第40話 翻弄される白衣

行方不明の夜光とスノーラを探しに、謎の建物に侵入した誠児達。

建物内を捜索する中、地下へと続く隠し階段を見つけた。

誠児達がその先で見たのは、傷ついた人魚達が捕まっている人魚達であった・・・


階段を下りた誠児達は、一旦近くにあった巨大な機械の後ろに身を隠した。

「・・・いったい、これはなんなんだ?」

誠児達が見ているのは、ケガをした人魚達が入れられた巨大な水槽と部屋を囲むように並んでいるさまざまな機械。

誠児達がいるのは、部屋を取り囲む大きな機械の後ろにある空きスペース。

きな子が推測によると、水槽の水をきれいにするクリーナーのような機械とのこと。

人魚は海の中か清潔な水の中でしか生きることができないため、水槽内の細菌を取り除く必要があるので、人魚にとっては命綱のような機械だという。

何体かの人魚が、実験台のようなテーブルの上に置かれ、機械から出ている無数の数十本のチューブを取り付けられている。

その人魚達の横には、モニターのような機械があり、白衣の男達が人魚について何かを調べているというのがうかがえる


この光景を見たルドには、思い当たることがあった。

「もしかして、昼間スノーラが話していた【異種族ハンター】か?」

「異種族ハンター?」

聞きならない言葉に、誠児は聞き返す。

「異種族専門のハンターのことだ。 スノーラはそいつらにひれを奪われちまって、障害者になっちまったんだ」

「まあ、異種族を狩ったり捕獲したりすることは、法律で禁止されているけど」

ライカの補足説明を聞き、誠児はここにいる人間たちは犯罪集団だと理解した。

「俺達が今すべきことは、夜光とスノーラを探すことだ。 人魚達のことは気になるが、今は2人のことを優先しよう」

「そういうても、ここからどうやって探すんや? また女神様に暴れてもらうんか?」

笑騎の言葉と共に、誠児たちの視線が女神へと向けられる。

「えっ? 私ですか?」

先ほど建物の外を警備していた男達を女神は怒りのパワーによって全滅させた。

「それは最終手段としておこう。 下手に暴れてしまったら、奴らがどんな反撃をするかわからないからな」

「な・・・なんだか猛獣みたいに扱われているような・・・」

みんなの扱いに関して落ち込む女神だが、実際暴れだしたら猛獣と変わらないのは事実である。

落ち込む女神を横目に、セリナがこんなことを言い出す。

「そうだ! ここの人たちに、2人がどこにいるか聞けばいいんだよ」

「えっ? せっセリナちゃん何を言っているの?」

セリナのとんちんかんな言葉に、マナ聞き返す。

「お父さんがよく言ってるよ? 職場でわからないことは自分でなんとかしようとしないで、素直に人に聞くことが大事だって」

「そっそれはそうだけど・・・」

セリナのドヤ顔に、マナは掛ける言葉を失う。

・・・ところが。

「そうだな。 わからないことは人に聞くべきだよな?」

セリナに賛同しながらも、拳を鳴らすルド。

「・・・そうね。 たまにはバカみたいにシンプルに考えるのも悪くないわね」

称賛しているのかディスっているのかよくわからないライカ。

2人の表情は笑っているように見えるが、微笑みというより企みを感じる。

「・・・? 2人共、なんの話をしているんだい?」

誠児がそう尋ねると、きな子がため息をついてこう言う。

「鈍い男やな。 誰かを拉致って2人の居場所を吐かせるっちゅうこっちゃ」

まるで海外映画の王道的な方法に、誠児は頭を抱える。

「そんなベタな方法で、わかるものなんですか?」

「まあ、ものは試しや」

とか言いながらも、さりげなくあとずさりするきな子。

「じゃあ拉致るんやったら、武装してるヤバそうな奴より、ヒョロそうな白衣を狙うのがええやろ」

しかし、誠児が拉致について、1つ気がかりがあった。

「でも、拉致した白衣をどこで居場所を吐かせるっていうんだ? こんな機械の後ろだと、騒がれたらすぐ見つかってしまうかもしれない」

大きな機械が動いているというのに、機械音はほとんどしないため部屋の中はかなり静かだ。

誰かを拉致しても、ここで騒がれたらすぐに見つかる。

その上、きな子がさらなる心配事を重ねる。

「それにな。 こういった機械はデリケートなんや。 ウチらの足元に、ケーブルが何本もあるやろ?

