冒険のその先に(2)

「気づくのが遅えよ、マヌケ」


 白い装束に包まれた人物が、イッちゃんから刀を抜く。

 刀を抜かれたイッちゃんはその場に崩れ落ちてしまった。


「これでお前たちは大きな戦力を失ったな」

「――」


 男の声など耳に入らなかった。

 頭の中が真っ白になり、気づけば体が勝手に動いていた。


 ヒュンッ


 猛スピードで相手の背後へとまわり、自分の腰にある刀で切りつける。


「ッ!?」


 ギリギリで相手が攻撃をかわし、切りつけた刀が空気を裂く。

 相手が僕から距離をとる。


「へえ、けっこう速……」


 ヒュンッ


 敵が言葉を終える前に次なる攻撃を仕掛ける。

 相手の懐に飛び込み術を発動した。


「猛火(もうか)の術!!」


 ゴオオオオオオオオオオッ


 強烈な炎が相手を食らい尽くす。

 白装束の男の姿が炎に包まれ見えなくなる。


「ハア、ハア……。やったのかな?」


 だんだんと炎が弱まっていく。

 その中からふと影が現れる。

 そこには白い装束を焼き尽くされて、本来の姿を現した敵が立っていた。


「ッ!」

「おいおい、そんなにビビるなよ」


 敵の姿を見た僕は、絶句した。

 頭から角を2本生やし、口からは凶暴な牙がとび出ていた。引き締まった肉体をしており、その姿はまさに鬼そのものだった。


「あ~、イライラするぜ」

「ッ!?」


 前触れもなく相手が間合いをつめ、僕を切りつけてきた。

 瞬時に僕は回避するが、かすり傷をつけられる。


「オラオラ、そんなもんかよ!」


 敵は休む暇もなく斬り続ける。

 それを間一髪かわし続ける。


「ハアッ、ハアッ……」


 こいつは僕とは次元が違う、そう実感してきた。

 僕は僕の弱さを恨んだ。

 戦いの最中、僕はリコちゃんのほうをちらっと見る。

 いつ泣き出すかわからない表情をしていた。

 イッちゃんのほうを見た。刺された部分からエネルギーのようなものが流れ出ている。

 すべて僕の弱さが導いた結末だ。


「よそ見とは余裕だなオラア!!」


 目の前の敵から目をそらしたのがまずかった。

 敵が隙につけこみ、僕の腕を斬る。


「ぐわああああッ!!?」


 斬られた腕が真っ二つになることはなかったが、腕を動かすことができなくなった。


「もう一つくれてやるよ!」

「あぐッ!?」


 刀の柄で僕の顔に一撃を加える。

 今までの攻撃により蓄積されたダメージで、僕はついに倒れてしまった。


「……くっ!」

「ざまあねえな!」


 鬼の男が僕をあざ笑う。

 そしてくるりとまわりを見渡し始めた。


「……さてと、次はお前だぜ金髪ちゃん?」

「っ!?」


 次にリコちゃんをターゲットとする。


「リコちゃん逃げてっ!!」


 僕は必死に叫んだ。

 しかしリコちゃんが動くことはなかった。

 泣きながら震えている。


「かわいそうに震えてやがる。」


 鬼がだんだんリコちゃんに近づいていく。


「やめろ! リコちゃんに近づくな!」


 叫び声をあげた。

 しかし非情にも、リコちゃんの目の前にたどり着いてしまう。


「くくく、あばよ」


 無慈悲に刀を振り上げる鬼。


「あああああああ!!」


 僕はありったけの力をふりしぼり、リコちゃんのもとへと走り出した。

 鬼が刀を振り下ろす。


「ぐっ……間に合わないッ!!」



 リコちゃんが切り裂かれる、

 その直前に。


「うおりゃああああああああああああ!!」


 大男が雄叫びをあげながら鬼にタックルをぶつけた。


「ッ! なんだ!?」


 タックルされた鬼は遠くまで吹き飛ばされた。


「大丈夫か、お前!」


 僕たちの救世主となったのは、


「ライオネル!!」


 人の姿をしたライオネルだった。


「……」


 そしてもう一人、イーグルも現れる。


「どうしてライオネルたちがここに!?」


 ライオネルに問いかける。


「ああ、オレたちは白い街に向かってたんだが、途中で叫び声が聞こえたもんでよ。駆けつけたらこのありさまだ!」


 どうやらライオネルたちは、僕たちの声を耳にして駆けつけてくれたらしい。


「……いったい何があった?」


 今度はライオネルが僕たちに質問してくる。


「僕たちにもわからない。霧が出てきたと思ったら突然、やつらが襲ってきたんだ!」

「ふん……なるほどな」


 吹き飛ばされた鬼を見つめて考え込むライオネル。


「……んで、今の状況は?」

「他にも敵が二人いるんだけど、そっちは仲間たちがなんとか戦ってる! ……それよりもイッちゃんが!」


 僕は慌てて倒れているイッちゃんのもとへと駆け寄った。


「こりゃまずいな」


 イッちゃんの様子を見てライオネルが顔をしかめる。


「ねえ、どうすればいいのかな!?」


 必死になって尋ねる。


「そうだな、この先の街にあるでっけえ温泉は知ってるか?」

「うん!」


 それってリコちゃんが言ってた白い街にある温泉のことだよね。


「この子をそこまで連れていって、お湯に浸からせろ」

「……それだけでいいの?」


 意外と実現可能な条件だった。


「ああ! ただし誰にも気づかれないようにしろよ?」

「わ、分かった!」


 もしかするとイッちゃんは助かる。

 それだけでも僕の希望となり、力が湧いてきた。


「よし、分かったら行け! ここは俺たちに任せろ!」

「本当にありがとう! このお礼は必ず!」


 ライオネルに心の底から感謝した。


「ああ! 後でお前をたっぷり食わせてもらうぜ!」


 こんな状況にも関わらず、笑いながら冗談を飛ばすライオネル。

 いや、こんな時だからこそかもしれない。


「ははっ、分かった!」


 僕はここをライオネルに任せ、イッちゃんを担いでリコちゃんのもとに行った。


「リコちゃん、温泉まで案内してくれないかな?」

「えっと……」


 なぜか返事に戸惑うリコちゃん。

 ……まだ混乱しているのだろうか?


「お願いだよ! イッちゃんの命がかかってるんだ!」

「……わかりました!」

「ッ! ありがとう!」


 リコちゃんが承諾してくれる。

 こうして、僕たちはみんなが戦う最中、温泉を目指し走り出した。







「貴様ら、感染者だな?」


 鬼がライオネルに話しかける。


「おうよ。てめえもそうだろうが!」

「ふん、貴様らと一緒にすんじゃねえよ」


 鬼がさらに鬼の姿へと変化していく。


「はん、俺たちに敵うとでも?」


 ライオネルも徐々にライオンへと姿を変えていく。


「来いよ、獣ども!」


 鬼が挑発し、


「行くぜ、イーグル!」

「……ああ」


 獣たちが咆哮する。

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