第38話 救出への船出
タバコを吸いに外に出た夜光の耳に飛び込んできたのは、海を思って歌うスノーラの歌だった。
そこへ、再び現れたミーナに、スノーラは自分の素直な気持ちを全力でぶつける。
そんな彼らに突如襲い掛かる巨大な網。
そして、網から伝わる電流で、3人は意識を失ってしまった・・・
同時刻、マイコミメンバーは、夜光へのおしおき時にサーマの部屋を荒らしてしまったことに関して、サーマに謝罪していた。
サーマは「済んだことだから気にしないでください」と言っているが、顔はかなり引きつっていた。
彼女たちの狂気に満ちた姿を見たのだから無理もない。
謝罪が終わり、4人が部屋に戻る道中、マインドブレスレットに通信が入った。
『みんな!!』
4人がスライドを開くと、画面に映ったのはゴウマであった。
「お父さん。 どうしたの?こんな時間に」
セリナがすっとんきょうな声でそう尋ねる。
「夜光とスノーラはいるか?」
「スノーラさんは、そのっお散歩に行かれました。やっ夜光さんは存じません」
セリアの回答に、ゴウマは"やはり"と言わんばかりに顔を引きつる。
『つい先ほど、夜光とスノーラの精神反応が途絶えた。こちらからいくら呼びかけても応答がない』
「機械の故障とかじゃないのか?」
『それなら良いのだが・・・』
ルドの言う通り、機械の故障という可能性は否定できない。かといって、2人が危険な目にあっていないとも言い切れない。
そこで、セリナがこんなことを言い始める。
「わかった! みんなで2人を探しに行こうよ!」
2人が心配になったセリナがそう言うが、ライカが冷静にこう告げる。
「探すってどこを? 精神反応がないってことはマインドブレスレットの検索機能でもわからないってことじゃない」
「じゃあ私、マナちゃんと女神様に手伝ってって頼んでくる!」
セリナそう言い残すと、マナと女神を探しに、どこかへ走って行った。
「おっおい! どこ行くんだよ!?」
ルドが慌ててセリナの後を追いかけて行き、残されたライカとセリアは・・・
「バカの行動はともかく、機械で探せない今みんなで探すってのは、あたしも同意するわ」
「そっそうですね・・・」
そんな2人に通信のゴウマが申し訳なさそうに言う。
『すまんな。 ワシの方もできる限りの捜索を行うが、君達の方でも捜索を頼む。 くれぐれも無茶だけはしないでくれ』
そこで、ゴウマは通信を切った。
「じゃあ、あたし達は誠児と笑騎を呼びに行くわよ?
こんな夜に女の子ばかりで行くのは危ないから」
「はっはい」
2人は誠児の笑騎を呼びに部屋へと向かった。
誠児と笑騎の部屋に訪れたライカとセリアは、部屋をノックする。
「君達。 どうかしたの?」」
部屋から出てきた誠児にライカが説明しようとすると・・・
「おぉ!! 美少女2人が俺に夜這いに来るなんて感激や!」
ライカとセリアが夜這いに来たと思い込んだ笑騎が2人に飛びつこうとする。
「さあ、俺の熱い夜を過ごそうや!!」
しかし、ライカとセリアは飛んでくる笑騎を軽く避け、笑騎はそのまま壁に激突し、気絶した。
「実は、夜光とスノーラの行方がわからなくなったの」
「えっ!? 夜光とスノーラが?」
「マインドブレスレットの反応もないし、手分けして探しに行こうと思うの」
「わかった。 俺も手伝うよ。人を探すなら、人数は多い方がいいからね」
「あっありがとうございます」
男性が苦手なセリアは、少し距離を置いて、誠児にお礼を言う。
「じゃあ、床に転がっているデブも連れてきてくれない? こんなのでもいないよりマシだし」
ライカが冷たい視線で気絶している笑騎を指す。
「わかった。 まあ何かあったら、おとりか盾にできるからね。 使えないこともないよ」
誠児なりのフォローのつもりだろうが、そのあまりに雑な扱いに
「お二人共、すっ少し言い過ぎなのでは・・・」
と若干引き気味なセリアであった。
誠児達は玄関の前まで移動すると、そこにはすでにセリナとルドとマナ、女神ときな子が誠児達を待っていた。
「集まったのはいいけど、どこから探すんだい?」
誠児の質問に、女神の肩にいるきな子が小さな機械を見せながら答える。
「それやけどな、ウチが最近開発した”きな子ちゃんマップ”で探してみたんや。
