訪問カウンセリング編

第14話 ホーム演劇発表会

見えない敵と2度目の遭遇を果たした夜光。

影兵という魔物に襲われる危機にさらされたがマイコミの仲間たちと共に影兵すべてを倒すことができ、影の確認という任務を終え、夜光たちはホームへと帰還した。


 広場から帰還した夜光達は、詳細をゴウマに報告した夜光たちはそのまま帰宅することにした。初出撃の上、初戦闘を行ったので疲れているだろうと思ったゴウマの気遣いだった。

ちなみに、広場の火事は夜光たちが帰宅した2時間後に鎮火した。


 そして、その翌日から夜光の日常がかなり変わった。

まず、午前中は、就労支援の訓練生と一緒に心界文字の練習。

ついでに、誠児の計らいで基本的なビジネスマナーも学ぶことになった。どうやら、こちらのビジネスマナーは現実世界とほとんど変わらないようだ。

午後はマイコミのスタッフとしての仕事がある。

主にセリアたちとゲームをして遊んでいるだけなので、楽といえば楽だが、毎回マイコミで何をするか決めるのがとても面倒なようだ。


 さらに、毎日2時間ほど地下施設の訓練部屋でアストの訓練も行っている。といっても、アストを装着して正常に動けるかを調べたり、武器の練習をしたりと戦闘訓練らしいことはあまりしていない。


 火事から1週間が経ったある日、夜光はゴウマに施設長室へと呼び出された。

「なんだよ。急に」

夜光は入るなり用件を聞いた。 

「すまんな。急に呼び出して。実はな、マイコミメンバーたちにこのイベント参加してもらいたくてな」

ゴウマはテーブルの引き出しから1枚のチラシ取り出し、夜光に手渡した。

「《ホーム演劇会》?」

「そうだ。今度の土曜日にデイケアの集まりがあってな?

