第3話 空白に浮かぶ翡翠の瞳。
「朱也は、良いわね。」
月華はそう呟いて、桜色の唇を小さく尖らせた。外見と同じ子供のような仕種に倉魔は、小さく咳ばらいをした。
「そんなこといったら、勇牙だってだぜ?月華。」
「俺は別に好きで出歩いているわけじゃない。」
ティーカップを傾けながら、朱也が言った言葉に勇牙は形のいい眉を寄せて、抗議した。
「けど、色んな出会いがあるんでしょう?ねぇ、人間ってどんな様子?」
月華は興味津々で机に身を乗り出す。それを見てまた倉魔が咳ばらいをする。しかしそんなこと月華は全く気にも止めないでキラキラと瞳を光らせて朱也と勇牙を見ている。倉魔もそれを承知してはいなくとも、口元に笑みが浮かんでしまう。
「そうだなあ。どんなって言われても…なあ?」
朱也が小さく笑い、隣に座る勇牙へと尋ねる。
「俺が知っている訳ないだろう。自分を見失わないようにするので精一杯だ。」
「だよなあ。俺も、血が美味いってことはわかってんだけど。様子は…」
はっきりとしない2人の言葉を聞き月華はため息をついた。何のために飼ってやっているの、喉元まで出かかった言葉を倉魔に目で征されて何とか飲み込んだ。
「まあ、でも月華は会わない方が良いぜ。」
「どうして?どんな姿でどんな風に話すのか聞いてみたいわ。」
「うーん、」
朱也は、困ったようにがしがしと頭を掻いた後小さくため息をついた。
「なんとかしてくれよ、倉魔さん。」
「はあ。」
形の良い眉を寄せて倉魔は、ため息とも返事ともとれる声を漏らした。それから、月華の座る椅子の菫が描かれた背もたれに手をかけた。
「月華様、そろそろお休みの時間ですよ。」
「えー、嫌よ。私まだお茶を飲んでいたいわ。」
しかし倉魔は、月華の前にあったティーカップに視線を移し、尋ねる。
「空のお茶をですか?」
黙ってやりとりを聞いていた朱也が声を出して笑う。勇牙までもが、小さく肩を震わせた。
「もう!何よ、2人とも!わかった。わかったわ。もう寝るわ。倉魔!」
月華は、ひとしきり不満を口にしたのち勇牙の飲みかけのお茶が零れるほどの勢いで席を立った。
「じゃーな。良い夢見ろよ。」「早く寝ろよ。」
手をふる2人に不満そうな視線を当てた後月華は小さくおやすみ。と呟いて倉魔に続き部屋を出て行った。
「オヤスミ、お姫様。」
後に残された2人は、そう呟いて残ったお茶を飲み干した。夜の雫を飲み干すように。
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