温泉から始まるひとめぼれ(2)

「うーん」


 目を開けると、僕の瞳には木製の天井が映った。


「……あれ、ここって?」


 体を起きあげると、ここが自分の部屋だということがわかった。


「あっ、だいじょうぶですかコーくんっ?」

「大丈夫ですか、コーさま!」


 そばにいたらしいイッちゃんとハナちゃんが僕のからだを支える。


「大丈夫だよ。ありがとね二人とも」

「よかったですっ」

「おしおきはばっちり執行いたしましたのでご安心を!」

「……ごめん」

 

 二人の奥で体育座りしている、ゆかた姿のシオンはとてつもない哀愁に包まれていた。頭には大きなたんこぶが三つくらい積み重なっている。


「いや、ちゃんと説明しなかった僕も悪いんだし……」

「……ふん、ざまあねえな」

「なっ! その声はっ!」


 声がした後ろを振り返ってみると、わが宿敵リュウが座っていた。

 リュウも同じくゆかた姿だ。


「貴様! あのときほんのちょっとナツミちゃんの姿を見ただけで飛び出したくせに!」

「……んなっ、思い出させるなっ!!」


 顔を真っ赤にしてうつむくリュウ。バカめ、耳まで真っ赤だからバレバレなんだよ!


「いや~、その件に関しては水に流してくれないかな~?」


 イッちゃんの隣のナツミちゃんが話に参入する。


「その件ってなんですかっ?」

「な、なんでもないよイッちゃん」

「そ、そうそう~」


 お互いのためにもここは黙り込んでおいたほうがよさそうだ。ナツミちゃん、目が泳ぎまくってるけど大丈夫かいな。

 そこでパンと手が鳴った。

 ハナちゃんだ。


「コーさまも起きたことですし、それでは始めましょうか!」

「始めるってなにを?」

「自己紹介ですよ! コーさまが寝ている間にそういうことになったのです!」


 へえ、僕が気を失ってる間にそんなことが。

 なんだかんだで落ち着いたみたいだし、ちょうどいい機会かもしれない。


「じゃあみんな集まって輪になってください! 始めましょう!」


 ハナちゃんのよびかけに応じて円をつくる僕たち。


「それでは第一回ミーティング、自己紹介大会を開催いたします!」


 一番に名乗りあげたのは、ハナちゃんだった。


「みなさま改めまして、こんばんは。わたくしはハナと申します!」


 綺麗なオレンジ色をしたポニーテールの髪。雰囲気はお嬢様っぽいが実際はすごく行動力のある女の子なようだ。

 ひまわりのイメージがよく似合っている。


「今はゆかた姿ですが、普段はドレスのような服を着ております。得意なことは植物を操ることですかね」


 ハナちゃんはえっへんと胸を張った。


「そして今後についてですが……コーさまとずっと一緒にいられたらいいなと思っております」


 赤い顔を手で覆うハナちゃん。

 こちらまで恥ずかしくなるからやめてほしい……。

 一通り終えたところでナツミちゃんが手をあげた。


「あのさ~、ハナは一度もウシオくんに会ったことがないんでしょ~? どうして知ってたのさ?」

「わたくしにも詳しいことはまったくわかりません!」


 大統領もたまげるくらい、きっぱりと言い切った。


「わたくしがこの世界に来た時にはコーさまの記憶だけが残っていました。記憶というより想い……でしょうか。コーさまに対する想いがすごくすごく強かったんです」

「……だってよ、コーサマ」


 リュウがにやにやしながら僕をからかってくる。

 恥ずかしすぎて下を向いた。


「ですからこれからもずっと一緒にいるつもりです! よろしくお願いいたします」


 ハナちゃんが丁寧にお辞儀して、隣の人へと順番が移る。

 ぺこりとイッちゃんがお辞儀した。


「わたしはイネといいますっ! いつもはナース姿ですっ! 誰かを回復させることができますので、なにかあったら言ってくださいねっ!」


 紅色でウエーブのロングヘアーなイッちゃん。身長は低いが出るところは出ていて、髪の質のこともあり、全体的にふわっとした女の子だ。


「よろしくね~イネ!」

「はい、よろしくお願いしますっ!」


 太陽のように素敵な笑顔だ。すぐに表情にでちゃうタイプの子で、優しい性格をしている。ときに恐ろしい一面をお持ちなのは秘密だ。

 次にナツミちゃんの番に回った。


「はい! 私はナツミです! いつもは警官の格好をしていて、手錠で相手を捕まえることができま~す!」


 茶髪のショートヘアでフレンドリーな口調。身長はそれほど高くないが、モデルさんみたいにすらっとした出で立ちだ。

 クラスの頼れる委員長といえばしっくりくる。

 ナツミちゃんも終わり、女子陣最後の番となった。


「あたしはこの世界の案内人の一人、リコともうします! ふつつかものではありますがよろしくお願いいたします!」


 何度か聞いたことのあるフレーズを口にした。

 金髪ショートヘアの二つくくりをしている小学生くらいの女の子で、僕たちの案内人さん役を務めてくれている。仕事上では頼れるが子供っぽいところも多くて、 僕たちは妹のように思っている。

