第1部:第2章 集う主人公たち
忍者としての門出(1)
「ふわあああ、ねむう」
透きとおった青空のもと、本日何度目だろう。
気持ちのいい目覚めをむかえた。
「うーん、気持ちのいい天気だなあ……ほえ? ……ぼえええええええええええええええええ!?」
心地よい気分は天高い青空にぶっ飛んでいった。
僕は女の子に食べられて死んでしまったはずだ。
なのになんで生きてるの!?
「というかここはどこ! …………え?」
――――そんなことさえどうでもよくなってしまうような、信じがたい現実をつきつけられる。
「……なんで僕に手があるの? なんで足が……」
米にはないはずの手足が存在していた。指先にまで力がはいる。肌には弾力があり、つめはきっちりそろえられていた。
要するに、
「人間になってんじゃんひゃっはあああああああああ!! うううううううりいいいいいいいいいいいいい!!!」
超あげぽよおおおおおおおおおおお!!
宝くじで一等賞が当たったくらいの喜びを感じる。
いや当たったことはないけど!
「はっ、そうだ! 僕ってどんな顔なんだろ?」
都合のいいことに近くに川が流れていた。
さっと寄って水面に僕の姿を確認する。
映るのは黒髪センター分けのイケメン。どちらかといえばつり上がった目には独特の愛嬌が感じられる。瞳は黒く、毛先はすこし外側にはねていた。それに加え忍者っぽい服装だ。
キ、タ、コ、レ。
「僕ってイケメンだったんだやふうううっ!!」
もう一度水面を覗いてみる。
そこにはやはり爽やかなイケメンがいた。
「いええええええええええい……」
自分を抑えることができない。
そうだ、どーせなら米のときにはできなかったことをしよう!
「よーし深呼吸うう……からの……ぜんてん! そくてん! ロンダート!!」
体が華麗に宙を舞う。
そしてフィニッシュの……。
「括目せよ! これが全米が涙した……ばくてんだああああ(ボキィッ)ああううええええええ!!?」
……アカン。これアカンやつ。
着地に失敗した僕は、腰に異常な痛みを感じた。力が入らない。
「うううう、せっかく人間になれて自由になったのに……」
動けなくなったんじゃ、今までと一緒じゃないか……。
そのときだ。
「あの、だいじょうぶですかっ……?」
なっ、女の子の声!?
まずい、恥ずかしいところを見られた!
穴があったらいれたい(意味深)……あっ、じゃなくて入りたい。
ん!?
って女の子!? 僕以外に誰かいたの!?
ビックリマークだらけで申し訳がないが、それほどまでに僕は動揺していた。
瞬時に声のしたほうへ顔をやる。
そこにはナース姿の、すこしウエーブのかかった紅色ロングヘアーの子がいた。 見た人すべてを癒すような瞳に桜色がかった頬。
身長は低く全体的にまるっとしているが、その……強調されているところはしっかりされている。
女の子らしい女の子だった。
「君はいったい……。どうしてこんなところにいるの?」
「さっぱりわからないんですっ……。気がつけばここにいましたしっ」
そうだよね、たぶん僕と同じような境遇なんだし、わかるはずもない。
現状は右も左もさっぱりといった感じだ。
女の子もうつむいて何をいっていいか戸惑っていた。
とりあえず自己紹介でもしとこうかな。
「わからないことを考えても仕方がないし、とりあえず置いておこうか。自己紹介するね! 僕の名前は…………あれ?」
ここにきて衝撃の事実が発覚。
自分の名前を知らないという。
なんと……。
「どうしよ……」
「……ウシオ……くんってお名前ですかっ?」
「ほえ?」
あっ、もしかして、
『どうしよ』が『うしお』って聞こえたのかな?
まあこの際だしそれでいいかな……?
僕は、ウシオ。
「うん、僕はウシオっていうんだ。信じられないかもしれないけどお米だったんだ。というか現実離れしすぎちゃってよくわからないけどね。君の名前は?」
「わたしはイネですっ。実はわたしもお米でしたっ!」
へえ、イネちゃんって名前なんだ。
しかも、僕と同じ米だったなんて。
「イッちゃん、よろしくね!」
「イッちゃん?」
「うん、だってそっちのほうが呼びやすいから!」
「なるほど……こちらこそよろしくおねがいしますねっ、コーくん!」
「……ん、なぜにコーくん? ウシオとは関係ないんじゃ?」
「わたしにもわからないんですけど、なぜかそんな感じがして。……いやでしたかっ?」
「ううん、そんなことない! それでいこう!」
「はい! よろしくお願いしますっ!」
にこっと、太陽のような笑顔を浮かべるイッちゃん。
ああ、まぶしくてかわいい。
……それにしてもコーくんか。
前世とかがあれば、そんな感じの名前だったのかなあ。
まあ、気にしたってしょうがないし、今やるべきことに目をむけるか!
……とはいっても……。
「これからどうしようか」
「そうですね、ここがどこかもわかりませんし……」
「そっ、それに関しては問題ございましぇ……せん!」
「ん?」
ふと、前方から元気の良い……しかし、どこか緊張している声が聞こえてきた。まるで小学生がクラスで作文を発表しているような感じだった。
声の主を探すとそこには、金髪ショートヘアーでバスガイドのような服装をした、小さな女の子が顔を真っ赤にさせていた。
二つ結びをしているところが子供っぽくて可愛らしい。
「ええっと……?」
混乱する僕らに、女の子は胸を張って答えた。
「あたしはこの世界の案内人の一人、リコともうします! これからあなた方の旅路をサポートさせていただきます! ふつつかものではありますがよろしくお願いします!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます