第11話 戦闘 1

次の日、昭和20年4月7日と言う日は僕にとって生涯忘れられない長い1日となりました。


その日の朝、僕は大和の1番上の持ち場で朝5時に目を覚ましました。


天気は不運にも曇りでした。


敵の飛行機を見つけにくいので「曇りは嫌だな、今日は大和の主砲が使えないかもしれないなぁ」と思いました。


その頃大和は鹿児島県の南の沖を通過していました。


僕はお守りをぎゅっと握りしめながら「いよいよ今日が僕の死ぬ日だな」と胸の中で覚悟をしました。


しかし不思議に「怖い」と言う気持ちはありません。


最初にアメリカの飛行艇に見つかったのは朝10時16分でした。


大和の主砲が届かない45,000メートル先でこちらを見ていました。


心の中で「しまった、ついに見つかってしまった」と思いました。


その次に偵察に来たのが11時7分です。


6機の飛行機が大和の進路と護衛の船の数を確認しに来たのでしょう。


この偵察機の報告によって、本格的な爆弾や魚雷を持った飛行機の大編隊が現れたのがお昼頃です。


僕が「戦闘配食」と言って、戦いの最中に配られる大きなおにぎりを食べ終わった頃にいきなり100以上の飛行機が大和上空の低い雲の中からハチのように襲ってきました。


遠くからゆっくり近づいてくれれば、得意の世界一の主砲でやっつけることができたのですが、その日は「雲量10」と言って空全体に晴れ間が全くない天気だったので、この雲の中を見えないようにやってきた敵の飛行機はあっという間に大和を取り囲んだのです。


ですから主砲の出る幕は最初から最後までありませんでした。


長い槍で近くの人と戦えないのと同じ理由ですね。


まず最初に撃ち始めたのは150もの機銃でした。

次に飛行機を撃ち落とす高角砲が撃ち始め、最後は主砲より小さな副砲が打つと言う順番でした。


つまり近距離の武器から順番に撃ち始めたのです。


「キンキンキン」「カンカンカン」と言う高い音で耳栓をしなければ耳がやられるような発射音が一斉にしました。


大小すごい数の弾が大和から敵に向かって

行きます。


その様子はまるで打ち上げ花火のようでした。


ついに戦闘開始です。


「これは訓練ではないんだ。本当の戦争なんだ」とお守りを握りながら何度も何度も自分に言い聞かせました。


皆さんは「地獄」と言う言葉を物語で知っていますよね。

悪いことをした人が死んでから行く場所です。


今からお話しするのは本当に生きながらにして僕が見たまさに「地獄の様子」です。


アメリカの戦闘機は何機かは大和の弾が命中して空中で爆発して落ちていくのですが、その他は雨のような弾の間をかいくぐりながら勇敢に接近してきます。


パイロットの顔が見える位に接近したかと思うとお腹に抱いた250キログラムもある爆弾を落としては「ヒラリ」と方向を変えて逃げていくのです。


その途端「ドカーン」と腹の底から響くような爆発音が何度も聞こえてきました。


あるものは大和を外して海の中で爆発しましたが不幸にも何発かは大和に命中しました。


大和も精一杯ジグザグ運動をしながら爆弾をかわすのですが、ついに後の指令所に2発食らってしまったのです。


ここは3番主砲と2番副砲と、その他大和の後半分を指揮する大切な場所で僕の友人が何人か働いていたところでもありました。


しばらくするとその場所の指揮官がどうやって急な梯子を上ってたのでしょうか、顔面血まみれで足を引きずりながら報告にきました。


爆弾でやられて立っているのがやっとの指揮官は「後部指揮所、全滅」それだけ言って力尽きて崩れ折れました。


後部指揮所にいた何10名の兵たちは一瞬にして肉を飛び散らせて全滅したのです。


「さっきまで生きていた人がこんなに簡単に死ぬなんて・・・これが戦争なんだ」と思いました。

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