その余興にマイコミメンバー全員で演劇発表をしてもらいんだ」

夜光は嫌そうな顔をして

「ちょっと待てよ。俺の仕事はあいつらの相手をするだけだろ!?なんで演劇なんぞしなけりゃならねぇんだ!? だいたいなんで演劇なんだよ!?」

夜光がこう言うのはわかってのでゴウマは冷静に説明する。

「演劇は、違うデイケアプログラムのメンバー同士の交流を深めるためのイベントだ。第一勘違いするな。君の役目はマイコミメンバー同士の交流を深めることだ」

「それに俺らは素人だぜ?」

「そんなことはわかっとる。このイベントはみんなで楽しく交流を深めることが目的だ。演技の上手い下手はどうでも良い」

「・・・引き受けなきゃダメなのか?」

「それはみんなで相談して決めてくれ。もちろん強制ではないのでみんなが嫌なら引き受けなくても良い」


 施設長室から出た夜光はそのままマイコミルームへと向かった。

そろそろデイケアが始まるので。


 マイコミルームに入るとまだ始まる10分前なのにすでに全員揃っていた。

ちょうどいいので夜光は先ほどの演技会のことを話した。

「演劇発表? なんだかおもしろそうだね」

セリナはノリノリだった。

「演劇かぁ~。まあおもしろそうだし、いいんじゃねぇか?」

ルドはそれほどノリ気でもないが、引き受けるようだ。

「私は構いません。他のデイケアプログラムとの交流も良い経験になるでしょうし」

そう言いながらスノーラは新聞を見ながらコーヒーを飲んでいた。

どうやら、それほど興味はないようだ。

「セリアはどうだ? 演劇なんて嫌か?」

夜光が尋ねるとセリアは首を横に降り

「み・・・みなさんがよろしければ、や・・・やります」

あまりやりたくなさそうなのはなんとくわかったが、それを言うとセリアはまた気を使うと思い、夜光は

「そうか」

とだけ言った。


 最後にスノーラがライカに「お前はどうする?」と尋ねた。

話を始めてからずっと機嫌が悪そうにそっぽ向いているライカ。

そんなライカをセリナがほがらかな笑顔で誘った。

「ねぇ、やろうよライカちゃん。みんなでやる初めての企画なんだし、これでみんなもっと仲良くなれるよ」

「・・・わかったわよ」

どうでもよさそうな感じの返事だったが、一応みんな参加することになった。



 参加することをゴウマに伝えるとさっそく全員分の台本が配られた。ゴウマによると演劇プログラムのメンバーが作ってたものらしい。

それをみんなに配って、さっそく台本を読んだ。

台本がかなり薄いのでどうやら短い演劇らしい。

話の内容は、悪の魔王によってさらわれた姫を恋仲である平民の少年が助けるというベタな話。

配役については、まず魔王は全員一致ですぐに夜光となった。

本人は納得しなかったが、他に適役がいないということで話は進む。

「では次にお姫様役ですが、どなたかやりたい方はおられますか?」

その場をしきっているスノーラがみんなに尋ねた。

「はいはいはい!! 私やりたい!!」

手を上げたのはセリナだった。

本物の姫が姫役をするなんて妙な話だが、よく考えると姫のセリフはこの劇で最も少ない。記憶障害のセリナでもなんとかなるかもしれないと思った夜光は

「ここまで言ってんだし、やらせたらいいんじゃねぇか?」

「・・・そうですね。ではセリナ様。お願いいたします」

どうやらスノーラにも夜光の意図がわかったようだ。

「うん!! 一生懸命頑張るよ!!」

気合いをいれてさっそく台本を読むセリナ。

そして、そのまま話が進み。

スノーラは平民の少年の恋敵である異国の王子役になり、ルドは姫の父親、すなわち王様役になった。

セリアは魔王の幹部役になり、

そして、残ったライカは平民の少年役になった。


 そして、翌日から劇の練習が始まった。

マイコミルームは割りと広いので練習をするには十分なスペースがあった。ちなみに役名は全員本名を名乗ることになった。


まずは、セリフ合わせから始めた。

最初は魔王に王様の前から姫を連れさる所。

「ははは。姫はもらっていくぞー」

「きゃー。 お父様ー」

「あー。姫よー」

3人揃っての棒読み。


 次は、姫の婚約者である隣国の王子と王様のシーン。

「おー。 王子よどうか姫を魔王の手から救ってくれー」

「おっおまかせくだひゃ・・・ください陛下。姫は必ず、私めがおたつけ・・・ではなくて、おっお助けしますのでご安心下ちゃい!」

セリフ合わせの時点で噛みまくりのスノーラに周りは安心できなかった。


 魔王と幹部の会話では

「まっ魔王さま。王子が大軍を率いてこここちらに向かっております」

「・・・おい。 ほとんど聞こえねぇんだけど」

「もっ申し訳ありません!」

緊張しすぎな上、声があまりにも小さいセリア。


 そんな中、平民の少年が姫の婚約者と対峙するシーンでは

「貴様のような汚い平民ふじぇい・・・風情が魔王にかちる、勝てるわけがないであろう。君のようなびんごう、ではなく、貧乏な平民には泥にまみれて農をたがにゃす・・・耕すのがお似合いだ」

