第二章

1年後…

 野良の仕事を続けていた。

 仕事量は前と比べると極力減ってしまったけども、本部から指示されずに放棄された依頼を民間から依頼されるようになり、なんとか食っていけていた。


 いつもお世話になっていたおっさんも帰国してしまい、会えなくなってずいぶん経った。

 フィーリアもエルフの里に帰るとかいって、帰ってしまい、あれから会っていない。


 依頼書を片手に、空を飛ぶ。そう、私は翼を広げ、大空に羽ばたき、自由に駆け巡る。そう、空を飛び、世界を巡って物を届けるのが私の仕事なのだ。


 ピンク色の帽子にピンクの制服を着て、今日も仕事に取り掛かる。


「えーと…この荷物は…」


 片手で大きな籠を持ち上げながら空を飛んでいた。

 ゆらゆらと揺れる籠が重く、自由に操縦がうまくいかない。中身は風呂敷で蓋がされており、中を覗くことは依頼人の信用を落とす。


 重く片手を封じられる。

 以前のように荷車のような乗り物は半年前のマモノの襲撃で壊れて以降、修理していないため持ってきてはいない。

 買うにしても月収では賄いきれない額なので、途方にくれる。


「あーあー こんな仕事、引き受けなければよかったなー」


 空に向かってため息を吐く。

 厚い雲に覆われ、大陸を見渡すことができない遥か高い場所にいる。


 どんなに愚痴を言っても、聞いている人はいない。

 そう思っていた――


「それは失礼じゃありませんか?」


 どこからか声がこもる。


「だれ?」


 周りを見渡すが誰もいない。

 それに、声が聞こえたのは籠の中からだった。


「私です。アイラです」


「うわっ!?」


 リクルは大いにビックリし、かごを揺らした。籠の中から現れたのは耳長の少女アイラだった。彼女はエルフ族。空浮かぶ緑に囲まれた大陸の出身だ。


「聞き捨てなりません! 謝ってください!」


 籠の中から頭を飛び出したのはまだ幼い子供だった。年齢は10才ぐらいかそれ以下だ。エルフの年齢や身長は個人差があり、見た目では区別するのは難しい。


 そんなエルフが突然、かごから頭を覗かせ、プンスカと怒りを混ぜて謝罪を要求していた。


「あ、ごめん」


「まあ、いいでしょう」


 籠の中に人がいたとは驚きだ。

 依頼人は商人だった。珍しい石像を手に入れたとか言って、仲間の商人に渡すよう依頼されたのだが、まさか人運びだとは思いもよらなかった。


「アイラさん、仕事中なので、暴れないでください」


「え?」


 自分がいまいる状況を確認するためかリクルをじろじろと見たと思えば、籠の外つまり空を見下ろした。


「ひええぇぇぇえ!!」


 アイラは引きしたりに「なぜ、ここにいるのですか?」 と訴えてきた。その度に籠を揺らし、リクルは焦る。


 一部始終を話すと、アイラにせかされる形で近くの島に卸してくれと頼まれた。

 お客様に時間通りにお荷物を届けないといけないのだが、人とは想定外の品物。お客さんに苦情を言わなくてはいけない。


 悩んだ末、近くの島に降りることにした。

 この場所では風が妨げて電話もまともにできないので、一旦降りて対応することにした。


 アイラを籠の中に再び入るよう言い、雲の下へと降りる。

 そこは、ピーナッツの形をした島がひとつだけ存在していた。


 緑に囲まれた島は、一見して危険そうにみえない。

 だが、リクルは気づいていた。この島は、危険な場所で武装渡り鳥でもここに近寄る人は命を捨てる人だけだということ。


 この島の名前はピール島。


 かつて、多くの渡り鳥がこの島に滞在し、休憩地点として活用していたのだが、この島で採れる食物や昆虫が猛毒を持っていることが研究者によって発見次第、ただちにこの島を利用することは禁じられた。


 過去に十数名の渡り鳥がこの島に降り立ち、命を失っている。


「やばっ! やめよう。この島は危険だ」


 リクルは即座にUターンして再び上昇するが、アイラが制止した。


「この島にしましょう。見渡す限り、他に島はないでしょうし」


「しかし――」


「大丈夫です。私の目はどんな危険な生物がいても感知できる目を持っていますので」


 目を輝かせて言った。

 瞳は青くそして金色の星型の模様が刻まれていた。


 この瞳は、巷でも噂されている。魔眼。彼らはそう言っていた。


 魔眼は生まれたときからもっている。魔術師の類はこの魔眼を欲しがる。欲しがるうえ、殺してでも誘拐してでも手に入れようとする。

 おそらく、商人たちがリクルを騙して連れて行って欲しいと頼んだのはアイラ(彼女)の魔眼が目当てだったのだろう。


 魔眼は、魔力が込められた瞳。そして普通の人では扱えない奥が深い魔法が瞳に記録されている。その魔法はかつて人々が空高い世界へ追い出される前、世界を支配するほどの力を持っていたと古文書で見たことがある。


 そうか。アイラは誘拐された子なのか。

 私用を持ち込むのはルール違反だが、誘拐を目的に幼い子供を連れ去るのは性に合わない。アイラはマモノに食われたと嘘を言うべきか、困っていたところ。


「見て!」


 アイラが突然、ピール島に指さした。

 複数の人型の翼を持った者たちが槍を持って、こちらへ羽ばたいてきた。


「珍しい。あの人たちに聞いてみようよ」


 アイラがリクルに尋ねるが、リクルは即座に理解した。

 島から飛び出し、槍を持って羽ばたいてくる人型の彼ら。あれは明らかに対話を望んだ人たちではないことを。


 リクルは剣を抜き、構えた。

 しかし、籠が邪魔だ。位能力を使ったとしても半分以下の力しか使用できない。


(クソッ! やっぱり修理しておけばよかった)


 荷車を修理していない自分を悔やんだ。

 刻々と近づいてくる彼らから逃げるように空へ飛ぶが、うまく気流に乗れない。風向きが島の方へ流されているからだ。

 それに、籠を持っている。重さで島に戻されてしまっている。


 どうにもできない。剣を使い、多少怪我をしてでもやるしかない。そう踏ん張った時、アイラが弓を取り出した。


「あの人たち、人間じゃない。ましてや対話ができる相手じゃない」


「わかるのか?」


「言ったでしょ。”どんな危険な生物がいても感知できる目を持っています”と」


 アイラは弓を構えた。

 青白く発光する矢がアイラの手に現れた。


「魔法です。とはいっても、威力はないので威嚇程度には十分です」


 弦を引き、力を込めて放った。

 ヒュンと空を切るかのように突き進む青白い光の矢。


 人型の彼らを素通りし、島へ突き刺さった時、青白い光が周辺を照らした。その光は神々しく、思わずヨダレが出そうになるほど欲しくてたまらなくなった。


「――はやく行きましょう」


 アイラのビンタに眠りから覚める勢いでたたかれた。

 ハッと目が覚め、リクルはアイラとともにその島から逃げ出した。


「追っては?」


「大丈夫です。あの青い光の矢は敵を引き付ける効果があるんです。しばらくは追ってきません」


 アイラは堂々としていた。

 淡々と矢の効力も述べていた。

 エルフの住民はこうも狩に慣れているのだろうか。


 心底恐ろしいと感じながら、助けてくれたことにお礼を思いつつ、その島から遠ざかるころには、アイラにお礼を言っていた。

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流星の渡り鳥(レイヴン・コーリング) にぃつな @Mdrac_Crou

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