これによると、2人はこの島から少し離れた無人島におるようやで?」
『・・・』
誠児達は言葉を失った。
そんな機械があるなら、わざわざ集まる必要があったのか?・・・と。
そんな彼らにルドは同情の声を掛ける。
「お前らの気持ちはよくわかる。 オレもさっき聞いた時は、一瞬その機械をぶち壊したくなった」
「なにをごちゃごちゃ言っとんねん。 はよ行くで?」
きな子に急かされ、もやもやした気持ちを押し殺して誠児達はきな子の後を追う。
しばらく歩くと、海に出た。
「あそこにちっちゃく見える島がそうやな」
きな子が指す方向をよく見ると、確かに島らしき影が見える。
しかし、ここである難題が全員の頭に浮かぶ。
「あのぅ、あの島までどうやって行くんですか?」
マナの言う通り、この島には船らしきものはない。
イカダを作ろうにも、誰も作り方を知らない。
かと言って、泳ぐには遠すぎる。
「イーグルなら行けそうだけど・・・」
ルドの言うイーグルとは、アスト専用の飛行メカ。
それを使えば島までひとっ飛びだが、基本的に出撃時か命が危険にさらされるような緊急時以外は、エモーションは禁止されている。
しかし、この状況では仕方ないとマイコミメンバーが思った時、きな子がメンバーに向かって言う。
「わざわざエモーションする必要はないで? ウチと女神様がここまで乗ってきたボートがあるからそれに乗ろ」
「(なんでも持ってるな・・・)」
誠児がそう感心していると、きな子はどこからかリモコンのような機械を取り出し、海に向かってボタンを押す。
すると、水平線からものすごい勢いで、誠児達の元へボートがやってきた。
「これがウチの開発した”きな子ボート”や」
『(自分の名前は絶対に外さないのか・・・)』
と全員が突っ込むそのボートは、デザインがきな子である以外は、ただのスクリュー付きのボートだ。
その時、女神がふとあることに気づく。
「・・・? でもきなさん。 このボートって3人乗りじゃなかったですか?」
この場にいる人数は、きな子を除いて8名。
「なんやそれ!? ぜんぜん乗られへんやんか!」
「大丈夫や。 押し込めばあと7人は乗れる」
「えぇ!? それじゃあ、2人も仲間外れになっちゃうよ!?」
「おっお姉様。 余るのは2人ではなく、1人です」
姉の子供じみた間違いをこっそり訂正するセリア。
「えっ? え~と・・・いち、にぃ、さん・・・」
ついに指を使って計算するセリナ。
そのあまりに恥ずかしい姿に、セリアは思わず顔を背けてしまった。
そして、誠児が話を続ける。
「・・・とっとにかく、1人余るという問題についてはどうします?」
「安心しぃ、1人特別な席を用紙してる」
『特別な席?』
その後、じゃんけんの結果、特別な席には笑騎が座ることになった・・・
ボートの前席には、女神と誠児とマナ、プラスきな子。
後ろの空いたスペースにマイコミメンバーがすし詰め状態となった。
「・・・って待てぇぇぇ!! なんやこれはぁぁぁ!!」
残った笑騎は、ロープで体とボートの手すりにきつく結び付けられていた。
「しっかりとロープにしがみついときや~。 海に放り出されたら死ぬで~」
完全に他人事と思って、軽く注意するきな子。
「冗談ちゃうわ!! 俺は残る!!」
笑騎はなんとかロープを外そうとするが、きつく結ばれているため、外すことができない。
「それじゃあ、しっかり捕まっていてください!」
操縦者の女神はそう言うと、エンジンを始動させる。
そして、出発する直前に、きな子が恐ろしいことを呟く。
「・・・あっ! 言い忘れてたけど、このボート時速100キロくらいのスピードで進むから気ぃつけや」
『えっ!!?』
全員耳を疑ったが、それもすでに手遅れだった。
『うわぁぁぁ!!』
『いやぁぁぁ!!』
ボートはまるで、新幹線のような猛スピードで前進した。
猛スピードで進むボートで、誠児達は振り落とされないように必死に手すりに摑まる。
「めっ女神さまぁぁぁ!! もう少しスピードを落としてくださぁぁぁい!!」
「・・・えっ? マナさん何か言いました?」
マナの必死の叫びも、ボートのすさまじい音にかき消された。
「こっこんなことなら、イーグルで行けばよかったぁぁぁ!!」