なにかの拍子で1本でも取れてもうたら、この機械は動かんようになるで? そうなったら水槽の人魚達は死んでまう」

きな子の言う通り、誠児達の足元には数えきれないほどのケーブルが機械に繋がれていた。

人魚達を海へ返す方法がない今、この機械を止めるということは、人魚達の死を意味する。

「どこかに良い場所はないのか・・・?」

悩む誠児の視界に入ってきたのは、処分室と書かれた部屋から白衣の男が出てきた場面であった。

その男は、鍵を掛けずにその部屋を去っていった。

「きな子様。 あの部屋はなんでしょう?」

尋ねられたきな子が、誠児の視線の先にある部屋を見る。

「あれは処分室やな。 機械のいらん部品とか壊れた部品をまとめて置いてある部屋や」

「さっき、鍵を掛けずに部屋を出て行ったみたいなんですが」

「そうやろな。 あの部屋は要するにゴミ置き場なわけやし」

誠児はそれを聞くと、すぐさまみんなに伝える。

「みんな。 あそこにある処分室を使うのはどうだろう? 今は鍵が掛かっていないようだし」

全員の視線が処分室に集中すると、マナが一言呟く。

「ここよりは安全そうですね」

ほかも同意見なようなので、誠児達は見つからないように慎重に処分室へと移動した。


処分室のドアノブを回すと、思った通り鍵は掛かっていない。

中はいろんな部品が散乱しているため、万が一誰かが入ってきても隠れることはできそうだ。

「よしっ。 じゃあオレが適当な白衣を引きずりこんでやる!」

やる気満々のルドに対し、ライカは冷静にこう言う。

「やめておきなさい。パワーバカのあんたじゃ手加減できずに気絶させるのがオチよ」

「なんだよそれ! じゃあお前がやるのか?」

「か弱い女の子であるあたしがそんな物騒なことできると思う?」

『(か弱い・・・)』

普段から影と戦ったり、夜光と対等に喧嘩しているライカのその言葉に、全員疑問を感じざるおえない。

「じゃあ誰がやるんだ?」

ルドがそう聞くと、意外な人物が名乗りを上げた。

「あの・・・私が」

おそるおそる手を上げたのは、なんとセリアだった。

「いやいや、セリアちゃん。 お姫様がそんなんしたらあかんやろ?

なによりホンマにか弱い女の子なんやから」

「ちょっとタヌキ。 そのホンマってどういう意味よ?」

笑騎の失言に、ライカが食って掛かるのを、「まあまあ、落ち着いて」となだめる女神。

その3人は放っておいて、誠児がセリアに優しい声で尋ねる。

「セリア。 できるという自信はあるのかい?」

「じっ自信はありませんが、わっ私も何かお役に立ちたいと思いましたので。

そそそれに、夜光さんとスノーラさんが心配ですので、その・・・」

話をすることや目立つことを好まないセリアが、2人のために何かしようとする気持ちを、誠児は自身がないからと言って、「ダメだ」とは言えなかった。

「・・・わかった。 君に任せよう。 でも、無理をするのはダメだ。

危険だと感じたらすぐに全員で逃げる。 約束できるかい?」

「はっはい」

誠児はセリアの強い意志を聞くと、それ以上は何も言わなかった。


セリアがドアの隙間から拉致できそうな白衣を探している間、誠児達は処分予定の部品の影に隠れることにした。

・・・そして、それから10分ほど経った時!


処分室の前の通路を、がりがりの白衣男が通り掛かろうとしている。

しかもラッキーなことに、その男以外は誰もいない。

白衣の男が処分室の前を通った瞬間!

