第7話 目覚めてゆく化石たち。
「例えば、誰もいなくなったとしたら、月華はどうしたんだろうな。」
懐かしい声が、鼓膜を揺らす。意識がまどろむ。
「誰もって、倉魔さんもか?」
「あぁ、そしたら月華はどうするんだろうな。使者と戦うか、ここで静かに一人で暮らすか…それとも、月に帰るか。」
「さあな。それはきっと月華にだってわからないだろ。」
「そうかぁ?」
ああ、なんて聞き慣れた声。そう心の中で笑う。
「それにもう、戻ってきたんだ。」
「だけど、」
もう、起きたい。ああ、でもこれが夢だったらと思うと起きてしまいたくない。それに、このまどろみが心地良い。
「御二方、もう少しお静かに願えますか?月華様がお目覚めになってしまわれます。」
倉魔の言葉に、部屋は静寂に包まれる。覚醒しかけた意識が、また眠りの海に落ちようとする。
「…、」
それをなんとか阻止しようと寝返りを打つ。眠っている間にまた現実が変わっていることのないように。もう、この世界、この瞬間を手放したりはしないように。
「…倉魔さん、お茶おかわり。」
「俺も、」
「かしこまりました。」
小さく呟いた声が優しく鼓膜を揺らす。誰かの会話で眠りから覚めるのは、なんて嬉しいのだろうと不思議な気持ちで胸がいっぱいになる。
「……ぅ、」
うっすらと開いた目、ぼやけた視界には3人の人影。それは、きっと優しすぎる狼男と繊細すぎる吸血鬼、それから忠誠すぎる悪魔の3人。私が大好きで大切なこの館の唯一の住人たち。そして私が知っている数少ない生き物。
「起きたか月華。」
「やっとお目覚めか、月華。」
「月華様、おはようございます。お茶の支度が出来てますよ。」
覚醒しつつある意識を、たくさんの声が呼ぶ。
「……ん、」
目を開けてしまったら、もう戻れない。それでも構わない。例えば、これが夢なのなら現実にしてしまえば良い。何度だって見れば良い。微かに微笑みながら、目を開けた。眩しさに一瞬、目を細めた。それから……。
煌夜の空 霜月 風雅 @chalice
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