温泉から始まるひとめぼれ(1)
イッちゃんたちがお風呂で友達になった、ハナちゃんと呼ばれる女の子が。
突然、僕にハグをかましてきた。目が回り、意識が遠のいていく。……負けてたまるかああああああああああッ!!
「……はっ!」
全身全霊の気合いで、なんとか意識を保つことに成功する。しかし、ハナちゃんはいまだ僕に抱き着いたままだ。なんとかしないと!
「あ、あのっ、そろそろ離れてもらってもいいかな?」
「いやです、もう離しません!」
断固拒否するハナちゃん。
「えっと、でも動けないっていうか」
「いやです! ずっとこのままでいたいのです!」
どうしても離れてくれないようだ。
……仕方ない、こうなったら最終手段を使う他に手はないだろう。
「……ふうううううう」
深呼吸する僕。
奥義をくりだした。
「こちょこちょこちょ~~!!」
「っ、あはははははははっ!?」
古典的で地味な技だったが効果は絶大だ。
力が抜けて僕から離れたハナちゃんがぺたりと地面に座り込む。
ようやく解放されて自由になった僕は、いまだに息をあげているハナちゃんが少し心配になった。
や、やりすぎたかな?
「だ、だいじょうぶ?」
「……」
ようやく息を整え終えたハナちゃんがこちらを向く。頬を朱に染め額には汗をうかべている。とんでもなく色っぽかった。
ここで鼻血を出さなかった僕は称えられるべきだ。
「……えっち」
「ッツ!!?」
ドキリと心臓が跳ね上がった。
その表情でそのセリフは反則だよ!!
タラーッ
無残にも僕は完敗だった。
僕が鼻血を出したことで我にかえったのか、イッちゃんとリコちゃんが僕たちの間に入ってきた。
「あたし、びっくりしました! お花のおねえちゃんすごいです!」
「だいじょうぶですかっ、コーくんっ。これどうぞっ」
そう言ってティッシュを渡してくれる。
「ハナちゃんっ!」
珍しく大きい声を出したイッちゃん。もしかして注意するのかな。たしかに見知らぬ男性に抱き着くなんて危ないもんね。
「あれはやっちゃダメですっ! ずるいですっ!」
「はい……」
なんかちょっとおかしくない?
イッちゃんに叱られ反省しているのか、顔をうつむけるハナちゃん。
「でも、本当にお会いしたかったので仕方ないのです!」
瞳をうるませながら猛烈な視線をこちらに送ってくる。
……顔がすごく熱くなるなあ。
それにしても、僕はずっと疑問をかかえている。もしかしたら彼女を傷つけるかもしれないので、あえて言わないのだが…。
「お花のおねえちゃんは、前にもおにいちゃんに会ったことがあるんですか?」
「いえ、ないです!」
リコちゃんがさらっと話題を挙げてくれた。
「……って、ないんかい!!」
「はい、一度もお会いしたことはありませんよ?」
謎をさらに深める発言だった。
「でも僕を知ってるような言動を」
「あっ、それにつきましては……」
そのとき男湯から誰かが出てきた。
銀の髪についている水滴がプラチナのように輝く。白い忍者服をまとった人物は、お風呂で出会った僕の親友シオンだった。
こちらに気づいたようで、
「よっ相棒! なにしてん……」
近づいてくる途中で、座り込んでいる少女に気がついたらしい。
直後、あわてた様子で話しかけた。
「おいハナ、どうした! 大丈夫か!?」
「あっ、シオンですか……」
話しかけられてようやくシオンの存在に気づくハナちゃん。どうやら二人は知り合いらしい。
シオンが手を差し出すが、
「さわらないでください。一人で起き上がれますから」
「あっ……はい」
冷静に拒絶されてしまう。
見てるこっちが悲しくなった。
「なあ、何があったのさ?」
シオンが再び問いかける。
ハナちゃんは少し黙り込んだ後、ぽつりとつぶやいた。
「コーさまがえっちだから……。きゃっ! 思い出しただけでも恥ずかしいですわ!」
「「なにいッ!?」」
幸せそうな表情を浮かべるハナちゃんの一方で、僕とシオンは風呂上りにしてはありえないような汗をたれ流していた。
そして――――
「てめえええええええバカ野郎おおおおおおッ!!」
「ぼふうッ!?」
怒りと怨念と嫉妬とその他もろもろを含めたストレートパンチが、僕の意識を根こそぎ奪った。
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