第16話 孤立するライカ
富豪のウィンバという男の屋敷に強盗団が入った。その中には影のメンバーがいるようだ。夜光たちマイコミメンバーは騎士団が到着するまで救助活動を行うことになった。屋敷内を探索していたライカとスノーラは偶然、強盗団を発見した。
スノーラの制止も聞かずにライカは単身、影の1人【スコーダー】に挑むのであった。
対峙するライカとスコーダー。
ライカは鉄扇を構えるが、スコーダーは構えもせず、ただじっとしていた。
一見隙だらけなようにも見えるが、ライカにとっては不気味でしかたなかった。
辺りを見渡すものの、罠のようなものも伏兵も。間違いなく敵はスコーダーのみ。
「(何を考えてるかしらないけど、来ないならこっちからいかせてもらう!)」
ライカはすばやくスコーダーとの距離を詰め、懐に入り、鉄扇を素早く仰いだ。
すると、鉄扇を仰いだ際に発生した風が刃に変形し、巣コーダーを襲った。
これは、空気中の風を刃のように変形させ、手裏剣のように敵に当てるライカの通常攻撃。
「なっ!!」
だがスコーダーの鎧には傷1つ付かず、ダメージを負ったそぶりも見せない。
ゼロ距離から急所を狙ったはずが、全く効果のないことに、ライカは冷や汗を1粒流した。
「くっ!!」
ライカは再びスコーダーから距離を取り、鉄扇をから無数の風がするどい音を立ててスコーダーを襲う。
だがスコーダーは素早い動きで風の刃を全てかわし、1発も命中しないかった。
そこで、ライカはスコーダーの顔を集中的に攻撃し、スコーダーをひるませようと考えた。
「くっ!」
無数に襲う風の刃の1つがついにスコーダーの顔に命中した!
その一瞬の隙を狙い、ライカはスコーダーに向かって鉄扇を大きく振ったのと同時に小型の竜巻が発生した。
地面に落ちていた本や倒れていた本棚が竜巻に飲み込まれると細切れに切り裂れた。
しかし、スコーダーはライカの予想よりも早く回復し、竜巻を避けようとした・・・が、その時、窓の外にあるものを見た。
それは、強盗団の部下たちだった。
スコーダーが心配になり、全員すぐそばまで来ていたようだ。
「(くっ! このまま避ける訳にはいかない・・・)」
このまま竜巻を放っておけば、確実に部下たちが巻き込まれる。
スコーダーは逃げるのをやめ、竜巻に自分から当たりにいった!
その様子をドアの影で見ていたスノーラは不穏な空気を体を支配するかのように感じ取った。
「(なんだ? この予感・・・わからないが、あのすさまじい電力・・・危険だ!)」
そこへ、聞こえてきた足音。スノーラが振り返ると夜光たちだった。
ライカが飛び出したあと、急いで、ゴウマと夜光たちに連絡を取り、ゴウマから隙を見て撤退せよと指示を受け、心配になった夜光たち(夜光はセリナたちに強引に連れてこられた)は急いでスノーラの元へ向かったということである。
「スノーラ! ライカは!?」
慌てるルドの問いにスノーラは冷静に答えた。
「この部屋の中で影と戦闘中だ。しかし、見たところライカに勝ち目はない」
夜光たちが部屋の中を見ると、
「なっ何!? あの竜巻!」
驚くセリナにスノーラが答える。
「ライカの起こした竜巻です。それより、今は撤退する方が先です。
影は今のところ竜巻に注意を向けているので、この隙に私がライカを連れてきます」
「1人で!? そんなの危ないよ!?」
必死に止めるセリナだがスノーラは続ける。
「我々の中で最も機動力が高いのは私とライカです。セリナ様やルドでは竜巻に巻き込まれる恐れがあります。ですから、今は私1人で行くのが最善の行動です」
スノーラの言う通り、竜巻に巻き込まれずにすばやくライカに近づけられるスピードがあるのはスノーラのみだ。
「すぐにライカを連れてきます!」
スノーラはそういうと部屋の中へ飛び込んだ!
