カード・トリック5(不正割勘)

@stdnt

第1話

ジョーカーを除く52枚のトランプを

マーク・数字ともに順番に整列させて準備します。

それを26枚ずつの半分にして、二つの山(A,B)とします。


今度はAの山から一枚、Bの山から一枚・・・と交互に重ねて

シャッフルしていきます。

(Aの山を左手に、Bの山を右手に持って、手でそれぞれの山を弓なりに反らせて、

パラパラと交互にはじいて重ねるやつです。リフルシャッフルといいます。

最後は重なったものをまとめて持って、

両手でサラサラと揃えていくとスマートです。)


この作業を八回繰り返すと、シャッフルしたはずのトランプの順番が、

最初に整列させた順番に戻っています。

(この手法をパーフェクトシャッフルといいます。)


トランプが52枚の時は八回ですが、

トランプが8枚の時は三回で元の順番に戻ります。

仕組みの概念図は以下。


12345678

    ↓

15263748

    ↓

13572468

    ↓

12345678


数字の入れ替わりが2→5→3と三回で一周してもとに戻る

(4→6→7も同様)

というのが種です。(「巡回置換」という置換の一種です。)


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「軽く、寿司でもつまみに行こうぜ」

八百屋のヨシさんは商店街の悪友のカズさんに誘われた。

時間は午後3時。

「今から寿司?」

ヨシさんは聞いた。


「おやつがわりにいいじゃないか。

それに、寿司ってのは、ちょっとだけつまんでさっと出るのが粋なんだぜ。」

カズさんはいう。


「ふうん。なら行くか。でも、ちょっとなら、奢ってくれるんだろ。」

ヨシさんは聞いたが、カズさん、

「ばかばか。なんで奢りなんだよ。割勘に決まってるだろ。」

といってさっさと歩いて行ってしまう。

しかたなくヨシさんはついて行った。


午後3時の回転寿司はがらんとしていた。

客がひとりもいない。

並んで座って、手もみしながらお茶をすする。


「おやおや。貸し切り状態じゃないか。こいつはいい。」

回転レーンにもネタが乗っていなかった。

「ヨシさん、好きなように注文できるぜ。」

そう言ってから、カズさんは勝手に注文をはじめてしまった。

「おーい、注文頼むよ。まずは中トロ。お次、ウニ、イクラ、あなご。」

トシさんが見てる目の前で続けざまに注文していく。

「おやつがわりだから軽めにな。」

そう言って、

「かっぱ、かんぴょう、卵、ナットも頼むよ。」

と続けた。

おとなしいトシさんは見ているだけだ。

「こんなもんでいいだろう。」

カズさんは勝手に注文をおしまいにしてしまった。


しばらくして、注文したネタが、ゴトゴトとやってきた。

「きたぞきたぞ。うまそうだ。」

カズさんはまだまだ遠くのお皿に手を伸ばさんばかりだ。


「トシさんよ、おれは前半の4皿くうから、お前さんは後半をくいなよ。」

カズさんは先頭の中トロの皿に手を伸ばして言った。


これにはさすがのトシさんも抗議の様子だ。

「おいおい、ずるいぞ。

前半の4皿は中トロ、ウニ、イクラ、あなご、

後半の4皿はかっぱ、かんぴょう、卵、ナットじゃないか。

これで割勘じゃ割に合わない。」

どさくさに紛れてのカズさんのずるにトシさんは気が付いたのだ。


カズさんは伸ばしかけた手を引っ込めた。

「わりぃわりぃ。じゃ、こうしよう。

この店はな、職人が握ったネタが仮に偏った順番になっても

まんべんなく散らばるように、

一周ごとに機械がお皿を並べ替えてるんだ。

一周まってから、食べることにしようや。

それなら話もゆっくりできるというもんさ。」


そんなことしなくても、交互にとればいいじゃないか。

それに、さっと出るのが粋だと言っていたのはカズさんじゃないか。

トシさんは心の中でそう思ったのだが、結局はネタの皿を見送ることに。


見送られた8皿は厨房のコーナーで機械に入っていく。

機械に入った皿の列は、その数によらず前半と後半の2つに分けられ、

2つのレーンに振り分けられる。

そうして、機械の出口でそれぞれのレーンの皿を交互に入れて

1つのレーンに戻されるのだ。


一周まわって、ネタの皿が戻ってきた。

「な。ちゃんと散らばっただろ。」

カズさんはトシさんに指し示す。

そのとおり、順番はバラバラになっている。


手を伸ばしたトシさんを制して、カズさんが言う。

「おっとまった。もう少し散らばせようぜ。

その方が公平さが増すだろ。あと二周まってみようぜ。」

トシさんはあきれたが、カズさんは続ける。

「そんだけ待てば、お互い、文句はないだろ。

順番はだれも予想できないだろうし。」

平然をお茶をのみ、ガリをつついている。


結局、あと二周まって、やっとネタの皿が遠目に見えた。

「じゃ、今度こそ、俺は前半の4皿な。文句なしで割勘だぜ。」

まあいいか。トシさんはうなずく。


とろけるような良質の中トロ。

クリーミーでマイルドなウニ。

ぷちぷちと新鮮ないくら。

やわらかくハラハラとほぐれるあなご。


カズさんは前半の4皿を堪能し、満足げにげっぷをしてから、言った。

「おーい。こっち、おあいそ。割勘でな。」

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