「確かに僕は農を耕すことしかできない平民です。あなたとはなにもかもが違う。ですが、姫を愛する想いだけは誰にも負けません!」

ライカの演技力にみんな驚いた。

とても素人とは思えないほどセリフに感情が込もっていた。


 そしてラストシーン。魔王が倒されてライカがセリナを助けるシーン。

「うわー! まさかこの俺様が人間にやられるとはー」

あっけなく死ぬ魔王夜光の横で「はわわ、魔王ささ様がー」主をあっさり見捨てるセリア。

「ライカ。やはり来てくれたのですね。私は信じていました」

「当然ではないですか。僕の命も心もあなたの物です」

厚い包容をするライカとセリナ。

「あぁ。ライカもう私を離さないで」

「えぇ。もう離しませんよ。永遠に・・・」

そんな2人の想いを見ていたスノーラは自分に入る余地がないことを悟り、無言で立ち去っていった

城へ戻ったセリナとライカはそれから幸せに暮らしました

これが劇のおおよその流れである。



 一通りセリフ合わせを終わらせた夜光たちはお互いの反省点を言い合っていた。

「おい。スノーラ。いくら緊張してるからって噛みすぎだろ?途中から何言ってんのかさっぱりわかんなかったぞ?」

「くっ! そういうルドこそ、もう少し感情を込めて言ったらどうだ?腹話術の人形がしゃべっているのかと思ったぞ!?」

互いのダメ出しをするルドとスノーラ。


「はぁぁぁ。演技って意外と難しいね。私ほとんど棒読みだったでしょ? セリアちゃんが上手くて羨ましいよ」

「そっそんなことはありませんよ。私もほとんどセリフがないのにしっかり発言することができませんでしたし・・・」

互いをフォローし合うセリナとセリア。



 ライカの素人とは思えない演技力が気になった夜光がふとライカに尋ねる。、

「ずいぶん演技が上手いな。お前、演劇団でも入ってたのか?」とライカに尋ねると

ライカはそっぽ向いたまま「あんたに関係ないでしょ?」と冷たく答え、夜光から離れて行った。

「(演技以外は落第だな)」

夜光のライカに対する評価が下がり、その後のマイコミメンバーの練習は2時間ほど続いた。


 練習を始めて1週間。練習を重ねたおかげで最初に比べると多少マシにはなったが、まだまだ演劇とは言えるレベルではない。

そんなある日・・・


 その日もいつも通り、演劇の練習をしていた。

「はぁぁぁ。私、セリフ一番少ないのに全然覚えられないよぉぉぉ」

深いため息をつきながら、台本を眺めるセリナにスノーラが優しく声を掛ける。

「セリナ様は障害のこともありますしね。後でカンペを作ってそれを見ながら演劇を行いましょう」

「・・・うん。ちょっとかっこ悪いけどしかたないね。ごめんね。迷惑掛けて」

「いえ、お気になさらないでくださ」

落ち込むセリナに、少し離れた所で演技の練習をしていたルドが歩み寄り

「そんなに落ち込むなって、オレだって演技が全然できてないんだし」

セリナの肩に手を乗せて励ました。

「えへへ。ありがとうルドちゃん」

その時、突然怒鳴り声がした。

「いい加減にしてよ!! あんた何回同じ間違いをしたら気がすむの!?」

驚いたセリナたちは声のする方へ視線を向ける。


 そこにいたのは怯えた様子のセリアと顔が怒りに満ちているライカだった。

「あんたのミスのせいで今日だけで何回こんな簡単なシーンの練習をしてると思ってんの!?」

セリアを睨みつけながら、怒りをぶつけるライカ。

「あの、もも申し訳ありません」

深く頭を下げ、謝罪するセリア。

しかし、ライカの怒りは抑まらない。

「謝るくらいなら、自分のセリフくらいまともに言いなさいよ!!」

そこへスノーラがライカを止めに入った。

「もうよせ! ライカ。 いくらなんでも言い過ぎだ!

セリア様は頑張って練習をしているんだ。ミスをしたからと言って怒鳴ることはないだろう!?」

そこへルドも来た。

「スノーラの言う通りだ! だいたいセリアもオレたちも演劇に関しては素人なんだぜ? ミスくらいするだろ?」

しかし、ライカの表情は変わらない。


 そして、セリナは落ち込むセリアに「セリアちゃん。大丈夫?」と声を掛ける。

「だっ大丈夫です。 ご迷惑を掛けて申し訳ありません」

「迷惑だなんて、誰も思ってないよ?」

セリナが慰めてもセリアは落ち込んだままだ。

ライカに怒鳴られたことがかなりショックだったようだ。


 ライカの怒りはスノーラたちにも向けられた。

「だいたい。どうしてあたしがこんな茶番に付き合わないといけないの!?」

「ライカ。これはデイケアの交流を深めるための劇だ。茶番などと呼ぶな!」

スノーラも言葉に少し怒りが見え始めた。

「交流? あたしたちはアストとして集められたんでしょ?

だったら交流なんてするより、戦闘訓練でもした方がいいんじゃない!?」

「交流を深めて、メンバー同士のチームワークをよくすることも大切ではないのか!?」

スノーラの言葉にライカは呆れた。

「あんたねぇ、あたしたちは偶然アストが装着できるから集まっただけでしょ? なのになんでチームワークなんて必要なわけ?」

スノーラもかなり熱くなってきていた。

「チームワークが取れなければ、影と互角に戦うことができないだろう!?」

「チームワーク? くっだらない!他人に頼るなんて弱者の甘えじゃない?」

「では、お前はアストにチームワークはいらないと言うつもりか!?」

「そうよ!! あたしはあんたたちと仲良くなるためにここに来ているわけじゃないの!! ゴウマ国王の頼みで仕方なく来てあげているだけよ!! そんなに仲良しごっこがしたいならあたし抜きでしてよ!!」