 そして、いよいよ男性陣のターンに突入した。

 まずはリコちゃんの隣に座る銀髪のイケメンから始まった。


「オレはシオン! 普段は白い忍者服を身にまとっていて、忍術使えます!」

「コーくんと同じなんですねっ」

「へえ、そうなんだ。ウシオ、お前は何の術使えるよ?」

「……えっ!? ……め、めっちゃすごいの使えるから! 凶暴なライオンでも、い、いちころッ!」

「それはすげえな」


 ま、まあ、ライオネルに出会ったときに一度だけできたから……。嘘ではないよね、うん。普段は植物にあげるくらいの水とか、スカートめくりができるくらいの風を生む術しか使えないけど。

 少しくやしそうな顔をするシオン。

 すると何か思いついたような顔をした。


「そうだ! 俺にはとっておきの術があるんだぜ! 見てろよウシオ! 秘術、スカートめく……げふうッ!」


 術を発動する前に、ハナちゃんにまくらを投げつけられた。


「この方はくだらない術ばかりしますので女性の方はご注意を」


 頭に怒りマークを浮かべながら注意を促す。

 ……僕の唯一の得意技なんですけど。

 まくらをぶつけられたことで強制的にリュウの順番へと変わった。


「……俺はリュウ、いつも囚人の服を着ている。……本物にはかなわないが、誰かの技を目で見てパクり、使うことができる」


 青年にしては長めの黒髪で、片側にながしている。片目が前髪に隠れていてクールな印象を受ける。

 だが見た目とは裏腹に、こいつにも意外な一面がある。

 とてもエロに弱いということだ。


「……おい、なんでそんなにやにやしてんだよ?」

「べつにー」


 おっと、つい表情に出ちゃったか。

 リュウの自己紹介が終わり、最後に黒髪センター分けの僕の番となった。


「えっと、僕の名前はウシオって言います! 黒い忍者服姿で一応忍術を使えます!」

「お~、見せて見せて!」

「コーさま、わたくしぜひ拝見したいです!」

「……え、マジで?」


 どうしよう、みんなの視線が痛いんだけど。

 スカートめくりの術なんてしたら……まずいッ!


「……え、えーと、僕の忍術は強すぎるからまた今度ね!」

「え~、けちんぼ~!」

「わたくし、楽しみですわ!」


 なんとか……まぬがれたのだろうか?

 足早に話題を変える。


「と、とりあえず自己紹介はこれで終わりかな? じゃあみんなよろしくね!」


 よろしくー、っと各自が挨拶をかわした。

 さて、これで本日は解散かなあ?さすがに疲れたよ。

 そう思った矢先のこと。


「皆様おつかれでしょうし今後の方針は明日の朝に決めるとしましょう。……それで本日寝る部屋を決めたいのですが」

「部屋を決める?」

「はい」


 ハナちゃんがこくりと頷く。

 なるほど。友達になったんだから、女の子同士一緒に寝たいよね。


「わたくしとシオンはもともと一つの部屋で泊まる予定でした。 当初はシオンを布団で縛り上げて寝るつもりでしたが……」

「そうだったの!?」


 シオンが泣きそうな顔でツッコミを入れた。

 先ほどから同情の嵐だ。君も苦労してるんだね。


「しかしせっかくですから、わたくしたちの部屋も合わせて部屋割りをしませんか?」

「それ、おもしろそ~!」

「いいですねっ!」


 女の子たちはそろって賛同した。

 そんな中、一人だけ申し訳なさそうにしていた。

 リコちゃんだ。


「……あの、ごめんなさい! あたしは用事があるので参加できないです」

「そうでしたか。わかりました、お仕事ご苦労様です!」


 ハナちゃんがリコちゃんをねぎらう。ハナちゃんって、シオン以外にはほんと優しいよなあ。


「では、改めて部屋割りを決めましょう! ……じゃじゃーん! こんなこともあろうかと割りばしを用意しておりました!」

「用意周到すぎる」

「部屋は三つありますので、割りばしには一から三までの数字が書かれています!


 それぞれ二本ずつありますので、同じ番号をひいた人とペアになります!」


「おお~」


 単純明快でわかりやすかった。


「ではみなさま同時に引いてもらいますので、選んでください」


 そう言って番号が記された割りばしを差し出すハナちゃん。

 各自一本ずつ掴む。


「いきますよ~? せ~のっ!」


 ハナちゃんの合図で全員が割り箸をひっこぬいた。


「……一だ」

「僕は二!」

「オレは三だ!」


 リュウが一で、僕が二、シオンが三となった。

 一方女の子のほうは……。


「あっ、私一だ~」

「わたくしは二ですわ!」

「わたしは三ですっ!」


 ナツミちゃんが一で、ハナちゃんが二、イッちゃんが三となった。


「「「「ッ!!?」」」」


 一と二番の組が異常な反応を示す。


「まさか、ハナちゃんと一晩過ごすだと!?」

「やりましたわ~! わたくしがんばっちゃいます!!」

「……よりにもよって、あんなことがあった日にナツミと寝るだと!?」

「どうしよ~、寝れないよ~!」


 混乱する僕たちとは対照的に、三番の方々はおっとりとした様子だった。


「よろしくお願いしますねっ。シオン君のいろんなお話、聞いてみたいですっ!」

「ヨ、ヨロシク!」


 なんか仲睦まじそうじゃないか。……いや、決して嫉妬してるわけじゃないけどね!


「それでは一と三番の方は各自の部屋に移動しましょう!」

「それではあたしもこれで失礼します!」


 各自が移動しはじめ、それにともなってリコちゃんも出かける。

 こうして、波乱万丈の眠れない夜が訪れるのだった。


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