必死に手すりにしがみつきながらも、海に放り出されそうなルドは、イーグルを使わなかったことを激しく後悔した。
「るっルドちゃん!! セリアちゃんが窒息しそうだよ!?」
セリナの目に飛び込んできたのは、手すりにつかまっているルドの胸とボートの床に顔を挟まれたセリアだった。
「・・・」
挟まれているおかげで振り落とされることはないが、セリアは苦しそうに必死にもがいている。
「ルドちゃん! 早くセリアちゃんを離さないと死んじゃうよ!!」
「無茶言うな!!」
ルドもセリナも手すりにつかまっているのが、やっとだ。
この状況で手を放すことは自殺に等しい。
「って言うか、あんたこそ離しなさいよ!!」
そう訴えるライカは、セリナにしがみつかれていた。
とっさに手すりを掴むことができなかったセリナは、そばにいたライカにしがみつくしかなかった。
それならいいが、ライカが訴えているのは、セリナが必死にしがみつくあまりに、ライカの胸を掴んでしまっていることだ。
「あんたこれで二度目じゃない!!」
「わっわざとじゃないよぉぉぉ!!」
そんなこんなでなんとか振り落とされないようにしているが、一番必死なのは・・・
「ゴボゴボ!!(助けてくれぇぇぇ!! ホンマに死んでまうぅぅぅ!!)」
ロープで結ばれていた笑騎は、出発してからずっと、海中に沈んでいた。
おまけにボートに引っ張られているため、身動きできない状態なのだ。
そしてついに、島まであとわずかの距離まで来た。
「めっ女神様!! そろそろブレーキを掛けてください!!」
「あっ、そうですね」
誠児の必死の叫びは、なんとか届いたようだ・・・が。
「あっ・・・」
「どっどうしました? 女神様」
女神はなにやら鉄の棒のようなものを誠児に見せた。
「あはは、ブレーキ壊れちゃいました」
それは誠児達にとって最悪の結末であった。
『なっなにぃぃぃ!!』
「このアホ女神!! 何しとんじゃ!!」
きな子も怒りのあまり、女神の頭を叩く。
「ごっごめんなさぁぁぁい!!」
謝ったところで、ブレーキは直らない。
「きな子さん!! ほかにボートを止める方法はないんですか!?
このままじゃ、島に乗り上げてしまいます!!」
「・・・しゃーない。 こうなったら奥の手や!」
きな子はボートの隅にある”緊急用”と書かれた箱からウサギサイズのリュックを取り出し、それを背負う。
「そっそれでどうするんですか!?」
誠児がそう尋ねた時、きな子は敬礼しながらこう言う。
「みんな・・・検討を祈るで」
きな子がリュックのヒモを引くと、リュックからミニサイズのパラシュートが飛び出した。
ボートの猛スピードで出る風を利用し、きな子はパラシュートで上空へと飛び去った。
「・・・逃げるなぁぁぁ!!」
そして、残された誠児達はそのまま島へと乗り上げたのであった。
島に乗り上げた誠児達は、直後に浜辺へと放り出され、どうにかケガをしなくてすんだ。
「・・・死ぬかと思った」
誠児はまだボートに必死に摑まっていたせいで、手足が少し麻痺し、うまく立ちあがることができない。
それはほかの者も同じようだ。
そこへパラシュートで逃げたきな子がゆっくりと、誠児達の元へと降りてきた。
「みんな無事か?」
「・・・よくその口でそんな言葉を言えますね」
誠児はこの時、初めてきな子に怒りを向けた。
しかし、きな子は悪びれもせず、
「男がちっちゃいことを気にしたらアカン。 そんなことより、さっき空から見たとき、この島の中央にでっかい建物みたいなんがあってな? その中に人が入っていくのが見えたんや」
「えっ? この島って無人島じゃないんですか?」
「せや。 もしかしたら、あいつらが何か知っとるかもしれん」
きな子が目撃情報を話し終わると、女神がきな子を称賛する。
「きなさん。 あんな上空でよくそんなに見ることができましたね」
「ウチの視力は両目合わせて20.0やからな。 ウサギを舐めたらあかんで?」
「(・・・どんな視力だよ)」
そして手足の麻痺から回復した誠児達は、きな子が目撃した建物を目指して出発することにした。
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