「スノーラ!!」
「スノーラちゃん!!」
部屋に入ったスノーラは竜巻に巻き込まれないよう注意を払い全速力でライカの元へ走った。
「ライカ!!」
スノーラの呼び掛けに反応し、ライカは驚く様子もなく顔を向けた。
「スノーラ。何しに来たの?」
「影が何かをする気だ。何をするかはわからないが、危険なのはたしかだ! ここから撤退するぞ!」
しかし、ライカは強い口調で
「何言ってんの? 影が目の前にいるのに逃げる訳? あんたどこまで臆病なの?」
ライカの言葉に一瞬怒りを覚えたが、今はそれどころではない。
「臆病でもなんでもいい! 撤退するんだ!」
しかしライカは聞く耳を持たず、スノーラを突き飛ばした。
「そんなに撤退したいならあんた1人でしなさいよ。理由はわからないけど、敵は全く攻撃してこないわ。そんな敵怖くもないわ」
「だが、今は明らかになんらかの行動を起こそうとしているんだ!
急げ!」
ついにスノーラはライカの腕を掴み、強引に撤退させようとした。
「離しなさいよ!」
ライカはスノーラの手を振りほどこうとするが、スノーラは離さない。しかし、そんなことをしている間に、ついにスコーダーが
行動を起こした。
「はっ!」
膨大な量の電気を手に溜めていたスコーダーが、右手を前に付き出すと同時にその電気を一気に放電した。
放電した電気はライカの竜巻に命中し、あまりの力に竜巻は消し飛んだ。
「なっ!!」
その光景を見て、ライカの体に恐怖がまとわりついた。
ライカにとって最大の技でもある竜巻を一撃で消し飛ばした現実が信じられなかったのだ。
しかし、ここで最悪の結果が待っていた。
放電した電気は部屋のあちこちを破壊していった。
その時!
「ライカ!!」
スノーラはそう叫ぶと同時にライカを突飛ばした。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
ライカをかばったスノーラは雷撃の直撃をくらった。
アストを装着しているにも関わらず、そのあまりの威力にスノーラの全身には激痛が走った。
ライカは、恐怖のあまり声も出なかった。
雷撃が収まると同時にスノーラは倒れ、アストも光とともに消えた。
アストは装着者の意識がなくなると自動的に解除されるのだ。
スコーダーの攻撃が完全に収まると、スコーダー本人はいつの間にか姿を消していた。
攻撃が収まったおかげで、部屋の中の視界が良くなり、夜光たちは状況を把握することができた。
倒れたスノーラを発見すると、セリナとルドは血相変えて走り寄った。
「スノーラちゃん!!」
「スノーラ!!」
スノーラは全身にやけどを負って、完全に意識を失っているため2人の呼び掛けにも応答しなかった。
あとから夜光とセリアもスノーラに歩み寄り、状況を確認すると、夜光はマイブレを操作し、ゴウマに連絡を取る。
『夜光君! 状況はどうなっているんだ?みんなは無事か!?』
顔を見てゴウマは不安と心配でいっぱいというのはよくわかった。
「ポニーテール娘がすげぇ電気浴びちまってな? かなり重傷みたいだ。医者に診てもらった方がいいな」
ポニーテール娘とはスノーラのこと。今だに名前を覚えられない夜光は特徴で呼び名を決めている。
『わかった!すぐスノーラを転送する!みんなをスノーラから離してくれ!』
ゴウマはそれだけ言うと、急いで通信を切った。
「お前ら、国王が転送するからそいつから離れろだとよ」
夜光の言葉を聞き、みんなは黙ってスノーラから離れた。
すると、すぐスノーラのマイブレが突然光輝いた。光がスノーラを包み込むとスノーラの体は光と共に消えた。
「・・・あいつどうなったんだ?」
気になった夜光がルドに尋ねる。
「ホームの地下施設に転送されたんだ。たぶんもうホームの医療ルームに運ばれてると思うぜ?」
「(一瞬、宇宙人に誘拐されたのかと思った)」
そんなことを考えている夜光の横目に、床に座ったまま動揺しているライカが映った。
それからまもなく、一旦屋敷の外に出た夜光たちの目の前に西洋の鎧を着た人間たちが馬に乗って現れた。
どうやら、騎士団が到着したようだ。騎士団の名かからリーダー風の男性が夜光たちに近づき、
