第39話 潜入

行方を眩ませた夜光とスノーラを探すため、誠児、セリア、セリナ、ライカ、ルド、マナ、笑騎、きな子、女神ら8人と1匹は、きな子の発明品で、2人がミュウスアイランドから少し離れた島にいることを掴み、急ぎその島に向かった。

そして、島に上陸した誠児達は、きな子が見つけた謎の建物へと前進するのであった・・・


上陸した地点から歩くこと約20分。 辺りを警戒しながら深い木々の中を進んでいく誠児達の視界に、その建物が飛び込んできた。

外装は鉄でできているようだが、これといって特徴のある建物ではない。

時別大きいわけでもなく、広さもホームのグラウンドの半分くらいしかない。

誠児達は一旦茂みに隠れて、建物の周辺の様子を見る。

建物の周辺には、武装した男が数人うろついている。

その様子を見ながら、誠児はふと呟く。

「・・・頼んでも入れてくれそうにないな」

その意見に対しては、全員賛同した。

「だからって、このままじっとしているのもなぁ・・・」

頭を悩ませているルドの後ろで、ライカは思いつく方法を口にする。

「そうね。 笑騎をおとりにして、その間に侵入するか。 笑騎を盾にしてみんなで突入するか」

「・・・全部俺が一番危ないやんけ!!」

つい大声でノリツッコミをしてしまった笑騎に、セリナは慌てて。

「もう笑騎!! 大きな声出さないでよ!!見つかったらどうするの!?」

笑騎より大きな声を出してしまったセリナをさらにマナが小声で止める。

「セリナちゃんも声大きいよ」

しかし、すでに手遅れだった。

「誰だ!? そこにいるのは!?」

武装男達が誠児達のいる茂みに向かってライフルを向ける。

「2人共!!」

誠児がみんなを代表して、怒りの言葉を上げた。

「うぅぅぅ。 ごめんなさい」

「すまん」

深々と頭を下げるセリナと笑騎。

「あっあの、それよりこの状況をどうにかする方が先では・・・」

セリアの言う通り、謝ったところで状況は変わらない。

「さっさと出てこい!! さもなくば、このまま撃つぞ!!」

武装男達はしびれをきらし、今にも発砲しそうに指を引き金にかける。

その時、きな子が覚悟を決めたかのようにこう言う。

「しゃーない。 ここはウチの最終兵器を使うしかないな」

「まさか、また逃げるつもりですか!?」

先ほど暴走したボートに自分達を置いて、1人で逃げたきな子を誠児は信用できなかった。

それは、この場にいた全員が思っていることだ。

「安心しぃ。 今回は逃げへん」

きな子はそう言うと、なぜか女神の後ろに回り込み・・・

「必殺! きな子キック!!」

勢いよくジャンプしたきな子は、そのまま思いっきり女神の後頭部に蹴りを入れた。

「ぎょへっ!!」

女神は前へ倒れ、茂みから出てしまった。

「いてて・・・」

女神が後頭部を抑えながらゆっくり立ち上がると・・・

「ぎゃあああ!!」

武装男達に取り囲まれてしまった。

「女! ここで何をしている!?」

武装男達はライフルを女神に突き付ける。

「いっ命だけは助けてください!!」

恐怖のあまり、ひたすら頭を下げて命乞いをする女神。

そんな女神の頭に、きな子が飛び乗る。

「なっなんだ?このウサギ」

突然現れたきな子に驚く武装男達。

きな子は上陸時に女神が背負ってもらったウサギリュックから、1枚のプレートを武装男達に見せた。

ウサギリュックとは、きな子の必要なものが入っているリュックのこと。

ただし人間用のリュックなので、女神に背負ってもらっている。

そのプレートには、ある文字が書かれていた。

「なっなんだこのプレート」

「え~と、ひ・ん・に・ゅ・う・は・ほ・ろ・び・ろ。 貧乳は滅びろ?」

その言葉を口にした途端、武装男達の運命は決まった。

「・・・あっ?」

女神は怒りのオーラを発して立ち上がり、どこからともなくバズーカを出した。

この後、女神が何をするは明白だ。しかし、それは同時に誠児達にとってもピンチとなっている。

「まずい。 こんなところでバズーカなんて使われたら大騒ぎになる」

誠児の言う通り。 このまま怒りのまま女神が暴れたら、建物内にいる人間たちが一斉に逃げ出すか、援軍を送られる可能性もある。

どちらしろ、誠児達にとっては都合が悪い。

しかし、そんな心配をしている中、女神は意外な行動に出る。

「うぉぉぉりゃぁぁぁ!!」

