第20話校閲犬
「ソロはこのシーンどう思う?」
ペラ
ここは男の表情が硬く伝わるだろうな。
あと女の方は手に何を持たされているんだ?
私は先任の校閲が退職したことで空きが出てしまった後を一時的にと主人に頭を下げられて仕方なく校閲の仕事を引き継いでいた。
_普通犬に頼むか?
例のシリーズが恋愛パートに入った矢先のことだった。
クミに頼めばいいじゃないかと言うと嫌がる主人の動物並みにウルウルした目を見て断われなくなってしまった。
シーンはアイシアの過去の恋愛遍歴に絡む。
ここで彼女がどんなトラウマを持っているかを説明し、アイシアの人となりをファンに伝えようという向きがあった。
そんなん犬にわかるか!
いや、すまない。
これも試練と思うことにしよう。
人間でもなかなか難しい人の心の動きを犬が精査しているとはまさかファンも思うまい。
謎の優越感が湧いてきた。
これを乗り越えれば私もより主人に近づけるのだろうか。
楽しみだった。
「ね?どうかな?」
それはそうと主人に最近尻尾が生えているように見えるのは気のせいだろうか?
いや、違うはずだ。
ミャウに引っかかれて痛がっていたところを見る限りでは。
まさか。
逆転し始めているのか?
まさかな?
ないないと首を振ったところで別の案件を思い出す。
なぁ?主人はなぜクミの誘いを断ったんだ?
私はついクミの影響で普通に口をきいてしまった。
「別に深い理由はないよ」
主人は原稿に顔を向けたまま上から生えた耳をぴくぴくさせて言った。
_長く一緒に過ごすことで自分も犬化してきたんだろうか?
なるワケがない。
そんなんで動物化してたら人間なんてとっくに絶滅している。
本当に深い理由はないのか?
自ら脱いだ彼女の服を閉じたクセにか?
「まだなんだよ。まだしちゃダメなんだ」
作品のリアリティはリアルには存在しないんだ。
何だって?
「あぁだから生身を知ると想像の世界のものとの誤差が生じてしまうんだよ」
余計わからん。
いつもイニシアチブはアンリアルにないといけないんだよ。
わからんて!
わかるように説明してくれ。
「あぁ、、だからえっと、、」
頑張れ伝記作家。
世界に名を馳せた次は犬にも伝わる作家だ!
「生身を知るとそれが優先的に出てきちゃうから」
あぁ、つまり間接的にクミの体を刻銘に語ることになり人にクミを見せびらかしているような錯覚に陥るというのだな。
「うん。それにボクも恥ずかしいし」
大の大人が何を言う。
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