「アストの諸君、ごくろうだった。あとのことは我々にまかせてもらおう」
そう言うとリーダー風の男性は部下たちに向かって命令を下した。
「これより二手に別れる!A班は怪我人の手当て、及び病院への搬送!B班は私と共に屋敷内の調査だ!」
「「「「了解」」」」
返事と共に、すぐさま騎士団たちは行動に移った。
そこへゴウマから全員に連絡が入った。
『みんな!』
連絡がきた途端、すぐさまルドが焦った様子で
「ゴウマ様! スノーラは大丈夫なのか!?」
それはこの場の全員が今、知りたいことだ。
『かなりの重傷だ。今は医療ルームで治療を受けているが、アストを装着していたから、命に別状はないだろう。だが、危険なことには代わりない』
「そんな・・・」
言葉を失うセリナに対し、夜光は現状報告をする。
「ところで、今さっき騎士団ってのが来たみたいだぜ?」
『そうか。みんなよく頑張った。あとは騎士団にまかせて一度帰還してくれ』
こうして2度目の調査が終わり、夜光たちはホームへと帰還した。
帰還後、夜光たちは医療ルームに集まった。
ルドとセリナはスノーラのことが心配で、ずっと治療室の前で治療が終わるのを待っていた。
夜光は疲れたので、医療ルームのベッドで横になり、
セリアは隣のベッドに腰掛けていた。
ライカは精神力を少し使い過ぎたため、医療ルームのソファーに座って休んでいた。
それから、2時間後……。
治療室のドアが開き、中からゴウマが出てきた。
開口一番に、ルドが「スノーラは!?」と容態を聞く。
ゴウマはルドたちを落ち着かせるような穏やかな口調でこう答えた。
「医者の話によると、感電によるやけどはひどかったが、内臓まではダメージを負っていないそうだ。さっき治療が終わってな?今はゆっくり眠っている」
それを聞き、ほっとしたルドは床に膝をつき「よかった・・・」と安堵した。
「グスッ。本当に・・・よかったよぉぉ」
セリナに関してはその場で泣き出した。
治療室から出てきたスノーラは医療ルームのスタッフたちによって夜光が横になっていたベッドの向かいのベッドに移された。
ルドとセリナはスノーラのベッドに寄り、スノーラの寝顔を見て、
ようやく表情が明るくなった。
ゴウマは騎士団からウィンバの屋敷の調査報告書がゴウマの城に届いたとの知らせを受け、一旦、城の方へ戻った。
ルド達がスノーラを心配する中、突然ライカが立ち上がり、医療ルームを出ようとした。
ルドは「おい! ライカ。どこへ行くんだ!?」と大声で尋ねる。
するとライカはルドに冷たい視線を向けてこう返す。
「帰るに決まってるでしょ? アストの任務は終わったし、今日はマイコミないから」
ライカのあまりに平然とした態度にルドは怒った。
「よく何事もなかったかのように帰れるな!!誰のせいでスノーラがこうなったかわかってんのか!?」
ルドの感情を爆発させた言葉でも、ライカは平然と答えた。
「あたしのせいって言いたい訳? 冗談じゃないわ。あたしは1度も庇ってくれだなんて頼んでないわ!!スノーラが勝手にあたしを庇って、勝手に怪我しただけじゃない」
あまりのひどい言葉にセリナまでもライカに噛みついた。
「ひどいよ!!ライカちゃん。友達をなんだと思ってるの!?」
セリナの言葉にライカは呆れたような表情を浮かべる。
「友達?バカじゃないの? あたしたちはただ、アストを装着できる者同士がただの集まっただけじゃない。
勝手に友達扱いしないでくれる? 迷惑よ!!」
「なんだと!!」
ルドはついにライカに掴みかかった。
「やる気? 別にいいけど手加減はしないわよ?」
「上等だ!」
今にも喧嘩が始まりそうにな雰囲気にセリナが慌てて止めに入る。
「2人共! 喧嘩はやめてよ!」
「止めるなセリナ! こいつだけは許さねぇ!!」
ルドは拳を振り上げようとした時、セリナは両手でルドの拳を必死に抑えた。
こんな状況でも呑気に横になっている夜光にセリアが小声で
「あ・・・あの、止めなくてもよっよろしいのでしょうか?」
喧嘩を止める自信がないため、夜光に尋ねるセリア。