女神はバズーカを撃たず、それをめちゃくちゃに振り回し始めた。

「なっなんだ!この女! うっ撃て撃て!!」

武装男達は女神に向かって発砲するが、女神はバズーカを盾代わりにして弾丸を防ぐ。

「そんなバカな!!」

武装男達もこれには驚くしかない。

その間も女神は次々に武装男達を殴り倒し、ついには・・・

「天誅ぅぅぅ!!」

「うわぁぁぁ!!」

最後の武装男を倒した女神は、気が済んだように、その場に倒れる。

『・・・強い』

みんなが、女神の強さを目の当たりにし、あっけにとられている時に、誠児がきな子にこんなことを聞く。

「あの~、どうして女神様はバズーカを撃たなかったんですか?」

「きっと女神様の中にあるわずかな理性が、バズーカを撃たせなかったんや」

まるで悟ったかのようなきな子の解釈に、あまりピンと来ない誠児。

ともかく女神のおかげで、武装男達を全滅させることはできたので、誠児達は堂々とドアから潜入した。


建物の中は少し薄暗く、いくつかの小さな電灯がついているが、視界が悪くなっているので、どこに何があるかが把握できない。

「・・・なんだか薄気味悪いところだな」

建物内の異様な空気に、ルドは悪寒を感じ始めた。

「ぜんぜん見えない。 ねぇ、誰か明かりとか持ってない?」

セリナがそう尋ねると、きな子が「ウチ持ってるで?」とどこから取り出したかは不明だが、ウサギ型の懐中電灯をセリナに手渡す。

「ありがとう! きな子様」

嬉しそうに懐中電灯を付けてはしゃぐセリナをよこに、笑騎が呟く。

「・・・なんでも持っとんな。 あのウサギ」

笑騎の隣にいる誠児も、ため息と共にこんなことを呟く。

「っていうか、このウサギシリーズはいつまで続くんだ?」

きな子が出す機械はすべてウサギ型になっているため、誠児は若干飽きを感じていた。


きな子の懐中電灯のおかげで、なんとか進めるようになった誠児達はしらみつぶしに建物内を探索し始める。

しかし、部屋のほとんどが何もない空き部屋だった。

その上辺りは不気味なほど静かで、人の姿も気配もない。

「だっ誰もいないみたいですね・・・怖いです」

「・・・女神様。 怖いからってウチを盾みたいにすんのやめてくれへんか?」

女神は恐怖のあまり、きな子を両手で持ち上げ、盾のように前に突き出していた。

「(でも本当に、なんで誰もいないんだ?)」

誠児の頭に、恐怖を与えてくる大きな疑問が浮かび上がった。


探索すること10分・・・

誠児達はある部屋に注目していた。

これまでの空き部屋は、無造作にドアが開きっぱなしの部屋だったが、この部屋だけはなぜか、ドアが閉まっている。

誠児がドアノブを回すと、幸い鍵が開いていたので、すんなり入れた。


部屋の中は本棚があるだけで、今までの空き部屋と大して変わらない部屋だった。

ライカが本棚に近づき、本の背表紙をざっと見ていく。

「・・・これって異種族に関する本じゃない」

ライカの言う通り、本棚にあるのはエルフや人魚と言った、人間以外の種族に関する本ばかりだった。

そんな本の中に、ルドは気になる本を見つけ、手に取る。

「でも、中に医療関係の本が混じってるぜ?」

ルドが手に取ったのは、心界においての”外科に関する本”である。

「もっもしかして、ここは病院なのでしょうか?」

セリアがそう言うと、マナは首を横に振る。

「多分、違うと思います」

全員、マナと同意見だった。 誰もいない無人島に病院が建てられるとは考えにくい。

そもそも、武装した男達が警備している病院などある訳がない。

それから部屋の中を調べていると、突然ライカとルドが何かに気づいたかのように、部屋のドアに視線を送る。

「どうしたんだい? 2人共」

誠児がそう尋ねると、ライカが静かにこう言う。

「近くに誰かいる」

その言葉を聞いた途端、誠児達は背筋が凍るような感覚に襲われた。

ライカとルドは元々、亜人とケンタウロスなので、普通の人間より気配に敏感なのである。

「だっ誰かこの部屋に来るんか?」

恐怖を隠せない笑騎がそう尋ねると、ルドが首を横に振る。

「いや・・・この感覚だと、近くを通り過ぎているといった方がいいな。 多分オレ達には気づいていない」

誠児は勇気を出し、ドアの隙間からこっそりと、部屋の外を見渡す。

すると、誠児達のいる部屋から10メートルほど離れた通路を白髪の男の姿が歩いていた。