セリアは大きめのポケットに入っていた包丁を取り出し、音を立てずにドアを開け、左手で白衣の男の口を塞ぎ、右手に持つ包丁を白衣の男の首元に突き付けた。

「・・・抵抗はしないでください。 動くと首が飛びますよ?」

セリアの顔は冷徹な無の表情で、目の輝きは失っていた。

白衣の男が恐怖のあまり頷くと、セリアは急いで白衣の男を処分室へと引きずりこんだ。


セリアが手を離すと、白衣の男は力が抜けたように倒れ込んだ。

「あっあのっ、おおお連れしました」

いつもの顔に戻ったセリアがそう言うと、誠児達は部品の影から、おそるおそる出てきた。

『・・・』

「あっあの、どうかなさいました?」

無言でセリアと目を合わせない誠児達に、セリアは困惑する。

誰も口を開けない状況で、ライカが重い口を開いた。

「・・・ねぇ、セリア。 2つツッコんでもいい?」

「なんでしょうか?」

「まず1つ目。 その包丁どっから出したの?」

「あっ! これはその・・・サーマさんのお部屋から拝借した物をうううっかり返しそびれてしまったので・・・」

セリアの包丁は、夜光がサーマとの情事を楽しんでいたときに、夜光へのおしおきで使用したものであった。

「じゃあ2つ目。 なんであんなに手際よく拉致できたわけ? あんた殺し屋でもやってたの?」

「ちち違います! その・・・昔、剣術を習っていた時に、相手の懐にすばやく入り、剣をのど元に突き出す技を教わったので、そっその技を使用しただけです」

セリアは驚くほどのことではないと遠まわしの言うが、普段のセリアとのギャップが強いため、全員唖然としていたのだ。

そんな中、マナがこっそりセリナに聞く。

「セリアちゃんって、昔からあんな感じなの?」

「そうだね。 普段はとっても優しいし、怒ることもほとんどないんだけど、本気になったら騎士団の人たちと良い勝負ができるって、昔お父さんが言ってたよ?」

そう言いながらも、きちんとメモをチェックしているセリナであった。


セリアのことはひとまず置き、誠児達は拉致した白衣の男を処分室で見つけたロープで縛り上げ情報を得ることにした。

「なっなんなんだ!? 君達は!?」

白衣の男はようやく話せるようになったようなので、誠児は膝を曲げて、縛られている白衣の男と目線を合わせた。

「こんな乱暴なことをしてしまったことは謝りますが、あなたに少し聞きたいことがあります」

丁寧に尋ねる誠児の足元にいるきな子が追い打ちをかけるように、 

「正直に言った方がええで? さもないと、あんたのきっちゃない息子が旅立ってまうで?」

きな子は女神のリュックから取り出したウサギサイズのはさみを、白衣の男の股間を狙ってチョキチョキと動かす。

「ひっ!! わっわかったからはさみを引っ込めてくれ!!」

男にとっては、ある意味首を飛ばされるよりつらい仕打ちである。

白衣の男は必死に足を閉じて、股間をガードする。

誠児ははさみを持つきな子を手で静止し、質問に移った。

「ではまず、この地下室のどこかに、男女の2人組がいませんか?」

「だっ男女の2人組?」

首を傾げる白衣の男に、笑騎が補足情報を加える。

「黒髪をサイドポニーにまとめてる巨乳の可愛い女の子と、顔も性格も汚いクズの見本みたいなおっさんや」

笑騎の情報には個人的な感情が混じっているが、間違いではないので、あえてスルーした。

「・・・そっそういえば、さっきそんな感じの2人組を見かけたような・・・」

「それはどこですか!?」

誠児が白衣の男に詰め寄ると、白衣は言葉を絞るように言う。

「えっと・・・確か隔離室だったと思います」

「その部屋はどこにあるんですか!?」

「こっここの通路の突き当たりにあります!」

「突き当たり・・・」

この情報に、夜光とスノーラの居場所がわかったかもしれない喜びを感じたと同時に、その部屋にどうやって行くかという問題を抱えてしまった。

「突き当たりの部屋って情報はうれしいけど、問題はそこまでどうやっていくかよね。 もし武装した連中に見つかれば、今度は問答無用で撃ってくるわよ?」

ライカの言う通り。 誠児達は通路を把握できていない上、武装した男達もうろついている。

外では銃を突きつけられてもすぐには撃ってこなかったが、内部なら間違いなく撃ってくる。

誠児達が隔離室へのルートを検討している時に、またもきな子が出てくる。

「ふっふっふ。 みんなそう言う思て、ここの部品でこんなん作ってみたんや」

全員がきな子に視線を向けると、きな子の横には、トランクケースほどの大きさをしたドリルが作られていた。

「きなさん。 いつの間に!!」

驚く女神の肩に乗り、きな子は自慢げに言う。

「みんなが拉致役を誰にするか悩んでいた時に、移動に困るやろなと思って。軽く作ってみたんや!

どやっ! すごいやろ!!」

『・・・』

もはや誠児達はきな子の発明に対して、驚きを通り越して呆れ始めてしまった。

そんな中、ふと我に返ったルドが白衣の男にこんな質問をする。

「そういえば聞き忘れていたんだけど、お前たちは人魚を拉致してここで何をしているんだ?」

「えっ!? そっそれは・・・その・・・」

またも口を閉ざそうとする白衣の男に、きな子が再び追い打ちをかける。

「そうや。 試運転代わりに、このドリルであんたの息子に穴を空けたろか?」

ドリルを白衣の男に向けるきな子に、恐れを感じた白衣の男は慌てて

「わっわかりました!! わかりました!! すべてお話します!!」

その後、白衣の男が語った異種族ハンター達の目的に。誠児達は言葉を失うのであった・・・

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