「・・・ったく」
面倒くさそうにベッドから立ち上がり、ライカとルドに歩み寄る。
「おい。お前ら。喧嘩はいいが、せめて場所を変えろ。眠れねぇだろ?」
止める気がまったくない夜光にセリナは「もう! 少しは止めてよ!!」と怒る始末。
「・・・まったく。ガキってのはうるさい生き物だな」
やれやれと言わんばかりに首を振り、夜光はルドを抑えていたセリナを引き離した。
「ちょっちょっと!なにするの!?」
「要は、牛はクソガキを殴りたくて、クソガキは帰りたいだけだろ?なら、さっさとやらせてこの場を収めた方がお互いすっきりするだろ?」
「・・・もう少し、良い呼び名はなかったの?」
夜光の行動より、呼び名の方に引いたセリナ。
本当なら「名前くらい覚えてよ!」と言いたい所だが、忘れっぽい自分では説得力がないと返されそうなので言えなかった・・・
2人のやり取りで気が抜けたルドは、ライカから手を離す。
しかし目はまだ怒っている
「夜光にまで気を使われたら、殴る気も起きなくなった。それに今はスノーラが心配だしな」
ルドはそういうと先ほどの席に座り直した。
ライカは乱れた服を直し、無言で立ち去った。
その日の夜……。
アパートに戻った夜光が部屋でくつろいでいた時だった。
トントンと夜光の部屋のドアをノックする音がした。
「誰だ?」
ドアを開ける前に夜光が尋ねると、「俺だ、誠児だ」と返答があり、夜光はドアを開けた。
「なんだ、お前かよ。美女を期待したのに」
「俺で悪かったな。せっかく差し入れ持ってきてやったのに」
誠児が持っていたのは、1枚の紙だった。
「なんだよその紙きれ」
「昼に笑騎が書いたライカって子の家の地図だ」
「本当に書いたのかよ」
夜光は地図を受けとり、中身を見てた。その地図は実にわかりやすく描かれていて、建物や道順も細かく書かれていた。
「人は見かけによらねぇな・・・それで当の本人は?」
そう尋ねると、誠児はため息をつきつつ答えた。
「町に行ったよ。何でも彼女と会うんだってさ」
「生意気に女がいたのか? あのデブダヌキ」
後の話にはるが、笑騎の彼女が気になった2人が写真を見せてもらった所、そのあまりの美しさに、2人の思考は停止した。
少し話がそれた所で、夜光の部屋で本題に入る誠児。
「まあとにかくこの地図を見る限り、そんなに遠くはないな」
笑騎の地図によるとライカの家はホームから5キロほど離れた所にあるようだ。
「だからなんで行く前提で話が進んでいるんだ?」
嫌がる夜光に誠児がこんな話をしてきた。
「ゴウマ国王から聞いたぜ? 昨日の喧嘩が原因でメンバーの1人が怪我したんだろ?このままじゃ、また誰かが怪我するかもしれないだろ?なりゆきとはいえデイケアのスタッフになったんだ。
メンバーの力を支えるのはスタッフの義務だ」
力強い目で夜光に語り掛ける誠児に、夜光は嫌だとは言えなかった。
そこで夜光はこんな提案をする。
「でもよ、だったらお前の方が適任じゃねぇか?精神科医師を目指してんだから。俺は支えるとか相談にのるなんてガラじゃねぇよ」
夜光は腰掛けていた自分のベッドに横になり、誠児とは反対方向を向いた。それは乗り気じゃないという現れだった。
誠児は夜光とは違い、人と真剣に向き合うことができる男だ。
実際、ホームに来てからまだ間もないというのに、すでに数名のケアを任せてもらっている。
「ガラの問題じゃないよ。 カウンセリングで大切なのは、相手の気持ちを知りたいって言う志だ。
お前にだって、その気持ちはあるはずだろ?」
「・・・さあな」
誠児はうっすらと笑みを浮かべて立ち上がり、笑騎の地図を机に置いた。
「俺はそろそろ部屋に戻って寝るよ」
誠児はそれだけ言うと、そのまま夜光の部屋を出た。
その後、夜光は起き上がり、誠児の置いていった笑騎の地図を手に取り、少し見ただけで机の上に戻し、ベッドに戻って眠りについた・・・
夜光はライカの家に訪問するのか?
そして、スノーラはいつ目を覚ますのであろうか?
さて、どうなる?
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