しかし先ほどの武装男とは違い、白衣を着ている。

「(なんだ? あの男は)」

誠児は白衣の男を目で追うが、途中にある角に視線を遮られ、見失ってしまった。

「誰かおったんか?」

笑騎がそう尋ねてきたので、誠児は一旦ドアを閉め、白衣の男のことをみんなに伝える。

「白衣を着た男が、向こうの通路を歩いて行ったのが見えた、

でも角を曲がったところで、見失ってしまったんだ」

誠児からの情報を聞き、ライカがこんな提案をする。

「ならいっそ、その男の後を付けてみる? この部屋はある程度調べたけど、本以外何もないみたいだし」

「きっ危険ではないでしょうか?」

不安そうなセリアの意見には、みんな最もだと思ったが・・・

「でもだからって、このままここにいても、状況は進展しないしな」

ルドの言う通り、このままこの部屋を調べるより、白衣の男を追った方が多くの状況を集められるかもしてない。

「よし。 とりあえず、俺が見た白衣の男を追うことにしよう。 でも、もし危険だと思ったらすぐに全員で逃げる。 あと絶対に無茶なことはしない・・・ってことでいい?」

誠児の提案に全員が頷いた。


部屋を出て、先ほど白衣の男を見失った角まで移動する誠児達。

しかし、ここで思わぬこと光景が飛び込んできた。

「あれっ? 行き止まり?」

誠児は目を疑った。 角を曲がった先に待ち構えていたのはなんと、”壁”。

「誠児。 本当にここなの?」

セリナが念のため誠児に尋ねる。

「間違いないよ! 確かにこっちに来たんだ」

誠児が困惑していると、きな子が女神にささやく。

「女神様。 ちょっとあの壁を適当に触ってみてくれへん?」

「えっ? どうしてですか?」

「ええから。 やってみて!」

「わっわかりました」

きな子に言われるがまま、適当に壁をペタペタと触り始める女神。

・・・その時!

「わっ!! なんですか!?これ」

女神が壁の一部に触れた瞬間、その部分が蓋のようにパカッと開き、中から数個のボタンが付いた機械が現れた。

『えぇぇぇ!?』

これには、全員が驚いた。

「やっぱりな。 こういった壁には隠し部屋への仕掛けがあるって、昔読んだ漫画に載ってたんや」

自慢げに胸を張るきな子に、「すっごーい!」とセリナと女神が拍手を送る。

「こっこんな映画みたいなことって現実にあるのか?」

目の前の現実がまだ信じられない誠児。

そこに、マナがおそるおそる手を上げながらある疑問を口にする。

「あの~、どうやってこの機械を操作するんですか?」

見たところ、数個のボタンを押してパスワードを入力するタイプの機械のようだ。

しかしパスワードなど、当然誰も知らない。

そんな中、きな子は「心配無用や」とマナに言い放つと、女神の背負っていたウサギリュックから、見たことのない小さな機械を取り出し、ケーブルを使って壁の機械とつなげる。


・・・それからわずか5分。

きな子の機械からピーという音が鳴ると、壁が自動ドアのように開いた。

「どっどうなってるんだ!?」

誠児は驚きのあまり、腰を抜かしてしまった。

「これくらいのセキュリティシステムやったら朝飯前や。

それよか、ウチならこれの数倍強いセキュリティシステムを作れるで?」

きな子が再び自慢げに胸を張る。

そんなきな子に、再び拍手を送るセリナと女神。

『・・・』

それ以外は、すでに驚き疲れていた・・・


隠し通路に入ると、それは階段になっており、誠児達はゆっくりと降りていく。

降りていくにつれ、下から人の声や機械音が聞こえてくる。

そして、ついに階段を降りきると、そこにあったのは・・・

『!!!』

驚愕の光景だった。

階段を下りた先は、巨大な地下室になっており、そこでは、つなぎを着た男達が機械の部品を運んでいたり

、白衣を着た男達が何らかの実験を行っていたのだ。

しかし誠児達がにより驚いたのは、巨大な水槽に閉じ込められた人魚達だった。

人魚達のほとんどは、ケガを負っており、中には水槽の底でぐったりしている人魚もいた。


「いったい、ここで何が起きているんだ?」

誠児は底知れぬ恐怖を感じながらも、親友を必ず見つける強い信念を心に抱いていた・・・

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