第15話 氷と風と電気
ホームで行われる演劇発表会に出る事になった夜光たち。
さっそく、演劇発表会に向って劇の練習をすることにした。
あくまで演劇はほかのプログラムとの交流と演劇を楽しむことが目的なので、別に演技が上手くなくても良いのだが、あまりの演技のなさに嫌気が差したライカは激怒し、スノーラと口論をしてしまい、その上演劇の練習を放棄してしまい、マイコミルームを後にしてしまった。
その翌日、夜光は就労支援での訓練を一緒に受けていた誠児と偶然訓練を担当していた笑騎にそのことを相談することにした。
その日の訓練は午前中で終わり、夜光と誠児と笑騎の3人はホームの食堂で昼食を取ることにした。
3人が席に座ると「ご注文はお決まりですか?」とさっそく注文を聞きに店員の女の子が近づいてきた。
夜光はその店員を見た途端「あっ!」と驚いた。
店員も夜光を見ると驚いきのあまり少し大きめの声でこう言う。
「あっ! あなたは確かセリナのスタッフさん」
注文を聞きにきたのは、この前ラジオ局で出会ったセリナの友人のマナだった。
以前は私服姿であったが、今回はウェイトレスの恰好をしている。
「お久しぶりです。火事の時は大丈夫でしたか?」
スマイル局での火事以来、夜光とは会っていないマナが心配そうに尋ねると、夜光は「あぁ、大丈夫だ」と返す。
それを聞いて安心したのかマナはほっと胸を撫でおろした。
「それはそうと、お前なんでこんなとこにいるんだ?」
「はい。 実は私、ここでアルバイトをさせてもらっているんです」
マナが言うには、幼い頃から両親がいないため、しばらくは孤児院で暮らしていたのだが、13歳の時から、孤児院にずっと世話になる訳にはいかいと、生活費を稼ぐためにバイトを掛け持ちしていると言う。
それを聞き、誠児は感心したように深く頷く。
「厳しい環境でも、夢に向かって努力するなんて素晴らしいよ」
誠児に誉められたのが嬉しかったのか、マナは「いえ、そんなことは」と少し顔を赤らめた。
そんな中、おもしろくなさそうな顔をしていた笑騎。
気になっった夜光が「お前さっきから、やけに不機嫌だな?」と聞きつつ、どうせもよさそうに水を飲む。
「世の中の不公平さに怒りを感じてんねん」
笑騎はわなわなと拳を震わせ、意味不明な怒りを押さえつけていた。
「不公平さ?」
次の瞬間、勝機は立ち上がり、夜光を指さしながらこう訴える。
「5人もハーレムちゃんがおんのにハーレムちゃん追加なんて、お前どこのギャルゲーの主人公やねん!」
「・・・」
マナがおそるおそる誠児に「あっあの、私何かしたんでしょうか?」と尋ねると、誠児は苦笑いしつつ
「いや、気にしないで。あいつは頭が半分壊れているんだ」とだけ言って、マナを仕事に戻らせた。
その後3人はそれぞれ、夜光はとんかつ定食、誠児はカレー、笑騎はハンバーグ定食(ご飯大盛り、ハンバーグ最大)を頼んだ。
料理はマナがあっと言う間に運んできた。
「やっぱ、行かなきゃならねぇのか訪問」
野菜サラダをほおばりながら誠児に問う夜光
「絶対って訳じゃないけど、デイケアがギスギスしたままってのも
よくはないだろ?」
「だいたい、住所も知らねぇし」
そこへ笑騎が「そんなん。 プロフィールブックに書いてあるやん」と口をはさんできた。
笑騎の言うプロフィールブックとは、デイケアのスタッフに配られるメンバー全員の個人情報が書いてある本のこと。
「異世界の住所の読み方なんぞわかるかよ」
そう言いながら、とんかつにかぶりつき半分に噛みちぎった。
「そんなら、俺が地図描いたろか?
