忍者としての門出(2)

「あたしはこの世界の案内人の一人、リコともうします! これからあなた方の旅路をサポートさせていただきます! ふつつかものではありますがよろしくお願いします!!」

「案内人ですかっ……?」

「それにこの世界って」


 目を点にさせる僕とイッちゃん。

 なのに案内人?であるはずのリコちゃんもあたふた混乱している。なにか緊張している様子だけど、慣れてないことでもしてるのかな……?

 と、とりあえず一番気になることから聞いてみよう。


「ねえ、リコちゃん。この世界ってどういうこと?」


 僕は率直に疑問をぶつけた。

 質問に答えるという明確な行動を示されたリコちゃんは一つ深呼吸をいれて体勢を整えた。


「あなたたちは女の子に食べられましたよね? ここはその女の子の精神世界といったところです!」


「精神世界ですかっ……。でもどうしてわたしたちがこんなところへ?」

「それは、あなた方が精神エネルギーのかたまり。つまり魂だからです!」

「……ん?」


 僕の兄のユウからもそんな話を聞いたことがあるような……。

 うーん、この際だしちゃんと聞いてみようかな。


「あの……その魂っていうのもがなんなのか教えてくれる?」

「はい!」


 元気よく返事し、説明を始めてくれる。


「大体は一般的に知られているもので間違いありません! 魂というものは輪廻転生をするものです! 人から人、アリから鳥ということがありますが、人から食べ物になるということもあります!」


 へえ、そんなことがあるんだ。

 僕たちはそのパターンに当てはまるわけだ。


「魂のついてる食べ物が食べられた場合、その魂は食べた人の精神世界に迷いこむのです! それが今の状況というわけなのです!」


 なるほど、だから僕たちはこんなところにいるんだね。

 いや、でもまだ一番の問題が解決していない。


「あの……じゃあこれから僕たちはどうなるのかな?」


 それが分からないんじゃ何も始められない。

 リコちゃんはえっへんと胸を張って答えた。


「大丈夫です! そのためにあたしがいるんですから!」

「どういうこと?」

「今からあなた方にはこの世界から出ていってもらいます! その案内をさせていただくのがあたしの仕事です!」


 そっかそっか、だからリコちゃんがいるんだ。

 バスガイドのような恰好をしているのにも頷ける。


「すこし長い旅になりますが、がんばりましょう! よろしくお願いします!」

「よろしく!」

「よろしくねっ!」

「ではさっそく参りましょう!」


 ……おおふ、もう出発するのか。

 僕としてもはやく行動を起こしたい。

 でも。


「ごめんね、今からでも出発したいんだけど……。腰をヤっちゃって動けないんだよね。もう少し休んでからでいいかな?」


 忘れていたが、少し前にヤってしまった腰へのダメージは計り知れない。すぐに動けるものではなかった。

 申し訳ないなと思っていると、リコちゃんは不思議そうな顔をして、


「それならナースのおねえちゃんに治してもらえばいいです!」


 と、イッちゃんを指さして言った。


「いやあ、さすがにぎっくり腰は治せないでしょ。」

「力を使えばきっと治りますよ?」

「力ってなんのことですかっ……?」

「ナースのおねえちゃん、忍者のおにいちゃんの腰に手をかざしてください。それから治れ~って念じてみてください!」

「は、はい、やってみますねっ。……えいっ!」


 イッちゃんは半信半疑な表情を浮かべながらも言われた通りにやってみた。


 パアアアアア


 気の抜けそうな効果音とともに腰の痛みがみるみるひいていく。

 すごい、こんなの魔法みたいな力だ。

 数秒もしないうちに腰は元通り復活した。


「すごいよイッちゃん! めっちゃ動ける! ありがとね!」

「はい、よかったですっ! でも、なんだか少し疲れちゃいましたっ。」

「そりゃそうです、精神エネルギーを使ったんですから!」


 ゲームでいうMPを消費するみたいなものかな。

 ということは僕にも何かできるのだろうか。


「リコちゃん、これって僕にもできるかな?」

「いいえ、みんながこれをできるわけじゃないです! その人の特徴によってちがいます! ナースのおねえちゃんはナースなので回復させられるのです!」


 ほんとにゲームみたいな世界だなと思った。

 胡散臭い話だが、実際に回復したから現実なんだよなあ。

 だとすれば僕にはなにができるんだろう。

 少し思案してみる。

 イッちゃんはナース服を着て回復の能力を使えた。

 一方で僕は忍者の見た目をしている。

 つまり……、


「忍術が使えるのかな? だとしたらすごいかっこいいじゃん! よーし……影分身の術!!!」


 シーンっ


「おにいちゃん?」

「コーくんっ?」

「……」


 そうか、印を組まなきゃ。

 そりゃあ印を組まなきゃ忍術は使えないよね、あはは。


 シュバシュババババー


「影分身の術!!!」


 シーンっ


「……おかしいなあ、集中力の問題かなあ」

「魔法はその人の強さによって使えるか否かが決まります! おにいちゃんはまだ『もやし』レベルなんじゃないですかね?」


 そ、そんなばかなッッ!!

『もやし』に使えるのってなんなんだよ!!!

 もやし炒めくらいじゃないかッ!!!


「変わり身の術! 火遁の術! 土遁の術! 瞬身の術! はねるの術!!(しかしなにもおこらない……)ハアハア、くそおおおおおおッ!!(泣)」


 ドンッと地面にこぶしを突き立てる。

 ……まだだ、僕はまだ諦めない……っ!

 納得するまで続けてやるッ!


「水遁の術!!」


 チョロロロっ


 手から、ジョウロで花にあげるくらいの量の水が出た。ついでに僕の目と鼻からも水があふれ出てきた。

 これもきっと術のせい。


「うう……風遁の術……」


 ヒュウウウウっ


「きゃっ!」


 イッちゃんのスカートが舞い上がった。


「(真顔)」


 僕、忍者になってよかった。


 ツー


 鼻血が垂れてきた。これもきっと水遁のせいだろう。


「旅をしていればきっとレベルもあがりますよ!」


 リコちゃんがそう励ましてくれるが、もうよかった。

 いたずらな風さえ起こせればいい。


「では準備も整いましたので、改めて出発しましょう!」


 リコちゃんが声をかけてくれた。

 ここから僕たちの壮大な物語が始まるわけだ。

 何が起こるかはわからない。

 まあ、たぶん、平和な旅になるんだろうけど、それはそれで楽しみだ。

 僕はリコちゃんに負けないくらい元気な声を張り上げる。


「よろしくね二人とも!」

「わたしからもよろしくねっ!」

「はい! では、まいりましょう!!」

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