第4話

一番困ったのは、通学帰りの道筋にあるので、友達をよく連れて来ること。そして遅くまで喋ること。私は寝るのは早い。途中目覚めると、眠れない悪い癖がある。

もう一つは電気、水道の使い方が半端ではないのである。階下は扇風機で我慢なのに、2階はクーラーがガンガン。朝からシャワー、入浴は毎日。家主でもガス代を考えて二日に一回にしているのにお構いなしである。

金銭のことはさすがに言い出せなかった。この歳である。相手が社会人ならともかく、学生さんである。ケチくさい思われたくない。いいカッコをして、途中でパンクする。私の悪い癖である。


いくら使っても3万円になることはないと大らかにもなれない。3万円は僅かな年金暮らしの助け、余裕になると計算していたのである。要は、私はやはりケチくさいのである。気になり出すと、毎日のことである。

華やいで寂しくはなくなったのであるが、やはり一人暮らしに慣れきっていたのだろう。卒業まであと半年と考えたが、我慢がきかなくなった。やはり最初に細かいことは決めておくべきであった。とは半分、実際を告白しょう。何より、自分の人格の自信がぐらつき出したのである。絵を描くために2階に上がると、風通しをよくするためだろう、ドアーが半開きである。休みの日など昼寝姿を垣間見ると…。


どう言おう。そうだ妻が帰って来ることにしよう。公共料金の負担を言えばいいことを、自分の人格に半年の我慢を強いればいいことを、何と私は卑怯だろう。

「良かったね、おじさん。捨てられなくて」と言って、すんなり出て行った。彼女は言葉通りの意味で言ったのだろうが、私にはなんだか彼女の捨て台詞に聞こえた。


それから、2年ほどした頃、テレビで彼女によく似た女優を見るようになったのである。まさかと思った。駅前で、たまに家に来ていた彼女の友達に会ったのでそれを聞いてみた。

「ええ、彼女ですよ。卒業の年に三宮でスカウトされたみたいですよ」と、その友人は答えた。何と言っていいのか、私は複雑な思いにかられた。ともかく、複雑だったのである。


そんな彼女がテレビにあまり姿を見せなくなった。美しいだけではやっていけるほど甘い世界ではない。そう思っていた。1年後ぐらいからその天然キャラと、政治に対する適確な論評でワイドショウーのコメンテーターとして蘇ったのである。

政治評論家が言えば過激になる見解でも、タレントの彼女が言うと過激でもなくなる。本当は評論家が辛口を言うべきで、逆転しておかしいのだが、専門家と言うのは周りを斟酌して、慎重な意見になるきらいがある。

司会者は彼女の意見を「あらら、過激な意見!」と取り上げて、専門の評論家に振る。困りきった評論家の顔が映る。これが受けたのである。


例えば原発についてもいち早く、「10年後の原発ゼロ」を述べ、「覚悟は10年です。10年以上はやらないと言っているのと同じです。過去がそうでしょう。人々が忘れた頃に修正して元に戻すでしょう」と、並み居る論客を黙らせた。

地方分権については、「道州制は生ぬるい。所詮大きな県に過ぎず、官僚からの支配から脱せない」と、分権国家を主張した。スカンジナビア3国、デンマーク、オランダ、小さな国の彼らの方が幸せそうで、「強い国家より幸せな国家」が好きと述べた。九州を例えればそのGDPで十分国家を運営できる。分権国家の連合体を日本国として、平和と外交に関わればいいとする。市民に近い個性あふれる政治や経済が展開され、今の閉塞感が打破されると大胆な意見を述べた。これは私と意見を同じくした。

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