第20話 暗殺者二人
クリカラが去った後も、イルとリムリムはしばらく路地裏に
リムリムは
クズらしい眠そうな目、銀猫と負けず劣らずな酷い猫背。ただでさえみすぼらしい印象のこの少年の顔に浮かぶ、この中途半端な感情はなんだろう。
寂しさ、疲れ、憐み、痛み。
どれとも似ている様で微妙に食い違っている。そんな気がする。
「まさか……アンタがあの最凶の暗殺者、『
「それはこっちが言いたいぜ。てめえみたいなアバズレが、まさかご同業だったとはね」
「あんた、金にでも困ってんのかい? 『
「暗殺者に内輪の噂話なんかあんのかよ……」
「この間、一緒に仕事した双子がね」
「……あいつら、好きなこと言いやがって」
暇があれば、イルに絡んでくる双子の少女暗殺者だ。確か表の顔は、いいとこのご令嬢だったと思うが……。
「別に金には興味はねえよ。召集されるから受けてるだけだ」
「でもアンタ、そんなに貯め込んでどうする気だい?」
「どうもしやしねぇ……こいつはただの境界線。それ以上の意味はねぇ」
苦い丸薬を口の中に放りこみでもしたかの様に、眉を
「ああ、そうだ。それ以上の意味はねぇ。それ以上の意味は無ぇんだ。ここからここまでが生き延びて、ここからここまでが死んでいく。それ以上の意味は無ぇんだよ」
リムリムは思わず噴き出すようにして笑う。
なんだ……コイツは悪ぶっちゃいるが、根はとんでもなくクソまじめじゃあないか。殺すことの理由を金のやり取りの有無に押し付けて、やっとのことでバランスを保っている。このふてぶてしい態度に似合わない繊細さに、リムリムは可愛げを覚えた。
しかし、馬鹿にされたとでも受け取ったのだろう。イルは眉間の皺を深めながら目を
「おめぇさんよお、自分の指を見てごらんよ」
不意打ちのようなイルの問いかけに、リムリムは不思議そうな顔をしながらも指を大きく広げ、手の甲の方から自分の指を眺める。
さっきまで、『てめえ』だったのに、『おめえさん』と微妙に敬語めいた呼び方になったのは、同業者だと知ったからだろうか。
「で、指がなんだって言うのさ」
広げた指の間にイルの全身を収めて、リムリムが問い返すと、ただでさえ酷い猫背を一層丸めて、イルは再び口を開いた。
「なあ、おめえさん、どっからどこまでが指なのか言ってごらんよ。付け根からが指だとか馬鹿なことは言うんじゃねえぞ。指の付け根なんてのは、どこからどこまでが指なのかがはっきりしてから、はじめて言える物言いだ」
リムリムは一瞬考え込むようなそぶりを見せた後、口をへの字に歪ませる。
「ほら見やがれ、説明なんてできやしないだろ。どこからどこまでが指、どこからどこまでが掌で、どこからどこまでが腕だなんて、そりゃあもう曖昧なもんさ。どいつもこいつも曖昧に曖昧を積み重ねながら、それを曖昧とも思わねェで、何食わぬ顔して暮らしてやがる。
イルはそう言うと、足元に突っ伏して息絶えているペータへと視線を泳がせて、深い溜息を吐いた。
リムリムは呆れた。
この少年は、どれだけ自分に言い訳をしないと殺しの一つも出来ないのかと、この分だとクズぶっているのも、自分への言い訳の為なのだろう。繊細も繊細、ド繊細。少なくとも暗殺者なんて仕事には向いていない。
ペータを見つめたまま、ピクリとも動かないイルへと近づくと、リムリムは突然馴れ馴れしくその肩を抱く。
「うんうん、わかった、わかった。つまりあんたが持ってる金に使い道はないって、そういうことよね?」
「いや、まあそうだが……。おめえさん、俺の話を聞いてたか?」
さっきまでわりと深刻ぶって話をしていたつもりだったのに、意味不明な総括をされたせいか、イルは明らかに戸惑った表情を見せた。しかし、リムリムはそんなことはお構いなし。むしろ、楽しげにニカッと白い歯を見せて笑った。
「じゃあ、このリムリム姉さんが、アンタに生きた金の使い方ってのを教えてあげるよ」
「いや、要らねえ、余計なお世話だ」
「そういうなよ、純情少年」
「誰が純情少年だ! 誰が!」
「まあ、聞きなって、滅多に出ないスゴい
「……なんだ、そりゃ」
リムリムは、にんまりと笑う。
「決まってるだろう? シアって名前のかわいい女奴隷さ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます