第4話 道場拳法と大学日本拳法

 ○ 帰納と演繹


 道場拳法とは、トップダウンであり、演繹法であり、技術・テクニック優先。

 大学日本拳法とは、ボトムアップであり、帰納法であり、根性・ガッツ・チームワーク優先。


 道場というのは、早く成果を出さないと経営が成り立たない。

 少しでも早く生徒に(勝つ)技術を教え込み、様々な試合・大会で何らかの成果を出さないと、生徒の親御さんが満足しない。日本拳法で強くなれないなら、テッコンドーや空手、キックボクシングや少林寺にしようかなどと考える。

 特に小中学生の親というのは、自分の子供の強いところを早く見たい、道場に通わせた成果を知りたいものでしょう。


 それだからこそ、道場に通う子供(生徒)とは、技術的に沢山のことを毎回教えられる。なにしろ、一週間に何回と時間が限られているから、先生も生徒も、とにかく速成栽培をめざす。


 「無理・無駄」のない稽古。いわば、ビタミンCを野菜や果物から摂るのではなく、錠剤や粉末をガンガン飲むようなもの。


 一方で、大学日本拳法とは、みんなでガヤガヤやりながら、なんでこんなことやらなきゃいけないんだ、なんてバカバカしいトレーニングをやりながら、自分自身で自分に足りないもの、劣っていることを感じ、発見し、自分でそれを矯正していく。


 そういう自己哲学のプロセスが、そのまま学校の勉強や社会人になってからの会社での身の処し方、果ては自分の人生というロングレンジの生き方にも影響を及ぼす。自分で学び自分で自分の法則・定理を見つけ出す(帰納法)。

 更に大学の監督やコーチ、先輩やOBから定理公式を教えてもらう(演繹)ということが上手く機能できれば、これは最高でしょう。



 もちろん、大学で帰納し、外部の道場に通って足りない部分を教えてもらう、ということもありでしょう。40年前には五反田に良い道場があって、立正や立教の学生がそこで実践的な技術を教えてもらい、強い人が沢山輩出したという事実もある。




○ パンチ力

 子供の時から日本拳法を(道場で)やっていた人と、大学になってから始めた人との最大のちがいは「パンチ力」でしょう。


 子供の時からやっている人は、男でも女でも「人をぶん殴る」という、いってみれば暴力的・破壊的・非情な殴り方ができる。(防具を着用した)人を殴り慣れているから。


 一方、大学から始めた人のパンチというのは、形だけは突きや蹴りという攻撃ではあるが、そこには「この野郎、ぶん殴ってやる」という意気込みがない。淡々と殴ったり蹴ったりしているだけだ。

 私のように、子供の時からある程度の殴り合いをしていた者は、「殴る」という行為に慣れているから、思いっきり・情け容赦なく・本気で人をぶん殴れる。

 だから、同期で一番早く私が、即戦力として(メンバー不足と言うこともあったのですが)大会で参戦できた。


 殴り慣れていないから、パンチに迫力がない。

 大学に入る前と後から日本拳法を始めた人との第一の差はここにあるのではないでしょうか。

 しかし、これを乗り越えるのはそれほど難しくない。

 毎日、(防具)練習が終わってから、15~30分、壁に掛けたサンドバッグを(パンチンググローブで拳を保護して)思いっきり、憎しみ・怒りを込めて殴るのです。

 10分も殴っているうちに、次第に無心になってくる。

 そうなると、最も良い形でパンチが打てるようになってくる。自然な殴り方(打ち方)になる。

 私は半年間の休学から復帰してから、毎日、これをやることで、(人をぶん殴る)感覚を取り戻すことができました。


 私たちの道場は剣道場を借りていたので、日本拳法部の練習が終わると剣道部が練習するため、、いつも15分程度しか時間がなかったのですが、それでも、2時間の練習(うち、防具は1時間)が終わってヘトヘトになった後の15分の打ち込みというのは、非常に良かったと思っています。

 精根尽き果てて疲れまくったあとですから、無駄な動きがなくなる。素直に打つようになるので、良い形が自然とできあがるのです。最高の形とは、人からとやかく言われるよりも、自分の内からそういう形になることが一番です。


 この積極的な練習を、私は2年生(ダブったので1年生)の前半だけで止めてしまったのが、ひとつには私がそれ以上、私の拳法が進化しなかった理由だと思っています。


 ホームラン王の王貞治氏は、現役時代には毎晩、寝る前に何百回だかの素振りを欠かさなかったといいます。




○ 前拳の使い方

 道場で長く日本拳法をやってこられた方というのは、前拳の使い方が非常に上手い(人が多い)。


 明治大学OBの中栄氏などその最たる人でしょう。

 明治大学のHPでこの方の現役時代の試合を見ると、前拳だけで一本取ったりしているくらい、前拳が強く、良い間合いとタイミングで相手の拳を殺している。)


 関大の上垣内氏も巧妙な前拳によってその懐が非常に深くなっている。

 だから、結構攻撃力のある人でも、攻めあぐねてしまう。


 大学から日本拳法を始められた方は、先ず諸々の基本を習得されるのでしょうが、後拳の正確さと威力の増強ばかりでなく、前拳の使い方も徐々に意識して練習されるとよいでしょう。


2019年6月15日

平栗雅人






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終わりの始まり V1.1  2019年6月12日 @MasatoHiraguri

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