 私はここでギルドマスターをしている”ビンズ”と申します。

こちらこそよろしくお願いします」

それぞれのあいさつを終えると、夜光達はビンズの案内でギルドの中に入っていった。


「パンフレットはそこのテーブルに置いておいていただけますか?」

ビンズの指すテーブルの上に、夜光と誠児は持っているパンフレットを置くと、ギルドの奥から従業員たしき人物が3人、姿を現した。

「おぉ!ゴウマ国王様!わざわざご足労頂き、ありがとうございます!」

眼鏡を掛けた青年が、深々とゴウマに頭を下げる。

ゴウマは「そんなにかしこまらないでください」と笑顔で返す。

「自己紹介が遅れました。 私はギルド・リッシュで従業員をしているパークと申します!」

眼鏡を掛けた青年が自己紹介をすると、残りの2人も続く。

「初めまして! 俺、コトルっていいます! ここで従業員をしています! よろしくお願いします!」

こちらはさわやかな体育会系といった青年であった。

そして、最後はゴウマと同い年くらいの高齢女性であった。

「お久しぶりです、ゴウマ国王様。 お元気そうでなによりです」

「おぉ、”ハロ”さん。 あなたこそお元気そうでなによりです」

ゴウマと高齢女性のあいさつの中で、夜光は気になる単語があった。

「お・・・おい、親父。 今、このばあさんのことをハロって呼んだか?」

「あぁ、呼んだぞ?」

当たり前だろ?と言わんばかりに、ゴウマはぽかんとした表情を浮かべてる。

夜光は慌てて、餌となった金髪美女の写真を突き付ける。

「じゃあまさか! この写真に写っている女って!」

写真を見た途端、高齢女性は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「いや、お恥ずかしい。 私が踊り子をしていた時の写真じゃないいですか」

「・・・おい親父! この女は30くらいとか言ってたじゃねぇか!」

「それは踊り子をしていた当時の年齢だ」

「テメェ!!俺を騙したのか!?」

「騙すとは人聞きの悪い。 ワシは、”ハロ”さんを紹介するとは言ったが、若い女を紹介するとは一言も言っていないぞ?」

「屁理屈並べてんじゃねぇぞ、この詐欺師!! 俺はこの女が食いたくてわざわざこんなところまで来たやったんだぞ!?」

夜光は怒りに満ちた表情を浮かべて、指をポキポキと鳴らす。

今にも殴り掛かりそうな勢いである夜光に対し、ゴウマはなぜか表情1つ変えずに冷静であった。

「ワシを殴るのは勝手だが、その前に”後ろ”をなんとかした方が良いのではないか?」

「・・・後ろ?」

夜光がゆっくりと振り返ると・・・

『・・・』

そこには夜光以上の怒りに満ちたマイコミメンバー(キルカを除く)の姿があった。

怒りの理由はもちろん、夜光が女に目がくらんで、自分達をほったらかしにしてこんな遠くまでわざわざ来たということ。

ゴウマに騙されていたとはいえ、彼女たちの怒りは収まらない。

「なななんでお前らがここに?」

驚きながらも、マイコミメンバーに尋ねる夜光。

「みんなと話し合って、急遽ギルドを見学することにしたんです。 もちろんゴウマ国王とギルドマスターの許可は得ています」

丁寧に説明するスノーラではあるが、その目は全く笑っていない。

「いっいつの間に!?」

「あんたが資料を取りに行っている間によ。 急なお願いだったから、馬車の手配とかで少し遅れたけど。 おかげで面白いものが見れたわ」

ドS要素満載な笑みを浮かべるライカ。

正直、怒っているのか笑っているのかがよくわからない。

「兄貴はさ、もう良い大人なんだから。 いい加減、理性や節操って言葉を覚えたらどうだ?」

ライカと違って、明らかに不機嫌そうなルド。

その表情から、嫉妬が簡単に読み取れる。

「なんで騙された俺が説教されなきゃならないんだよ!」

自分だけがメンバー達に非難されているこの状況に納得がいかない夜光。

「・・・」

そんな夜光を心のない目で見つめるセリア。

もちろんその手には、どこから出てきたのかわからない包丁が握られていた。

「おいセリア。 お前いい加減にそれをやめないと、本気で訴えるぞ!!」

「・・・」

夜光の言葉に耳を傾けず、包丁を夜光に向けるセリア。

その隣で口を尖らせて怒るセリナ。

「セリアちゃん、夜光が死なない程度なら刺していいよ? お姉ちゃんが許可するから」

「テメェ、アホのくせに妹をけしかけてんじゃねぇよ!」

などと漫才じみた会話をしつつ、マイコミメンバー達は怒りのオーラを纏ってゆっくりと夜光に近づいていく。

「おい待てお前ら! 今回の俺は被害者だ! 全ての元凶は親父が・・・ってあれ?」

夜光が再び振り返ると、先ほどまでそこにいたゴウマの姿はなかった。

それどころか、誠児やビンズ、ギルドの従業員達も姿を眩ませており、ギルド内にいるのは夜光とマイコミメンバー達だけ。

「あっあいつら・・・」

夜光はここで初めて、自分がとっくの昔に見捨てられていることを知った。

「・・・くくく」

まるで何かを悟ったかのように笑う夜光は、マイコミメンバー達と対峙する。

「こんな理不尽な状況があるかぁぁぁ!!」

不公平な現実を訴えるかのように、雄たけびのような声を上げる夜光であった・・・

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