ライカちゃんの住所知ってるし」
「ひふ? つふれんろか?(地図? 作れんのか?)」
とんかつを頬張ったまま行儀悪く口を動かす夜光に「食べるかしゃべるかどっちかにしろ!」と誠児が子に注意する母親の如く怒る。
「できるで。 就労支援の訓練でよく地図作成の訓練やってるからな。俺もスタッフやからある程度できとかなあかんねん」
しかし、誠児がふと疑問に思ったことを口にする。
「でも、自分が担当してないデイケアのメンバーの情報なんて覚えてるのか? そもそも就労支援のスタッフだろ? お前」
「甘いな。誠児君。俺の頭は女の子を覚えるためにあんねん!」
「胸を張って言うことかよ」
「おかげで仕事内容を忘れる一方やけどな。 ハハハ!!」
などと言って笑う笑騎を横目で夜光は「(どうしてこんなのが採用されたんだ?)」と本人が聞いたらブーメランのように帰ってきそうな言葉を内心呟くのであった。
「うわっ!!」
突然夜光のマインドブレスレットから緊急コールが鳴った。
緊急コールとはアストを装着できるほどの精神力を持つ者にしか聞こえないようになっている。
「どうした?」
緊急コールが聞こえない誠児が夜光に尋ねると、その答えは意外な所から出た。
「たぶん、緊急コールやろ? 夜光は闇神やし、はよ行かなあかんのちゃうか?」
笑騎の言葉に一瞬驚いた夜光。
「なんで、お前知ってんだよ!?」
驚く2人は対照的に、笑騎はキョトンとした顔で「そんなん、ホームのスタッフやったらみんな知ってるで?」と返す。
「・・・そうなのか?」
「そらそうや。ホームのスタッフはみんな地下施設の作業員でもあるんやから」
「・・・初耳なんだが」
「そうなんや。親父のやつ意外と抜けてるとこがあんねんな」
「それより出なくていいのか? 鳴ってるんだろ?」
誠児の言葉で我に返った夜光は「あぁ、そうだった」とマインドブレスレットのカバーをスライドさせ画面を開いた。
『夜光君、突然すまない! ウィンバという富豪の屋敷に影が現れた! 場所はイーグルにプログラムしてある。イーグルで至急現場に向かってくれ!』
それだけ言うとゴウマは通信を切った。
カバーを閉じ、嫌そうにため息をいつく夜光に笑騎がこんな提案をしてきた。
「なあ、夜光。ここで闇鬼になるのはなんやから。そこの裏口から出て装着しぃ」
笑騎がそう言いながら、裏口を指差した。
食堂にはまだデイケアメンバーや就労支援の訓練生が多くいるので、ここで闇鬼になれば騒ぎになる。
「ヒーローは正体隠して戦わなあかん、大変な仕事やからな」
「俺はヒーローになった覚えはねぇよ」
そう言って裏口に向かう夜光に「気を付けろよ?」と不安げに声を掛ける誠児。
夜光は振り向かずに黙って手を振った。
裏口から外へ出た夜光は誰もいないことを確認し、
マインドブレスレットのダイヤルをエモーションパネルに合わせてボタンを押すと、『リンク!』という音声が鳴ると同時に待機音が鳴る。
カバーをスライドさせると『エモーション!』と言う音声と共に体が光に包まれ、わずか2秒で闇鬼を装着した。
エモーション後、夜光はダイヤルをイーグルパネルに合わせてボタンを押す。どこからともなくイーグルが現れ、夜光の元に着陸した。。
夜光はイーグルに乗ると、イーグルの画面のマップに従って飛び立った。
ホームを飛び立って20分後、影が現れたと言う豪邸に到着した。
かなり広い豪邸で、外装もかなりハデだ。
おまけに庭やプールまである。
しかし、あちこちから煙が立ち昇っている。ケガをした人も何人か倒れている。
倒れている何人かに近寄って様子を見てみると、ケガはしているがどうやら死んではいないようだ。
その後も辺りを見渡していると、夜光より少し遅れてセリアたちも到着した。
セリナが夜光を見かけると、驚いた口調で
「夜光! 今日は遅刻しなかったんだ」
夜光はいつも遅刻ばかりしているので、セリナの中では夜光は遅刻魔という認識をされていた。
「俺だって遅れない時くらいはある」
と反論する夜光にルドが呆れた風に言う
「いや、そもそもスタッフが毎回遅刻すること自体不味いだろ」
それを言われては何も反論できない。夜光はルドから目をそらした。
そんな時、ふと目に入ったのはライカとスノーラだった。
2人共、目を背けていてそっけない態度をとっていた。
どうやら、まだ仲直りはしていないようだ。
そして、そこでゴウマの通信が入った。
『みんな! 状況はどうなっている?』
今回は夜光が先に到着していたので夜光が報告することにした。
「結構ひでぇことになってるぜ? あちこち煙や火の手があがったりしてるし、家もボロボロだ。それにケガ人も大勢いるみたいだな。ただ見た感じ、死んでる奴はいないみたいだけどな」
『そうか。あと20分ほどで騎士団が到着する。君たちはそれまで怪我をした人たちをできるだけ屋敷の外へ連れ出してくれ!』