「なんだと!!」

スノーラとライカはお互いを睨み合い、すぐにでも喧嘩が始まりそうな雰囲気になった。

「おい! やめろよ2人共!」

ルドは2人の間に入り、なんとか止めようとしたが、2人は聞く耳持たないようだ。

そこへマイコミルームのドアが開いた・・・


「ふぁぁぁ。眠い」


 マイコミルームに入ってきたのは夜光だった。

しかし、実はもう1時間も遅刻していた。理由は寝坊。

なのに、まだ眠そうだ。

その上、空気を読めずに場違いな発言をしてしまう。

「お前! この状況がわかんねぇのか!?」

「ふぁぁぁ。うるせぇなぁ。 なんだよ?」

頭を掻きながら、眠そうに大あくびをする夜光。

「スノーラとライカが今にも喧嘩しそうなんだよ!」

「・・・大変だな」

完全に他人事だと思っている。

「ライカのやつが劇を嫌がるから、スノーラが説得しようとしたんだけどなんか言い争いになっちまったんだ!夜光も止めてくれよ!」

ルドの説明にライカが反論する。

「言い争いなんて言わないでよ。スノーラが勝手に怒ってるだけでしょ?」

「その原因はお前だ!!」

スノーラとライカがさらに詰め寄る。

「ふぁぁぁ・・・」

この状況を理解しても夜光は眠そうに大あくびをした。


「もういいわよ。こんな劇やってられないわ!! あんた達で勝手にやってなさい!!」


ライカはそう吐き捨てると、ライカはマイコミルームから出ていってしまった。

「おい! ライカ!」

ルドが慌てて追いかけようとするが

「ルド! 放っておけ!」

とスノーラに止められた。

マイコミルームには嫌な空気だけが残った。

「・・・今日の練習は中止にした方がよさそうだな。なんかできる空気じゃなさそうだし」

夜光がそう判断すると、スノーラが申し訳なさそうに

「すみません。少し外に出て頭を冷やしてきます」

そう言い残すとスノーラは静かに出ていった。

「スノーラ・・・」

それを心配そうに見つめるルド。


 ライカが立ち去った後、セリアはまだ顔色が悪そうなので帰って休むことにした。

セリナもセリアの付き添いで帰った。残った夜光とルドは、マイコミルームの後片付けをして帰った。

2人だけでプログラムを行うのもなんなので。


 その翌日……。


 今日はマイコミはなく、夜光は誠児と就労支援施設で訓練を受けることになっていた。今回は仕事上の言葉遣いについての講演らしい。

その休憩中、夜光は誠児となぜかそばにいた笑騎に昨日のライカのことを話した。

「そんなことがあったのか・・・」

「・・・ったく。 小娘どもの世話ってのも楽じゃねぇな」

と気晴らしにタバコを取り出す夜光の後ろから「俺にも1本くれ」

と笑騎はが手を伸ばし、夜光が机に置いていたライターで火をつけた。

「俺のタバコをとるとはいい度胸だな?」

夜光の脅迫めいた発言はともかく誠児が話を続ける。

「それより、 このままじゃマイコミ内がぎくしゃくするのはよくないんじゃないか?」

「そんなこと言われたって俺にはどうすることもできねぇよ」

他人事のようにタバコの煙を吐き出す夜光。

そんな夜光に誠児がこんな提案をしてきた。

「・・・じゃあさ、訪問カウンセリングしてみたらどうだ?」

「訪問カウンセリング?(なんとなく意味はわかるが・・・)」

「そのままの意味だ。病院に来るのが困難な人の家にスタッフが直接行って、カウンセリングを行うんだ」

「(やっぱり・・・) なんで小娘1人にわざわざこっちから会いに行かなきゃならねぇんだよ!?」

「それもスタッフの仕事だ」

ときっぱり言う誠児に笑騎も

「ええやんか。合法的に美少女の家に行けんねんで?

俺もこの前、かわいい女の子の家に訪問してな?

カウンセリングとかこつけて女の子と2人っきりになってな?

俺、このまま夜のカウンセリングでもどうや?って誘ったんやけど、どうやらが意味わからんかったみたいでな?ポカンしてたわ。しかも途中で親が帰ってきてな?結局なんもなかったんや。残念やったわ~」

などと悔しがる笑騎だが、一歩間違えれば犯罪になっていた話だ。

しかし、あくまでも誠児は冷静に対応した。

「その子が無事でよかったよ」

もう少しでゴウマに報告しようと思っていた誠児だったが、なにもなかったようなので目をつぶろうと思った。

「まあ、記念に下着何枚かしっけいしたけどな」

この一言が余計だった。

「・・・(やっぱり報告するか)」

後にこの件が誠児の報告でゴウマにばれて、笑騎は若い女の子への訪問カウンセリングを永久禁止されたのであった。

「・・・俺の話はどこいった?」


果たして夜光は訪問カウンセリングをするのか?

そして、ライカはこのまま孤立していくのか?

それは夜光次第……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る