失われた大陸 〈1〉

 世界には失われた大陸はいくつか存在し、その多くが元住民が滞在していた国であった。国々は数々の戦争、マモノの襲撃、科学・魔法兵器によって捨てられた。

 その中でもマモノの襲撃によって崩壊した国の方が圧倒的に上回る。


「上層部からの命令だ、引き取ってもらいたい」

 そう言って、一人の少年を引き取った。

 少年の名前は、シンジ・ヲワタ。半分白髪と黒髪。死んだ魚のような目をしている。生きているかどうかさえ区別できないほど落ち込んでいく。

 預かるきっかけになったのは、前回のカリスマを見事逮捕したことによる上層部が推薦してくれたことが大きい(半場、強制的だが)。リクルにした頼めないと、強く推してきたのだ。

「この子は記憶障害で、数日以内に覚えたこと以外は消えてしまう病気なんだ。だから、常に活動ができる渡り鳥だったらいいかと上からのススメだ」

 カリスマの件で話をしてくれた早老の男が説明した。

 また、極秘的ななにかなのだといち早く察した。

「それで、わたしに何にしろと」

「簡単なことだ。この子をしばらく預かってほしい」

「それのどこが簡単なんですか!?」

 早老の男が沈黙した。

「失礼ですが、私は野良です。武装渡り鳥と違ってエスコートできるほど上品ではありませんし、なによりも仕事を選びます。私の意見は無視するのですか?!」

「あなたの意見など、どうでもいい。これは、上からの命令です。これを断るということは、あなたは非常に厄介なことになるでしょう。命を惜しむのなら引き受けた方が身のためだと」

 それは脅しなのか。脅しだ。

 前の時もそうだ。人のこと、部下のことなんてなにひとつ気にかけない。だから、上層部は嫌いだ。だから野良になったのに、これじゃ、前と変わらない。

 けど、シンジのことが気になる。

 シンジを見つめ、一呼吸をした。

「彼を何日ほど預かればいいのですか」

「彼の記憶が戻るまで。」

「なッ!?」

「それで、引き受けますか? 断りますか?」

 生きるか死ぬかと早老の男から圧力がのしかかる。

 冗談じゃない。上からの命令なんて聞きたくない。何人死んだんだ。みんな、上が無茶な指示ばかり下すという罪深いことを棚に上げていることを知らないのか。

 リクルは言ってやった。

「わかりました。その件、引き取ります」

「そうか、よかっ――」

「ですが! 提案があります」

 引き取る。けど、簡単には引き下がらない。

「この子の保険としてお金を要求します。しめて一千万ほどを」

「……よかろう」

 初老の男が悔しそうにつぶやいたような気がした。

 無理な提案だったが、どうやら了承してくれたようだ。

「では、失礼します!」

 シンジを連れて、出て行こうとしたとき、初老の男からもう一つ任務を頼まれた。

「これは別件だが、失われた大陸〈L〉の調査をしていってもらいたい」

 部屋から出て、シンジを自宅へと戻った。

 失われた大陸〈L〉。マモノの群れで国が崩壊したと言われている大陸だ。

 ここに近づく人はいないと言われているほど、いまだにマモノが息をひそめていて、とても危険な場所だ。調査にいけとは、シンジとなにか関係性があるからなのだろうか、このことを二人に相談してみよう。


「――俺は反対だ」

 ベルミが言った。

「私は賛成です。記憶を失ったままの人生なんて考えたくないからです。もし、上の指示通りにその失われた大陸に行って、記憶を取り戻すすべがあるのなら、行った方がいいと思うからです。あと、個人的にその大陸へ行ってみたいという好奇心もあります」

 フィーリアはベラミとは反対意見だった。

 失われた大陸〈L〉。正式名称はラクテル・へレン。

 魔法と科学が一体化とした国で、かつて国と国をつなぐための鉄道を開発していたという。その名残ともとれる鉄道の残骸が遠くからでも確認ができると言われ、渡り鳥たちからは「隠れた観光名物」と親しまれている。

「ッハァ、俺はあそこは生きすかねえ。科学はまだいい魔法というものが信じられないんだ。二つの勢力がぶつかり合って、国を亡ぼすことにつながったと聞く。正直、俺は魔法は嫌いだ。だから、行きたくない。もし、行きたいなら、俺は参加しない」

 確かに、魔法と科学と両立する一方で、どちらかが偉いかとバカな争いがあったときく。国を統治していた王は両方は平等だと考えていたが、両者は魔法、科学どちらかを滅ぶまで争っていた。結果、科学派が魔法で作られた結界装置を止め、魔法派が住民たちを逃がすため計画していた鉄道を破壊したことで、マモノから避ける方法を失い、滅びたという。

 そんな国とはいえ、ベラミにとってその国で昔、なにかあったのだろうか。

 魔法を嫌うなんて、渡り鳥でも魔法を使っている人はいるし、武器だって大半が魔法で補っている。ゆりかごだって人や荷物を載せても重くならないように魔法で重量を下げ、ゆりかごが空から落下しないように底から魔法で浮かせている。カバンだって物が詰め込めるように四次元空間に作られている。

「わかった。今回はフィーリアと私、シンジだけで行く。ベラミは待機していてくれ」

「……魔法は嫌いだ。でもよ、上からの命令なんだよな?」

「強制とは言わない。だから、自由に決めてくれ」

 舌打ちした。

「…わかった。俺もいく。だが、俺が気に入らないと思ったら、すぐ離脱する。いいな」

 そう言って、部屋から出て行った。

「ベラミは、根はやさしいのに…」

 フィーリアの言うとおりだ。けど、あの大陸に行きたくない理由は魔法だけじゃない。それを知るのもあの大陸を調べに行くのも大切な気がする。

 それに、シンジの記憶も。

 謎ばかりが増える。

「明後日、出発だ。準備しておけよ」

 解散し、リクルは食料と武器の調達に市場へ向かった。

 長旅になるかもしれない。多く持っていくのが先決だ。

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