第9話 三つの願い

「願いを言う前に、あなたの名前を教えてくれないか。」


 栗色の髪と目の女の子が静かに答える。


「アリシアといいます。」


「ではアリシア、願いを叶えてください。ロアン、願って。」


「自分の欲望なので、内緒でお願いしてもよろしいですか?」


 ロアンがおずおずと言う。


「かまわないよ。」


 ロアンはアリシアに何かを願い、彼女が何か言うのに頷く。


「一つ目の自分の欲望だけの願いは叶いました。二つ目は?」


「ソフィアと僕の住む国をこの先二十年間、水害や台風などの災害から守ってください。豊作を約束してしていただきたいのです。」


「いいでしょう。リスクを負えばもう少し長期間にできますが。」


「二十年の間に災害の対策を立てておきます。余り長い間何もないと、備える気にならなくなりますから。」


「わかりました、三つ目の自分に関係のない他人の願いは?」


 アリシアがソフィアを見つめる。ソフィアはアリシアに優しく微笑む。


「アリシア、あなたを縛っているものから自由にして欲しい。私にはわからないが、魔法がかかっているか呪われているだろう?すべてを無効にして自由になって……それが三つ目の願い。」


 アリシアの目が見開かれ、潤んだ後で涙がとめどなく流れ落ちる。


「やっとわかってくださる人が……。私は魔王にずっとここに縛られ、人の願いを聞いてきました。誰もが私を助けてくれることができたのに……。ありがとうございました。どうしてわかったのですか?」


「たまたまここに来る前に、時の止まった城に入ったんだ。玉座の王妃様があなたに似ていたのと、壁に三人の肖像画が掛かっていたけれど、城の中に王女様が見当たらなかったからもしかしてと思って。」


「リチャード殿も鍵になる物か人が戻れば、呪いは解けると言っていましたね。」


「はい、私が戻れば時は動きだすでしょう。本当に助かりました。」


「それにしてもアルバート、いい願いをした。私もうれしいよ。」


「結婚資金も魅力だったけど、リチャード殿がちゃんと領地を治めていたから僕だって。」


「なかなか願いが上手く決まらず、仲間同士で殺し合いがあったり、決められなくて私を脅して破滅したりした人たちがたくさんいましたが、本当に良かったです。結婚資金については私からのお礼として何とかしましょう。一緒に城まで来てくださいね。」


 僕だったら三番目の自分に関係ない、他人の願いって何を願うだろう。



 アリシアが城に戻ると時は再び動き出した。頂いた金貨の袋を抱えて無事ソフィアの城に戻る。

 王様自ら出迎えて下さる。


「よくやった、すばらしい!金貨のみならず、呪いを解いて隣国を救うとは!しかもこれから20年間豊作だと。アルバート殿は素晴らしい婿君だ。」


「ありがとうございます。」


「結婚の準備に数か月かかるがゆっくりと滞在してくれ。」

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