第13話 大和の最期

2時過ぎになると、今まで普通に立っていた僕はもう手で支えなければいけないほどに大和は傾いていました。


「ついに不沈艦と言われた大和が沈む」と心の中で叫びました。


とうとう「総員退去」と言う命令が出ました。


これは「もう艦の最後だから、全員持ち場を離れて甲板に出ろ」と言う軍艦の最後の命令です。


4年の歳月をかけて作られた戦艦大和がわずか2時間の戦闘で沈むとは信じられませんでした。


しかも相手は戦艦ではなく飛行機によってです。


外へ出るとたくさんの兵隊が左に傾いている大和の右側の方へ登っていく姿が見えました。


そのよじ登ろうとする兵隊たちの上に重い機銃やカタパルトと言う飛行機を打ち出す装置がバランスを崩して「ガラガラ」と音を立てて転がり落ちたのです。


「あっ」という間に今まで生きていた人がたくさん押しつぶされてしまいました。


しばらくすると目の前の大きな煙突まで水が上がってきました。


その大きく開いた煙突の口に水とともに何人もの兵隊が飲み込まれていくのです。


僕は気が動転していたのでしょう。

一旦外に出たものの、「防毒マスク」を忘れたことに気がつきまた元の場所に取りに入りました。


教育とは恐ろしいもので、「天皇陛下から支給されたものは大切に扱え。なくすと厳しい罰があるぞ」と教えられていたので今から泳ぐのに必要のないものでも取りに行こうと思ったのです。


下の部屋に戻った僕はそこでなんと上官が斜めになった壁にもたれて刀で切腹するところを見てしまったのです。


大和が沈んだ責任を取るつもりだったのでしょうか、ゆっくりと腹を出して両手に持った軍刀で自分の腹をさして横にひいたのです。


その瞬間「さっ」と鮮血が飛び散りました。


その上官の苦痛に満ちた顔は今でも忘れられません。


何とか防毒マスクを取った僕は再び外に出ました。


300人ほどの兵隊が山のようになった右舷に集まり「海ゆかば」と言う軍歌を大きな声で歌っています。


「海ゆかば

みづく屍

山ゆかば

草むす屍

大君の

辺にこそ死なめ

かえりみはせじ」


その頃大和はほとんど横倒しの状態でした。


1番高いところにいた僕の足元にもついにどんどん水が迫ってきたので、僕は思い切って海に飛び込みました。


「今この足の下で大和が沈んでいくんだ」と思っていると僕はいきなり海に引き込まれだしたのです。


皆さんは大きな物体が水に沈むとき大きな渦ができるのを知っていますか?


大和ほどの大きな船が沈むときは必ず半径何百メートルもの渦ができます。


この時の僕はその大きな渦に巻き込まれたのでした。


どんどん引き込まれていく僕は縦、横、斜めと洗濯機に入れられたかのようにもみくちゃにされながら深い海へと引きずり込まれたのです。


とうとう息苦しくなって「もう死ぬな」と覚悟したときに海の緑色の向こうに何と表現したらいいのかわからないくらいの黄金色の明るいまばゆい光が「ピカーッ」と光ったのです。


おそらく大和の火薬庫にあったたくさんの火薬が爆発したのだろうと言われています。


ここからの記憶は全くありません。


とにかくその爆発で僕は一瞬のうちに海面に吹上られたのでしょう。


気がついたら重油で真っ黒になった海の上に僕は浮かんでいました。





何とか防毒マスクを取った僕は再び外に出ました300人ほどの兵隊が山のようになった無限に集まり海ゆかばと言う文化を大きな声で歌っています海ゆかばみづく屍山ゆかば草結屍を君の辺に越そう品目帰り実は政治その頃大和はほとんど横倒しの状態でした1番高いところにいた僕の足元にもついにどんどん水が迫ってきたのでした。


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