第18話村娘アイシア
そもそも現実においてアイシアはただの村娘だ。
特徴的なところなどないただの。
主人はそういうモブが活躍する場面をしばしば作りたがる。
一度それはなぜかと聞いてみた。
_そういう人でも活躍できるんだと思って希望を持ってもらうためだよ。
書きながら主人はそういうので、
そういう無駄な希望を持っては怪我の元ではないのか?と私が聞いたら、だからやっちゃダメってことにはならないだろ?と主人は言った。
???
時々だが私には主人の言っている意味がわからなくなる。
もしかしたらこれが動物と人間の境界なのかもしれない。
主人はそこいらのことは割り切っているらしく、私を嗜めたりはしない。
_でも。
私はわかりあえないことが苦しかった。
ハッキリと。
だから時々主人に黙って書斎の本を盗み、
その本を隠れて読んでいた。
この間クミがわからないと言っていたスマホ用プログラミングの本もそうだ。
殆どの犬は主人のマネをしているだけだろうが、私は違っていた。
もっと主人と会話がしたい。
そう思って止まなかった。
作中のアイシアもまさにそういうキャラづけだったのだ。
私は読み進める。
どうしてもわかり合いたい女皇騎士アイシアと勇者の出会い。
そしてすれ違い。
彼女は騎士として前線で戦い、しかし敗れてしまった。
敗れた彼女を勇者は労ってしまい、それが私の胸にもぐっときた。
「姫はここを離れて下さい!」
ズキッ
まるで戦場に出たのが間違いのように振る舞われ、
だが、勇者にその意図はなく、
「すまない」
傷ついたアイシアはその顔を隠すようにして引き下がるのだった。
以降アイシアと勇者の間には亀裂が入り再び話すことも少なくなっていった。
だが、そのことに勇者が気づくことはなかった。
そんな時にあの敵が現れ、そこを見抜かれて術をかけられたが、、
という展開だった。
思わずアイシアを庇う勇者。
それをアイシアは、
「どうして!」
どうして、、か。
やっぱりキミには届いてなかったんだね。
その言葉が勇者の人としての最後の言葉になってしまった。
何泣いてるんですか?先輩。
気にするな。
どうしてもわかりあえない二人へのわかりみは深い。
どうやら主人はこの物語を通して私を知ろうとしているらしい。
それを思うと涙が滲んできた。
_これは嬉しいのか悲しいのかわからなくなった涙だな。
「嬉しいクセに」
ちゃんと喜びなよ?喜べる時には。
そうだな。
久しぶりに遠吠えでもしてみるか。
「ワォォォン!」
「ミャォォン!」
コラ、張り合うな。
ミャウには関係ないだろ。
ウル
あ、いや、そんな泣くなよ?
いえ、私は嬉しいんです。
泣けちゃうくらいに!
一緒に吠えてわかった気がします。
先輩の主人に対する想いが!
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