第12話 戦闘 2

嵐のような1回目の攻撃が終わり、外を見た僕は大変驚きました。


甲板のあちこちが爆撃によって穴が開き、その穴の周りにはさっきまで生きていた兵隊がごろごろ転がっていたのです。


あるものは首がなく、あるものは腹から赤い腸を出して、あるものは手足が吹き飛んで人間の形をしていない「ただの肉片」と化していたのです。


僕は思わず目を逸して「これが戦争なんだ、国と国との殺し合いなんだ」と思いました。


続いて2回目の攻撃が開始されたのです。


長い長い時間のように思われたのですが、わずか20分かそこらであったと思います。


またもやハチの大群のような飛行機が襲ってきて耳をつんざくような射撃音、騒音、爆発音、悲鳴、忙しく指示する兵隊の大きな声が続きました。


「一発の爆発音で、何人の兵隊の命がなくなっているのだろう」と考えると本当に恐ろしかったです。


幸い僕のいた場所には奇跡的に爆弾は当たらずに済みました。


この頃、敵機が落とす爆弾や魚雷を避けながらジグザグに走っていた大和の左側に魚雷が相次いで突き刺さりました。


魚雷と言うのは破壊力が大きく、たった一発でも当たれば駆逐艦のような小さな艦なら簡単に沈没させてしまう兵器です。


その魚雷を何発も食らいましたが、さすがに不沈艦大和です、まだこの頃は悠然と航行していました。


しかし1時30分に嵐のような2回目の攻撃が終わって、また外を見ると大和の悠々とした姿がそこにはありませんでした。


甲板はあちこちで裂け、煙が上がり自慢の高角砲も吹き飛び、無残にも人間の姿をとどめていない死体がたくさん散らばっていました。


それを衛生兵が黙々と担いで死体置き場へ運んでいくのです。


アメリカ軍は引き続き150機で3回目の攻撃をかけてきました。


敵も相当被害が出ているはずですが、「なんとしても大和を仕止めよう」と言う執念にも似た気持ちが伝わってきました。


今回も敵は攻撃を大和の左側に集中してきたのです。


「ズーン、ズーン」と言う地響きに似た魚雷の命中音が何回あったでしょうか。


そのたびに大和は73,000トンの体を震わせるのですが、さすがにこの頃になると足力が落ち始めたのです。


スピードが出なくなると、もう敵を避けることができなくなるのでますます爆弾や魚雷の命中率が上がってきます。


左に左に傾く大和はバランスを取るために右側の部屋へ海水を注水して水平に戻そうとするのですが、さすがにこの頃には水を入れる部屋がもうなくなってきていました。


最後にはまだ兵隊が大勢頑張っている部屋に注水することになったのです。


生きている人間がまだ大勢いるところに海水を注ぎ込むのです。


その部屋から最後の電話連絡がありました。


「今、首まで水が来ました。全員最後のラムネを飲んでいます。天皇陛下万歳!」

そのような犠牲をあちこちに出しながらもついに左への傾斜は元に戻らなくなってきたのです。


外を見た先輩の兵が叫びました。


「おい!大和の甲板に水が上がってきているぞ」

もうこの頃になれば大和ほとんど動かなくなっているので敵機の思うままです。


いっそうあちこちで大きな爆発音が響くようになっていました。

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