第1部:第3章 それが日常と化していく

冒険のその先に(1)

「さてリコちゃん、わたくしたちはこれからどこに向かうべきなのでしょうか?」


 ハナちゃんが単刀直入に、この世界の案内人に尋ねる。


「この先にある大きな街に行こうかと!」

「どれくらい時間がかかるの?」

「えーと、今からこの街を出ますと約半日で次の街に着くことができます!」

「けっこう近いんですねっ」

「どんな街なの~?」


 質問が飛び交う。


「真っ白な世界です! 温泉も大きくていいところですよ!」

「おお~、楽しみ~」


 ナツミちゃんをはじめ、みんなが歓喜の声をあげる。


「さらに驚くべきことに! そこにはお城もあって王様もいらっしゃるのです!」

「おおー! マジスゲー!」


 歓声がさらに大きくなる。


「真っ白な世界にお城があって王様まで! ロマンチックですわー! まあ、わたくしの王様はコーさまだけですが……」


 ちらっと、ハナちゃんが熱い視線を送ってくる。


「あはは……。王様ってどんな人なのリコちゃん?」

「実は誰も知らないのです! 謎の王様なのです!」


 それでいいのかこの世界の王様。


「……とりあえず次の目標はそこに行くってことでいいのか?」

「はい!」


 リュウが確認をとり、うなずくリコちゃん。


「よし! じゃあさっそく準備しようぜ!」

「準備が整いしだい、玄関に集合しましょう!」


 はーい、とみんなが返事をして各自が動き始めた。

 しばらくして旅館の玄関にみんな集まる。


「みなさん、忘れ物はありませんか!」

「大丈夫だよ~、もともと荷物なんてほとんどないんだし!」

「それもそうですわね!」


 確かに、僕たちに必要なものなんて無いに等しいよね。

 野宿するときはリコちゃんが能力で作ってくれるし。


「それではいざ参りますわ!」

「おおー!」


 こうして僕たちの新たな一日が始まった。

 このときリコちゃんが頬をふくらませていたのは、みんなに内緒にしておこう。




 *




「ヒマスギ……シヌ」


 宿屋を出て数時間後、つい僕は口からこぼしてしまった。


「……すこしは我慢しろよ」

「でもさー……」


 リュウのいうこともわかるが、飽き症の僕にとっては我慢のならないものだった。


「実はさ、俺も同じこと思ってた!」


 僕と似た者同士のシオンがそう言った。


「じゃあここにいるみんなで何かしませんかっ?」


 イッちゃんがそう提案してくれた。


「何があるかな~?」


 ナツミちゃんがつぶやき、みんなが悩みだす。

 みんなでできること……暇なときにすること。


「あっ!」

「何か思いついたのですか?」

「うん、古今東西ゲームでもしようよ!」


 僕がお米のとき、僕の兄であるユウによく勝負を仕掛けていたゲームだ。


「いいですね! やりましょう!」


 乗り気なリコちゃんをはじめ、みんなが賛同してくれた。


「ふっふっふ……」


 僕がこのゲームをどれだけしたと思っているのかな?

 ユウに鍛え上げられたこの力、とくと味わうがいい!!


「じゃあ始めますわー! お題はOからはじまる英単語!」

「「……え?」」


 僕とシオンの顔がひきつる。


 パンパン


「opportunity!」


 パンパン……


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 僕とシオンの雄叫びが青空に轟いた。







「はあ、はあ、疲れた……」


 古今東西ゲーム終えた今、僕はすさまじいほどの疲労感を覚えていた。

 英単語なんてわからないに決まってるじゃないか。

 心の中でぶつぶつと文句を言っていると、シオンが話しかけてきた。


「なあ、英単語なんてずるくない? まったく知らないもん!」

「僕も同じ気持ちだよ」


 僕とシオンはため息をついた。


「ッ!」

「どうしたの?」


 シオンが何かひらめいた顔をしたので僕は尋ねた。

 僕の耳元に顔を近づけこうささやく。


「なあ、仕返しにいたずらしない?」

「どんな?」

「……オレたちの忍術を使ってスカートめくりとか」

「ッ!!」


 体中に電撃が走った。


「……詳しく聞かせろ」

「任せな」


 シオンが計画を僕に説明する。


「作戦内容はいたってシンプル。スカートがめくれるような術を同時に発動するだけだ。開始の合図はオレのウインクだ」

「……イエッサー」

「「死ぬなよ……相棒」」


 こぶしを突き合わせて各々の位置につく。


「ごくりっ……」


 緊張で体がこわばり、ひたいからは一筋の汗がこぼれ落ちる。

 そして――――


 ――――シオンが合図であるウインクを僕にとばした。


 バババババババババッ!!


「「スカートめくりの術ッ!!!」」


 声が重なり、二人の想いを乗せた風が一つとなり駆けぬける。


 ビュウウウウウウウウウッ


「「「「きゃあっ!!」」」」


 女の子たちの黄色い声が上がり、スカートも舞い上がる。


 ブシャアアアアアアアアアアアアアッッ!!