「屋敷の外?」
『そうだ。屋敷の中にはまだ影がいるので危険だ。騎士団が到着するまでなら屋敷の外の方が安全だ』
そこにスノーラからこんな質問が発せられた。
「ゴウマ様。今回の敵についての情報はないのですか?」
『あぁ。 ここ最近、金持ちばかりを狙う強盗事件が発生していてな?どんなに警備を固めても、正面から襲ってきて金目のものを奪っていく。その上、犯人は1人のようだ。1人でそんなことができるということは影の力によるものだろうな』
それを聞くと夜光はやれやれと言わんばかりに首を振り
「(・・・放火魔の次は強盗かよ。物騒だな心界)」
『もし、危険と判断したらすぐエスケープパネルを押すんだ。
すぐに、ホームに転送する』
「わかりました」
スノーラが了解すると、ゴウマは「無理だけはするな」と言い残し、通信を切った。
「それでどうする? 影を討伐しに行くのか?」
夜光の質問にスノーラは首を横に振った。
「いいえ、ひとまず怪我をした人達を安全な場所まで運ぶことを優先しましょう。 今、戦闘すればここにいる方々を巻き込む恐れがあります」
夜光達は二立手に別れて救助活動を開始した。
夜光・ルド・セリア・セリナ・セリアは屋敷周辺の怪我人を火が届かない場所まで運び、風の力を持つライカと氷の力を持つスノーラは火を消すことができるので、屋敷の中に逃げ遅れた者がいないか捜索することになった。
屋敷内の地下にある金庫室……。
マスクで顔を隠している複数の男達が巨大な金庫を見上げていた。
金庫室のドアは分厚く、ちょっとやそっとでは壊れないようだ
しかし、強盗団のリーダーらしき人物が金庫の前に立ち、右手で金庫室のドアに触れた瞬間!
大量の電気が右手に集中し、大きな爆発が起こった。
爆発が収まると金庫室のドアは、大きな穴が空いた。
金庫室の中に入ると、そこには大量の金が入っていた。
少なくとも1000万クール以上はあるようだ。
強盗団は大きめのバックにその金を詰め込み始めた。
金で一杯になったバックは手下が屋敷の裏に止めてある数台の馬車に運んでいった。
再び場面は変わり、ライカとスノーラの視点になる。
ライカは武器である鉄扇で瓦礫や変形して開けられないドアなどを破壊して屋敷に残った人間を探していた。スノーラも武器である拳銃でまだ燃えている場所に向かって撃った。命中すると火は一瞬で氷つき、砕けた。
一応、協力はしているが2人は一言も話さず、無意識に少し距離ができていた。
屋敷は1階と2階があり、2階は完全に崩壊していたので2人は1階を調べることにした。
そしてそのまま屋敷の奥に向かうと、ある部屋にたどり着いた。
部屋のドアには《ウィンバ》と書かれていた。
「ウィンバ? 確か、この屋敷の主の名前だったな」
そうつぶやくとスノーラは警戒しながらも、ゆっくりとドアを開けた。
「なっ!!」
「っ!!」
そこには血まみれの男が倒れていた。男は体中切り傷だらけで、それも異常なほど傷の数が多い。まるで無数の刃に体中を切り裂かれたようだった。
普通この状況を女の子が見たら悲鳴の1つでも上げるだろうが、2人は異種族である。《パスリング》という指輪で人間になっているが、人間ではないため、あまりショックを受けない。少なくとも驚きはするが、悲鳴を上げたりはしない。元々メンタルが強いだけなのかもしれないが・・・
スノーラが近づいてウィンバの心臓の鼓動や目の焦点などを見て容態を調べるが、やはり息はもうなかった。
ウィンバの死を確認したスノーラがこのことをゴウマに報告しようとした時、隣の部屋で何かが落ちる音がした。
「何? 今の音」
「何かの金属製品が落ちた音のようだったが・・・」
スノーラはゴウマへの報告をいったんやめ、ライカと一緒に隣の部屋の様子を見に行った。
隣の部屋のドアは壊れていたので、2人はそこから中の様子をこっそり覗いた。
その部屋には、焼きただれた大きな本棚が倒れていて、大量の本が床一面に落ちていた。
どうやらこの部屋は図書室のようだ。
そして、中にはマスクをつけて顔を隠している2人の男が急いで何かを拾っていた。
「バカ野郎!! こんな時に金を落とすやつがあるか!!」
「すっすみません。うっかり手を滑らせてしまって」
男2人は怒声と謝罪を繰り返しながら、落とした金を集めていた。
会話を聞き、彼らが強盗団であることを確信したスノーラとライカ。
「なるほど、あいつらがゴウマ様の言っていた強盗団か・・・」
「ふん。盗んでいる最中に金を落とすなんて間抜けな強盗ね」
そういうとライカは、鉄扇を構えた。
「待て、ライカ。何をするつもりだ?」
ライカの肩に手を置き、静止するスノーラ。
「決まってるでしょ? 強盗を捕まえるのよ。見た感じあいつらは影の力を持っていないようだし、ただの人間なら楽に捕まえられるわ」
「待てっ! どこに影がいるかわからないんだぞ!?
