第2話普通
目が覚めるとそこは森だった。
俺がそれを森だと即座に認識したのは周りにある木々のおかげだろう。
さて俺の目の前に広がるこの光景は夢の続きだろうか。 それとも……
「おっはよー!!」
頭の中に響く軽快な声は聞き覚えがあった。
「異世界にいる巧さん! 現場の情報をお聞かせください!」
とアナウンサーのような口調で俺に話しかけてくるのは自称神様だった。
「…なんか反応してよ!つまんない!!」
自称神さ……
「ていうか自称じゃなくて本物の神様よ!崇めなさい!!」
……え?今俺は心を読まれたのか?とすると……本当に神様なのか。
「物分りが良くて助かる……じゃあ今の状況を説明させてもらうわ。」
いやもう既に理解は出来ないが今の俺が1番に望んでいた物だ さあどう来る?
「おめでとう!貴方は流れ星に選ばれたのよ!」
謎が謎を生むという言葉は今のこの状況を的確に表している。
「流れ星に選ばれたって何なんですか?しかも選ばれたからっていきなりこんなよく分からない所に…」
何にせよとりあえず疑問を疑問のままにしておく時じゃない。
今の自分が置かれている状況を手っ取り早く理解しておきたかった。
「貴方がいた地球 その中の日本の……7月7日 さて何かあったような気がするわね」
「七夕」
俺は即答する、 それ以外に何もないだろう。
「うんうん、 そして七夕と言えば〜?」
いや……クイズ大会をしてる場合なのだろうか。
えーっと七夕と言えば……
「織姫と彦星?」
「それもあるわね。」
……この物言いからして違うのだろうか?
「七夕になったらすることよ ある物にある事を書くの。」
「っ!短冊!にお願い事を書く!」
「ぴーんぽーん!」
そして俺は記憶を辿る。
ここが異世界として俺が元の世界にいたのは 意識が途切れる寸前の日時は……
「7月7日……で短冊……」
じわじわとあの日のことを思い出していく。
俺は短冊に願いを書いた それは
「普通に結婚して普通に就職して 普通の人生を歩んで行く……」
半笑いで神様は呟く。
俺は恥ずかしい気持ちになった 珍しくもなんともないつまらない願いである。
「いやー面白いわねー、逆に珍しいわよ?こんな普通なの。」
神様は意地悪に笑う。
俺は考えた 流れ星に選ばれた……7月7日で流れ星……願いが叶う……?
俺は願いが叶ってこの場所に居るのか いやそれはおかしい。
「俺は普通に人生を過ごすのが願いだから……かしら?」
神様は俺の心を見透かす。
そうだ 俺の願いが叶ったとして何故こんな普通とはかけ離れた場所にいる。
「ねえ なんで嘘を書いたの?」
少し空気が重くなるような感じがした。いや明らかに重くなっていた。
神様の声のトーンはさっきまでの軽快なものから 元々の声の可愛いらしさは残っているものの神様としての
威厳を感じるような低い声になっている。
違う 俺は嘘をついてなんかいない。
「いいえ 貴方は普通の人生なんて本当は望んでいなかったはずよ」
俺は……
「貴方は誰よりも特別でありたかった」
神様の言葉は俺の心を貫いた。
俺は小学生まで普通という言葉が嫌いだった つまらないと言われているような気もした。
秀でても劣ってもいなく平凡
俺はまさに普通の人間だった。だからこそ誰よりも普通を嫌悪したのだろう。
中学に入ったころ 俺の中の普通の価値観が変わった。
俺の同級生に模範的な不良がいた。
そいつは中三の春 悪友と無免許でバイクを乗り回していた際にバランスを崩してトラックにぶつかって今も入院している。
もう1人模範的な優等生がいた。
人当たりもよく真面目で努力家だった
しかし彼は努力家すぎた
中三の冬 彼は国内最高峰の高校を目指したがケアレスミスで落ちてしまい そのまま心を壊してしまった
普通から外れたら体が、心が、何もかもが壊れてしまうかもしれない
そんな気持ちが芽生えた 俺はそうして普通を目指した
嘘だ
毎日小学校から高校2年生まで読んでいた本。なんならこの世界にくるすぐ前にだって。
落ちこぼれの少年が魔王を倒して英雄になるという王道ファンタジー。
憧れた。
俺も成りたかった 英雄に 皆から褒められる存在に
「それでいいじゃない」
神様は優しく言った。
「認められたい、人として当たり前の承認欲求 何もおかしくないわ」
俺の本当の願い。
「普通のままなんて嫌だ……」
俺は無意識にそう呟いていた。。
「私は貴方の表面だけじゃない、深層心理の願いを叶えるチャンスをあげたの」
だから俺は今こんな森の中に……ん?
「ちょっと待ってください それと今の状況になんの関係が……?」
普通じゃないのは明白だが何故日本の中ではなく異世界に連れてきたんだ?
「流行りものだから。」
は?
「今は異世界転生ってのが流行ってるじゃない!せっかくだし流行に乗ろうかと思ったの。」
そんな適当な……俺の願いを叶えてくれた神様を崇めればいいのか恨めばいいのかわからなかった。
「でも貴方 ファンタジー好きなんでしょ?じゃいいじゃない!」
あっけらかんと言い放つ神様。
確かにファンタジーは好きだ。 未知の地に立つ主人公の冒険を見る時の高揚感はたまらない。
……あれ?今俺はその主人公の位置じゃないか。
「ふふっ自分自身で歩んで行くファンタジー ゲームや本なんかじゃ味わえないでしょ?」
俺は思わずニヤける。好奇心と高揚感が体の中を駆け巡る。
そして俺は目の前にはいないが神様に向けて頭を下げ
「願いを叶えてくれてありがとうございます!!」
と叫んだ。
(普通すぎる感想……)
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