 致死量に至るほどの鼻血が噴き出る。


「……おい、今の風すごかった……なッ!?」


 みんなに声をかけようと先頭にいたリュウが振り返った。

 その視界の先にはナツミちゃんの姿があった。

 スカートがひらひらと宙に舞っている姿が。


 バターンッ!


 それを見た途端、リュウは顔を真っ赤にさせ倒れてしまった。


「「ふふっ」」


 幸せそうに鼻血を流している僕たち、女の子たちがこちらに向く。


「……コーくん?」

「……シオン?」

「「……」」


 アレー、オカシイナー。

 ゴゴゴゴなんて擬音が聞こえてくるぞー?


「おいウシオ、オレの気のせいかもしれないけど……なんか聞こえね?」

「キコエマス」


 彼女たち…いや、もはや彼女たちとは呼べない何かが。

 一歩一歩近づいてくる。


「「あの……マジすんませんでした!!」」


 ビシイッ!!


 それはそれは見事な土下座だったという。

 しかし……足音が止むことはなかったそうな。


「「……ッ!!」」


 全世界が震撼した。




 *




「もう、いたずらはほどほどにしてくださいねっ。」

「コーさまなら、いつでも歓迎ですわ!」

「あんまりしたら、嫌われちゃうよ~?」

「おにいちゃんたちひどいです!」


 正座させられている男どもに女の子たちが説教する。

 関係のないリュウまで正座させられているのは、さすがにかわいそうだった。


「「「はい、もうしません」」」


 こうしてなんとか許してもらえた僕たちだった。




 *




「……なんで俺まで」

「ナツミちゃんの見ちゃったんだから仕方ないでしょ」

「ッ!」


 何か思い出したようで顔を赤く染めるリュウ。

 こいつはどこまでピュアなんだ。


「みなさーん、もうすぐ到着ですよー!」


 リコちゃんがみんなに知らせてくれる。


「けっこうあっという間だったね~」

「みなさんといると楽しいですわ!」


 なんて会話が聞こえてくる。

 平和でいいなあ。


 そんなことを思っていると、なにやら視界が悪くなってきた。


「霧かな?」


 なんて僕がつぶやいた、そのとき。


「……ッ! 全員下がれ! 何かいるぞ!」


 リュウが注意の声をあげた。


「キルルルルルルッ」

「モアアアアアアッ」


 奇妙な鳴き声が聞こえる。


「……おい、風を起こせ!」

「任せて! 烈風(れっぷう)の術!!」


 リュウの要請にシオンが応じ、強烈な風を起こす。

 え、シオンすごくない?

 風のおかげで霧が晴れていく。


「ッ!」


 僕たち全員が固まる。

 目の前に人型をしたカマキリとモンシロチョウがいたからだ。


「キルルルルルッ」

「モアアアアアッ」


 彼らに言語能力は見られなかったが、敵意があることには違いなかった。


「リコちゃん! この世界に敵はいないはずなんじゃないの!?」

「あたしにもなにがなんだか分かりません!」


 この世界をよく知っているはずのリコちゃんまでもが動揺していた。


「……戦闘力のあるやつは前に出ろ! イネは一番後衛にまわれ!」

「はいっ!」


 リュウの指示で固まっていたみんなが動き出す。

 戦闘になると頼りになるやつだった。

 カマキリにはリュウとナツミちゃんが。

 モンシロチョウにはシオンとハナちゃんがついた。

 悔しいが役に立ちそうにない僕はリコちゃんと後ろに下がった。

 その後ろにはイッちゃんが待機している。

 回復させることのできるイッちゃんは重要人物だからだ。


 敵が動き出した。

 はじめにカマキリがリュウたちに襲いかかる。

 カマキリは鋭い刃をした腕で切りつけようとした。そこにナツミちゃんが手錠を投げつけ相手の動きをロックし、蹴りをかますリュウ。

 息ぴったりのコンビだった。

 蹴り飛ばされたカマキリは自慢の鎌を駆使し手錠をバラバラにする。


「うっ、手強ごわそう!」

「……気をぬくな、ナツミ」


 一方、モンシロチョウは大きな羽を使い暴風を引き起こす。


「なっ、これでは一歩も近づけませんわ!」

「……」


 ハナちゃんが必死に猛風に耐える。

 一方で、シオンはめくりあがりそうなスカートに夢中だった。


「ッ! このへんたーいッ!!」

「グハアアアアアアッ!」


 シオンの視線に気づいたハナちゃんは、変態を殴り飛ばした。

 このコンビ、大丈夫だろうか。


「ねえイッちゃん、みんなすごいね! 僕も修行してもっと強くな・…」


 強くならなきゃ、そう言いかけたところで言葉がつまった。

 振り返ったその先に――――背後から刀で刺されているイッちゃんの姿があったからだ。


「気づくのが遅えよ、マヌケ」


 白い装束をまとった刀の持ち主が、僕にそう言った。

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