第7話 本物と偽物

「あなたは偽物ダミー……。騙されて、いや騙しているのか。」


「何をもってして本物で、何をもってして偽物というのかい?私はここの正当な領主、リチャードだよ。妻のエミリアと幸せに暮らして領地もちゃんと治めている。子供も三人生まれたしね。」

 

 金髪碧眼の超ダンディーな領主は僕をまっすぐに見つめて微笑んだ。

 隣には奥方がにこやかに寄り添っている。

 僕の言いたいことはわかっているのだろう。

 ここの金髪碧眼領主リチャードは、一番初めに沼に来たエミリア嬢に口づけされ、彼女と行ってしまったダミーの元カエル。


「誰だって幸せになりたいだけなんだ。そうしようとして何が悪い?自分だけがカエルにされた王子だとでも思っているのか。騙したの、騙されたの、心外なことを言わないでもらいたい。」


 目から鱗が落ちる!そんなふうに考えたことはなかった…。


「そうですね……。すみませんでした。」


「わかってくれればいい。ああ、あの蔦だらけの城のことは、私が来る前から時が止まっているらしい。なにか、鍵になる物か人があそこに戻れば呪いは解けると聞いたことがあるよ。」


 ないよりはマシな情報だ。


「姫様、らちがあきませんね。」


「アルバート、ここは先に進もう。」


「はい。」



 それから先は、何のトラブルもなく北の森の洞窟にたどり着いた。

 洞窟に入るのは翌日の朝にして、早めに野宿することにした。

 夕食後、ロアンが出してくれた毛布にくるまる。

 眠れない。『誰だって幸せになりたいだけ、そうしようとして何が悪い。』

 金髪碧眼領主リチャードの言葉が心に重くのしかかる。

 あの夫婦は幸せそうだったな。はぁ。


「アルバート、眠れない?」


「ソフィア、いえ、少し緊張しているだけです。」


「大丈夫、きっと上手くいく。」


 ソフィアは微笑みながら手を伸ばし、僕の顔にかかっていた前髪を払った。

 僕とソフィアは幸せになれるのか。

 僕は目をつぶって、ゆっくりと眠りに落ちた。



 翌日、目が覚めると頭はスッキリしていた。

 今は洞窟内の金銀財宝で国の財政を立て直すのが一番だ。

 よし、行こう。でも、ドキドキする。


「呪いの洞窟って、何が呪われてるのかなあ。眠ったり、カエルになったらどうしよう。」


「呪いが発動した時、そこにいなければ巻き込まれることはないと思います。まぁ、入ってみればわかりますよ。行きましょう。」

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