第6話 不思議の国のアリス~お茶会~

「君名前は?」

「アリス・クロシア」

「アリスか、僕は、スノー・モーントル」

「いい名前だね」

「ありがとう、わぁ!?もうこんな時間!走らないと!」

「えっちょっと待ってよ!」


スノーを必死に追いかけるけど早くてなかなか追い付かない。


「スノー!待って!」


呼び止めても聞こえてないのか、どんどん距離が離れていく。

数分後にはスノーの姿が見えなくなってしまった。


「はぁ…はぁ…スノー、早すぎ」


息を切らしながらそう呟く。


「どうしよう、ここ何処なんだろう…」


途方にくれてると近くから楽しそうな声が聞こえた。声のする方に行って見ると

白いテーブルクロスを掛けた大きくて長いテーブルの上にクッキーやカップケーキ、ティーポットにティーカップがあって、大きな帽子をかぶった人とスノーとは違って茶色の耳としっぽが生えてるウサギがいた。


「いや~、この紅茶は美味しいな~!」

「そりゃ~、あの婦人からの頂き物だしな」 

「あ、そこのクラッカーくれないかい?このジャムとよく合うんだよ!」

「はいはい」

「何をしているの?」


大きな帽子をかぶった人はこっちを見ると嬉しそうな笑みを浮かべる。


「おや、これは珍しいお客さんだ、私はマッド・ハッターさ!」

「俺は三月ウサギのナッツ・クレッセントだ」

「僕は、アリス・クロシアです。これはなんのお茶会なの?」

「これは誕生日の日じゃない日を祝ってるのさ」

「誕生日じゃない日を祝うなんておかしいよ」

「そうかい?別に誕生日じゃない日を祝ったってバチは当たらないだろ?」

「そうだけど、お仕事はどうするの?」

「仕事は出来ないんだよ…」


少し悲しそうな顔をするマッドさん。

シュンとしているマッドさんの代わりにナッツさんが話してくれる。


「王様の怒りを買ったからずっとお茶会をしないといけねぇんだ」

「なんでそんなこと…」

「ある日、王様に自慢の歌を披露したんだけど、王様はお気に召さなかったみたいでね…」

「歌を歌っただけで…」

「王様の命令は絶対だからね」

「でも優しいほうだよな」

「え?」


ずっとお茶会をしないといけないのに優しい方なの?


「そうだよ、首はねられなかったからね」

「え!殺されるの?!」

「あぁ、いつもならその場で首をはねられるんだ」

「なんでそんな人が王様なの!?」

「以前の王様の跡継ぎだったからね」


現実ではあり得ないようなことがこの国では許されてるんだ。

子供ながら分かる。

間違ってることだって。


「悪かったね、こんな話をしてしまって、さぁ楽しいティータイムを再開しよう」


優しそうな笑みを浮かべながら、僕にティーカップを渡してくれた。


「何飲む?ローズティーに、ハーブティー、ケーキやクッキーもあるぞ?」


楽しそうに聞いてくるウサギのナッツさん。


「僕はミルクティーが飲みたいな」

「ミルクティーだな。それならー…あれ?」

ナッツさんはテーブルをテーブルをキョロキョロ見渡して何かを探してる。


「なあ、そっちにアールグレイの茶葉ないか?」

「アールグレイ!あれはミルクティーに最適なんだよ!えーと…あっ、あった!

ナッツに渡してくれるかい」

「うん!」


マッドさんから茶葉の入った缶を受け取って渡そうとした時


「チューゥ…」


缶の中から微かに何かの鳴き声がした。

気になって缶を覗き込むと


「チュウ〜…むにゃむにゃ…」


気持ちよさそうに寝ているネズミがいた。


「おや、眠りネズミだね」

「眠りネズミ?」

「テーブルの上に茶葉が入った缶を置いておくと勝手に入って寝るんだ、

だから眠りネズミって俺たちは呼んでる」

「缶の中で寝るなんて変なの」

「変?おかしなことを言うね。この世に存在している生き物は皆違うんだ。それを君の基準で変だなんて決めちゃいけないよ」


マッドさんは落ち着いた声でそう言う。


「ごめんなさい…」

「分かってくれればいいんだよ」


「寝てるところわりーがこの茶葉使いたいんだ」


そう言って眠りネズミを持ち上げてテーブルの上に置く。


「チュ…?チュ!?チュチュ!チュウー!!」


缶から出されたことに気づいた眠りネズミはナッツさんに怒ってるようだ。


「なんだよ、そんな怒って。寝てる所起こしたのは悪かったって」

「チュウ!チュチューー!!」

「は?起こしただけでそこまで言うか?大体お前が寝てるのがわる…あっ」


「チュ…」


ナッツさんの言葉によほどショックだったらしく固まってしまう。

「大丈夫…?」


僕がそう声をかけると


「チューーー!!!!」


突然大きな声で鳴いたと思ったらテーブルの上をすごい速さで駆け回り

カップやクッキーにぶつかって宙を舞う。


「俺が悪かった!だから落ち着けって!」

「眠りネズミさんどうしちゃったの!?」

「はは!ナッツの言葉に怒ったんだよ」

「笑ってる場合か!このままじゃお茶会が滅茶苦茶だ!

早いとこ鼻にジャムを塗らねーと!」

「ジャム?」

「眠りネズミは鼻にジャムを塗られると大人しくなるんだよ。」


なんで?と思いながら、とりあえずジャムが入った入れ物を探す。

いくつかの瓶を開けてジャムを見つけた。


「あった!」

「でかした!後はあいつを捕まえれば!」


ナッツさんは空のティーカップをひっくり返してテーブルの上を駆け回っている

眠りネズミをタイミングよく捕まえた。

急いでジャムを塗るとさっきの暴れようが嘘みたいに大人しくなった。

そしてまた眠そうに缶の中に入っていく。

数秒もすると、すぴー、すぴー、と眠りネズミのいびきが聞こえてきた。


「あははは!!!」


その様子を見ていた僕たちはおかしくて笑った。



少しして、ナッツさんがカップにアールグレイを注ぎ、

次に白いホットミルクを淹れた。

鮮やかな紅茶の色からミルクの白が加わり、

見慣れたミルクティー色に変わっていく。


それを飲むと、温かいミルクティーは口いっぱいに広がり、

体がポカポカしてきた。


「美味しいっ!」


それを聞いたマッドさん達は嬉しそうに笑って


「当然だろ、俺が入れたんだから」


はにかみながらナッツさんは僕の頭をくしゃくしゃ撫でてくる。

それにつられて僕も笑ってしまう。


「ナッツが淹れた紅茶は絶品なんだよ!」

「言い過ぎだろw」


そう嬉しそうに話すマッドさん。

でもナッツさんの方を見ると笑ってたのに一瞬悲しそうな顔が見えた気がした。


「ナッツさん…?」

「どした?おかわりか?」

「ううん、なんでもない!」




でも楽しい空間にいつまでもいるわけにはいかず、スノーのことをマッドさん達に話すと


「あぁ、あの白ウサギか、どうせ王様の所だろ」

「そうだろうね〜、今日は王様のパーティーがあるから」

「その王様のお城ってどこにあるんですか?」

「知らないのか?じゃあ、俺が案内してやるよ」

「ホント!?ありがとう!」

「な?いいだろ?マッド」

「仕方ないなぁー、すぐ戻って来てくれよ」

「あぁ、分かってるよ」


その時のナッツさんが怪しげな笑みを浮かべていたことに僕は気づかなかった。

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