なくしたクレヨン

 明引呼あきひこと話をしていると、焉貴これたかがやってきた。


「アッキー?」

「何だ?」

「お前が間に入んないと、無理」


 ふたりで話し出して、何を言っているのかはよく聞こえなかった。

 だが、焉貴の職業は教師だ。

 ということは、子供関係かも?


 明引呼が戻ってきて、


「おう! ガキども来いよ」


 童子ふたりが部屋に入ってきた。どっちも明引呼の子供。


 善珠ぜっしゅ

 百理くだり


 何かもめてる?


「何があったんだよ?」


 パパに問われて、かなり憤慨している善珠が話し出した。


「僕のクレヨン、僕がいない間に使って、なくした」


 ママはやっちゃった〜っと思った。


 あぁ〜、それは怒るね。

 でも、まぁ、悪気があるわけではない。百理にも。


「断ろうとしたけど、善珠が家にいなかったってことでしょ?」

「そう……」

「待ってようと思ったけど、待ちきれなくなって使ったってことでしょ?」

「そう……」


 とにかく、がっかりである。百理も。

 なくすつもりはなかったのに、なくなってしまったのだから。


「でも、まぁ、自分の大切なものがなくなったら、悲しいよね?」

「うん……」


 百理は善珠に素直に頭を下げた。


「ごめんなさい」

「ん」


 善珠も鬼ではない、うなずいたが、


「でも、なくなったものは戻らない」


 それは正論だね。


 子供たちに聞こえないように、明引呼に聞いた。


「瞬間移動で手元に持ってくるはできないんですか?」

「ガキのものはできねぇだろ。親の誰のでもねぇんだからよ」


 そうだよね。

 自分のものだから、気を飛ばして、ある場所を探し出して、自分の元へ引き寄せるんだもんね。

 魔法じゃないからね、瞬間移動は。


「ガキは瞬間移動はできねぇからな」


 手詰まりだ。


「焉貴パパと探しても、見つからなかった?」

「うん……」


 だから、焉貴が言いにきたってことか。

 それじゃ、こうするか。


「みんなで探そう! 全員で、50人以上いるから、見つかるかもよ?」


 私は残念ながら、捜索には携われないが。


「百理、クレヨン使ってた時、誰か大人がそばにいた?」

「いた」

「じゃあ、そのパパに聞いて、それから探そう」

「うん、わかった」


 部屋から出てゆく、子供ふたりと明引呼。最後に出て行こうとした善珠を呼び止めた。


「ねぇ?」

「何? ママ」

「そのクレヨンって、綺麗な色なんだよね?」

「うん、そうだよ」

「綺麗な色だったから、使ってみたくなったんだよ」

「そうだね」


 善珠の顔に笑みが戻った。


 そうして、家族総出で探すが、見つからない。一時間もかかっても見つからない。大きなものではなく、5本しか入っていない小さなものらしい。


 やっと見つかって、あとで光命ひかりのみことに聞くと、ソファーの間に挟まっていたらしい。


 その箱を開けると、子供たちの目は輝いた。その綺麗な色に。


 そうして、焉貴パパがチビたちを注目させた。


「他の人のものを借りる時は、必ず本人の許可を得る。いない時は、パパに言う。そうしたら、一緒に出かけてるパパに連絡して、話せるようにするから」

「は〜い!」


 こうやって、10家族だった子供たちは、心からつながる本当の、兄弟になってゆくのだろう。


 2019年7月16日、火曜日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る