妻の夢と交流

 本編は、妻の夢と妄想でできている。


 たとえば、夕食時に、妻がイケメン夫たちに囲まれて、ニヤニヤする。

 という場面、笑いがある。


 白いテーブルクロスのかかった大きなテーブルをみんなで囲む。

 独健の手料理を食べながら、話をする。

 手作りデザートまで出てくる。


 こんなことは、


 ――現実には絶対にないのである。


 みんなで集まって夕食どころか、食事したこともない。

 独健の手料理など食べたことがない。

 彼は料理が得意だが……。


 せいぜい、集まっても4、5人である。

 しかも、誰かが呼びにきて、1人抜けてゆく……。

 子供がなだれ込んできて……大騒ぎ。


 こんな感じである。


 バイセクシャルで複数婚。

 旦那たちの住んでいる世界が違うというだけで、いたって普通の家庭である。


 朝仕事に出かけて、夜に家に帰ってきて眠る。

 休みの日は、ほとんどバラバラ。

 その中でも、旦那たちは友達と出かけたり、デートに行ったりである。


 普通の逆ハーレムではないので、私1人に旦那たちは決して集中しない。

 みんな平等。


 本編にも出てきたが、夫婦でかくれんぼもない。


 だいたい、かくれんぼ、という概念がない。


 隠れて、探されるなどという遊びがない。

 鬼という概念が違っている。

 節分を盛り上げてくれるエンターテイナーで面白い人、が鬼である。


 というわけで、妻のある意味、夢が本編である。

 そうして、旦那たちをより深く知るための、ツールでもある。


 本編で、時限爆弾ケーキを回して、好きなもの苦手なものを答える。

 があったが、あれは本当のことが書いてある。

(笑いで、結局わからない人もいるが……)


 本人に取材をして、きちんと書いた。

 そうして、妻は新しい発見をするのだ。


 そんなものがこの人は好きだったんだなぁ〜。


 と。


 次々と旦那たちの都合で結婚してしまったため、妻が知らないことが多いのである。


 本当の年齢が幾つなのか。

 どんな子供時代を送ったのか。

 どういう恋愛をしたのか

 仕事の詳しい内容はどんなのか。

 どんな子育てをするのか。


 挙げれば、まだまだきりがないほど、知らないことが多い。


 今日知ったことを、ひとつ。


 ――瞬間移動のことである。


 先日、私は参加しなかったが、大画面テレビで花火中継を、浴衣を着て見る。


 というイベントがあった。


 家で見たのかぁ〜。

 ちょっと味気なかったのでは?


 と思ったが、よくよく考えてみたら正解だと思った。


 子供が40人を超えている。

 しかも、全員、小学校1年生、5歳児。


 目に見えている。

 あの花火大会の混雑に行ったら、あっという間に迷子になると。

 40人全員が同時にいなくなったら、手に負えない。

 いくら瞬間移動できても。


 夕飯を食べながら、右に光命。真正面に孔明、斜め右前に明引呼で座っていた。


「迷子になってる子供のところに瞬間移動して、つかまえて、元の位置に戻ってくるんだよね?」

「ちょっと違うかな〜?」


 孔明が首を傾げて、私は思わず手を止めた。


「え? 違うの?」


 どんな感覚? 瞬間移動って。

 考えてみる。人混みから迷子を探す。直接目で見て探すのではなく、遠く離れた自分の子供を探す。ピンときた!


「人混みの絵の中に、子供が紛れていて、それを遠くから見てる感じ?」

「それもちょっと違うかなぁ〜?」


 15年前からパパをしている、明引呼のしゃがれた声が響いた。


「似てんのがいんだよ」

「あぁ〜、ですね」


 瞬間移動が基本的にできない妻は、納得の声を上げた。


 5歳児の人口数は莫大。花火大会ともなれば、他の宇宙からも見にくるだろう。下手をすれば、天文学的数字に登る。


 子供の個性は大人ほどあるわけではない。


 そうなると、似てる子は出てくるよなぁ〜。

 それを見ないで、特定する。

 ……難しいな。

 

 見た目じゃなくて、中身で探すってことでしょ?

 あっ! ピンと来た。


 隣でずっと聞いていた光命に顔を向けた。


「夕霧さんは、直接子供のところに瞬間移動できますか?」

(武術の技で、気を読むから行けるのでは?)


「えぇ、彼はできますよ」


 光命はまるで恋に落ちてしまったお姫さまのように微笑んだ。


 さすがです、夕霧さん。

 毎日の積み重ねが大切だ。

 素晴らしい、修業とは。


 花火大会に行って、迷子担当は夕霧命――

 それは無理だ。

 彼が花火を楽しめない。


 対象の子供たちに聞いてみた。


「迷子になりそう?」

「うん」


 何の迷いもなく、うなずいてきた。


「気がつくと、誰もいないんだよね」


 何の恐怖心もなく、あっけらかんと、答えてきた子供。ママは心の中でため息をついた。


 それが、迷子だからね。

 しばらく、花火大会とかには行けなそうだ。


 2019年7月18日、木曜日。

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