恋を知った魔女②

 帰ってくると、ぼふんっ、と私は制服のままベットにダイブし、ため息を落とす。


 今日––––––というか放課後––––––あった色々な“変なこと”だが、帰ってくる途中で、不思議なことに私の中で整理がついていたのだ。整理がついた、というよりは思い出した、という方が正しい気がする。


 私は鏡を掲げ、藤色になった瞳を見る。

 吸い込まれそうな、幻想的な藤色。


 ––––––魔女特有の、藤色の瞳。


 そう、私は魔女なのだ。隠していたとか、実は知っていたとかではない。

 


 魔女。

 魔女というのは、人間の突然変異的なものだ。血筋なんてものは関係ない。稀に魔力を持った女性が恋に落ちた瞬間、魔女になるのだ。

 魔女は、魔法が使え、そしてとなる。と言っても、条件付きだけれども。


 まず、魔法。生命を生き返らせる魔法は使えない。他の魔法は、割となんでも使えるみたいだ。

 次に、不老不死。思い人と両想いになり、その人が死ぬと、魔女も死ぬ。それ以外では死なない。何が何でもだ。

 体がバラバラになっても、腹が減っても、酸素がなくても。世界が滅亡したって死なないだろう。


 魔女は恋に生かされて、恋に殺される。

 魔女は恋に狂う。恋愛至上主義だ。


 軽く、笑える。


 そんなことを思い出して、可笑しくなってしまった私は、魔法なんて、使えるわけない。なんて面白半分で、鏡よ浮かべと念じる。

 すると、ふよふよと鏡が自分の力で浮いた。


「……だよね」


 驚きよりも、やはりと言う感情が勝る。だって、心のどこかではちゃんと自覚しているのだ。


 –––––––––––私はまぎれもない魔女であることを。


「魔女、ねぇ」


 夢に見たファンタジーが現実になって嬉しい、的な気持ちになれるほど、私は馬鹿でも天然でもない。

 魔法を使えることはまだいいが、他諸々のシステムが辛い。


 条件付きの不老不死。

 恋に狂う。


「ばっかじゃないの」


 どうしてこう、都合の悪い条件を沢山つけるのか。

 永遠の命も、恋に生きることも私は望んでいない。


 はあ、と静かな部屋に溜息だけが響く。


「しかも、友達の彼氏を好きになるなんてなぁ」


 しかも、一目惚れで。

 最低というか、尻軽にもほどがある。


 でも、気づいたら目を奪われてて。

 好きだなぁ、と感じてしまって。

 何から何まで独占したいなぁ、なんて。


 恋が私を狂わせる。

 私が私じゃないみたいだ。


「奪ってやりたいなんて、思っちゃってるよ……!」


 ぼふっ、と枕に顔を沈める。


 最低だ最低だ最低だ最低だ。

 そう思うけれど、やはり奪って私の、私だけのものにしたい。純粋な、独占欲。


「……大丈夫、今ならまだ大丈夫」


 大丈夫、大丈夫、大丈夫。


 だってまだ、英梨のこと大切だ。

 英梨を悲しませたくない。

 英梨のことだって好きだ、友情の意味で。


「今回はまだ、大丈夫」


 嫌な考えを消すために、私は目を瞑った。


 –––––––––今日のことは全て、夢でありますように。


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