第7話ソロリック・エデューソンA

 私の名前はソロ。

 ソロリック・エデューソンだ。


 この名前は主人の祖父に由来するらしい。

 その人は主人にとって尊敬する人で、一代でこのエデューソン家を盛り立てた人だというのだ。

「だーれだ?」


コラッ


 人が語り入れてる時に何をする!

 そういうのは主人にしてやれ!


「キミの主人は今忙しい」


 見ればまたセリフを読み上げていた。


 参加してくればいいじゃないか。

「するとキミが淋しい」

 それくらい何とでもする!

 構うことはないいってこい!


「ホントに?」

 一歩だけ離れるとちょっとだけこっちをチラ見する。


 もう一歩、


 もういいからいってこい!

「そんなに怒んないでよ?ちょっとしたお茶目じゃん」

 わかった。


「そんなこと言うな!」


 ひ!

 なんだ。セリフか。

 主人に怒られたとばかり、、

「うぅん。ここはこうじゃないな」


「どれどれ」

 頭を抱えて書きあぐねる主人の原稿を覗き込むクミ。

「え?わ」

 主人の角度からだとたぶんアレは見えたな。


 え?何とは言わないけど服の下に着るんでしょ?


 上半分の。


 これ以上言わせるな。私の担当じゃない。

「これちゃんとプロット書いてる?」

「プロット?」

 何で知らないのよ。

 その通りだ。


 主人はなかなかの××だが、あれでも作家なのだ。

 しかもエデューソン家を支える程度には売れている、、らしい。


 売り上げとかはこのアトリエにいればわかる。

 そもそもこのアトリエは主人持ちだ。

 ログハウス風の出で立ちで森の中にひっそり佇んでいる。

 そして賞状の数も多く、時々ここまで取材がくる。


 最初にも言ったが、なかなかの山奥だ。

 簡単に人が来れる場所ではない。


 ではなぜクミが来れるかというと、

「それが仕上がったら表へ出ろ!」

 デートするぞ!

 だそうだ。

 要するに愛があれば山くらいは何でもないらしい。

_羨ましいことで。


 取材陣はまぁ仕事だし、何とかしてきてるんでしょ。


 ところで山の最奥で表と言われても、


 街へ行くに決まってるでしょ?

「いいけどすぐは無理だよ?」

「わかってる。それまで一緒にいる」

 げ。

「ソロ?何嫌なの?」


 別に嫌なワケではない。

 ないがやり辛いなと思って、、

「じゃあ、外出る?」

 私がか?

「だってせっかくの二人きりを実況されても困るし」


 あぁたしかにそうだな。

 私もそう思うよ。

 では主人が書き終わったら呼んでくれ。



 突然家を出ていくことになった私は久しぶりに一人で山道を散歩する。


 そうだ。

 先ほど話しかけていた、祖父の話をしよう。

 先代ソロリック・エデューソン氏は、、家を売る仕事をしていたらしい。


 そういう仕事を何というかはわからない。

 あまり私も祖父の話は聞かないもので、情報が乏しい。 


ザクザク


 この辺りは土が湿っていて歩きづらいな。


 あとで主人に何か持って帰るか。



 その仕事がうまくいったらしく主人の実家は今大きな犬小屋、、じゃないや、大きな屋敷になっていた。


 現在の持ち主は主人の母親になっている。

 父親は数年前に他界し、翌年祖父も他界、

その後主人は私を拾った。

_この違和感、、もしかして。

 主人の母親が手引きしているのではないかと私は考えていた。


 喜び勇んで私に名前を付けようとするも母親にはたき落とされ、それでも私を拾い上げて主人は私に大好きな祖父の名前をつけた。


 自分が心から尊敬する人の名前を。

 その時は母親とひと悶着あったらしいが詳しい話は聞いていない。


_もしあのメスがその母親の手先ならば。


 いや、はっきりしないことを今はよそう。


「ソロ!どこいったの?」


 迎えがきた。


「クミちゃん待ってよ」

 ほら早く。


 あれでもソロは犬なんだから外なんか出したらすぐどっか行っちゃうよ?

 私を何だと思っているんだ。

 出したのはお前だろう?

「わんわん」


 私はできるだけ大きな声を出して走って行った。


バンッ


 遠くで銃声がした。


 私は焦りトップスピードで主人に急ぐ!


「今の銃声は!?ソロ!」

 二人が声を合わせて走ってくる。


 しかし、どこで道を間違えたのか、全然出会えない。


 私も焦っていた。


 匂いを辿れるのを忘れる程度には。


 二人も焦っていた。


 私と誰かを間違える程度には。

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