第10話 ロアンの秘密

「ソフィア、仮面舞踏会にいくの?面白そうだね。」


 城でのんびりと思っていたのに、いろいろな催しに参加しなければならない。


「アルバート、申し訳ないが頼みがある。実はここ一週間ばかり、あちこちの夜会で身元の知れない美女が出没するらしいんだ。特に害はないが誰も身元を知らないのと、とっても美しくて惑わされる男が続出するとかでまた呪いの何かだといけないから父上がアルバートに調査して欲しいと。」


 王様、人使いが荒いな。まあ、ソフィアと夜会なら楽しいからいいか。


「そういえば最近ロアンに会わないけど。」


「願いで手に入れた魔力で何かやってるんだろう。暇な時だし、たまには好きにさせてやろう。」



 今夜の夜会の会場は某侯爵家。

 ドレスアップしたソフィアをエスコートするのは僕。


「いつもエスコートはロアンがしていたから、アルバートにエスコートされるのは気恥ずかしいな。」


 ふと不安がよぎる。


「ロアンはソフィアが好きだったのではありませんか?」


「いや、それはないな。」


 ズバリと断言する。なんでそんなに確信を持っているんだろう。


「ああ、ロアンには好きな方がいるのですか。」


「いいや、私が知っている限りではいないはずだ。」


「???忠義に厚いの?」


 仮面をつけていてもプラチナブロンドの髪と水色の瞳でソフィアとわかる人たちから一通り挨拶を受け、一曲踊る。

 すぐにソフィアに庭に連れ出される。


「会場にはそれらしき美女はいなかった。アルバート、二手に分かれて謎の美女を探そう。」


「もう少し二人で踊りたかったのに。」


「この件が片付いたら好きなだけ踊ってあげるから!」


「わあい、絶対ですよ。」


 庭をあちこち歩くうちに噴水のところで一組のカップルが揉めている。

 こっそり近づくが、女の人の顔は後ろ向きで見えない。

 男の人は仮面をしているがなかなかのイケメンそうだ。


「お名前を教えて下さい。」


「聞かない約束でしたわ。」


「あなたにまたお目にかかりたいのです。」


「一夜だけと最初にそう申し上げたはずです。」


「お願いです!」


 男の人は女の人をつかまえようとする。

 女の人は踵を返すと僕のいる方に走ってきた。

 仮面をしているが、銀髪で銀の目。僕はとっさに彼女の手を取って逃げた。

 木の陰に彼女を隠して覆いかぶさる。上手いことくことができた。

 僕は彼女を見つめる。

 この目、知っている。いつも僕のことを見守っていてくれたあの目と同じ……。


「あの、もしかしてロアンのお姉さんですか?アルバートと申します。いつもロアンにはお世話になっています。」


 そこへソフィアが走ってくる。


「アルバート、謎の美女を、……お前、ロアンか!!」


「え――っっ本人?!でも、ドレスからちょっと見えてる胸、本物だよ?姉妹じゃないの?」


「ロアン本人だ!私の目はごまかせないよ。どういうことだ、言え!」


 ソフィアはものすごく怒っている。

 ロアンを絞め殺しそうな勢いだったので、慌てて止める。

 ロアンは観念したように話し出す。


「申しておりませんでしたが実は私、体は男で心は乙女なのです。」


 僕は驚いてソフィアを見る。ソフィアは知っていたようで落ち着いている。


「洞窟で自分の欲望を願っていいと聞いて、魔力よりも女性になれたらと思いました。姫様のことはアルバート様にお任せすればよくなりましたので。しかし、完全に女性になるには私には払いきれない代償を負わなくてはならず、日没から日の出までを女性に、日の出から日没までは今まで通り男にしてもらったのです。」


「何を失うことになった、ロアン。」


「寿命を25年。完全な女性になるには50年分の寿命が短くなるそうです。私、現在30歳ですので、そうなると明日をもしれぬ命になってしまうのです。だから半分だけ……。でも、いいのです。残りの人生を昼間はロアンとして姫様に仕え、夜はロアーナとして着飾り、恋のアバンチュールを楽しみたいのです。」


「ああ、うかつだった。知っていたなら全力で止めたのに。しかし決まってしまったことだ、ロアンがそれでいいならいまさら何も言うまい。でも、寿命が25年も短くなってしまうなんて。」


 ソフィアは寂しそうに言った。こんな短時間で理解し合えるなんて……。

 僕はまだ混乱している。

 ロアン……僕にはまだ理解しきれていないが、とにかく彼(彼女?)がソフィアのことを好きじゃなくって、よかった。

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