まずは夜光さん達を呼ぶ方が先だ!」
ライカを制止しているスノーラの手に力がはいる。
「何?あんた。 あんな雑魚相手にびびってんの?」
「なんだと!?」
思わず感情的になるスノーラ。
すぐに我に返るものの、激情したライカは「もういい。 あんたはここでビクついてなさい。あいつらはあたしが始末するわ」とスノーラの手を振り払い、部屋に突入した。
部屋に突入したライカは強盗団2人に向かって鉄扇を向けた。
「そこまでよ!」
強盗団は驚き、拾っていた金を落としてしまった。
「なっなんだ!? お前は!!」
「薄汚い強盗に名乗る名前なんてないわ」
強盗の1人がポケットから拳銃を抜き取り、
「この化け物がぁぁ!!」
そう叫びながら、拳銃を乱射する強盗。しかし、アストの堅い鎧に弾丸くらいでは傷もつけられない。
「くっくそ!!」
拳銃は弾切れになったようだ。
「あ・・・あ・・・」
もう1人は腰が抜けて完全に恐怖が体を支配していた。
ライカは鉄扇を構え、「もう抵抗は終わり?」と完全に勝利を確信していた。
「そ・・・そんな・・・」
拳銃を撃った方の強盗も恐怖に満ちた顔をしていた。
「あんた達のボスはどこ? 言わないなら、ここでその首を斬り落とすわよ?」
「「・・・」」
ボスへの忠誠心からか、単に恐怖で固まっているのか、2人は頑なに口を閉ざす。
「そう・・・だったら、首をもらうわ」
ライカは精神力を鉄扇を広げ、口を開かない強盗組に容赦なく風の刃を浴びせようとする。
「やめなさい!!」
そこへ突然、部屋に響きわたる大声。
ライカが声のする方に視線を向けると、強盗団と同じ格好をした男がたっていた。
男の足元を見ると地下への階段があり、そこから現れたようだ。
「(何? この嫌な感じ)」
ライカは男から放たれる異様な力を感じ取った。
「・・・なるほど。あんたボスね?」
「・・・はい。 あなたのお相手は私が務めます」
男は強盗2人に向かって「2人共、すぐに逃げなさい!」と強い口調で言い放った。
「しっしかし、まだ拾えていない金が」
臆病そうな強盗が、周りにある金に目を配る。
ぱっと見ただけでもまだ100万クールは落ちている。
「アストが現れた以上、金の心配をしている場合ではない。 早く!」
影の男の大声により、、ようやく落ちている金を諦めた2人組は、金の入ったバックを持つと全速力で逃げていった。
影の男はおもむろに左腕を見せた。
それを見てライカはおもわずつぶやいた。
「そ・・・それは」
影の男の左腕にはマインドブレスレットそっくりの機械の腕輪が着けられていたのだ。
「・・・{シャドーブレスレット}。《影の証》といったところでしょうか・・・」
影の男はシャドーブレスレットのカバーを開き、パネルを押す。
すると、『リンク!』の音声が鳴り、待機音が鳴り響く。
そして、カバーを戻すと『リモーション!』の音声と共に、男の体が一瞬光に包まれる。
光が収まると男はサソリのような鎧を装着していた。
その鎧には大量の電気が鎧を包みこむようにほと走っていた。
「自己紹介が遅れました。私の名はスコーダー。影に所属しております」
律儀に頭を下げるスコーダー。
しかし、ライカは律儀にあいさつを返す気などない。
「あいさつなんていいわ。さっさと殺してあげる」
再び構えたライカの体にも竜巻のように風が渦まいていた。
2人の体から放たれる風と雷の2つの力が辺りの空気を荒々しく変えていった。
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