第6話 海軍の生活 1
大竹海兵団を卒業した後、僕たちの仲間はそれぞれ「戦艦○○」、「巡洋艦○○」、「駆逐艦〇〇」と働く場所が決まっていった中で僕はどういうわけか成績の良いものしか行けない横須賀の砲術学校と言って大砲の打ち方を専門に教える学校に行くことが決まりました。
これには大変驚きました。
ここでは大砲を打つときの難しい敵との距離や角度を図る方法を主に教えてもらったのです。
その時の授業はちょっと変わっていました。
皆さんの授業とは違い、教科書や黒板の内容をノートに写す事は駄目だったのです。
何故かと言うと軍の秘密に関する内容が多いので紙に書いて残してはいけないからです。
ですから全て頭の中に覚えなければいけませんでした。
例えば先生が黒板に大事なことを書いた後「いいか、消すぞ。覚えたか、いいか、ほんとに消すぞ。いいか」と書いては覚えては消しまた書いては覚えては消す繰り返しの授業でした。
とにかく記憶力が良くなければついていけませんのでこれは正直大変でした。
しかし仲間同士で何とか協力して助け合ったのでいつもテストは全員良い点を取ることができたのです。
ここの学校ではこんなことがありました。
雪が降る寒い冬の事でした。
僕たちが勉強を終えて晩御飯を食べて寝る用意をしていたときのことです
いきなり「総員ふんどし一丁で洗濯場に集合!」と言う命令です。
「なんだろう、こんな時間に」とみんな思いましたが命令ですから仕方ありません。
寒い冬空の下、僕たちは裸でふんどしだけつけてブルブル震えながら洗濯場に集合しました。
洗濯場とは皆さんの学校にあるちょっと浅いプールのようなところだと思ってください。
普段はそこで大勢の兵隊さんが服を洗濯する場所なのです。
そこに立っていると今度は「よーし、総員プールに入って肩までつかれ」と言う命令です。
今だったら「えー、うっそー」というところでしょうね。
洗濯場には薄氷が張っていて、その上に粉雪が待っているような状態ですよ。
しかし命令ですから仕方ありません。
「えい!」と気合いで飛び込んでだものの、冷たくて肩まで浸かれるような状態ではありませんでした。
自然にガタガタと体が震えながら上ってきて胸まで出ると、先生たちが長い棒を持ってプールの周りを囲んでいて上がってきた僕の頭を「こら!肩まで浸からんか!」と言って棒でコンと殴るのです。
長い時間のように思われたのですが3分位氷水に使っているとだんだん体が麻痺してきました。
「よーし、総員プールから出ろ!」の言葉にほっとして僕たちは逃げるようにしてプールを出ました。
ガタガタ震えている僕たちに向かって今度は「よーし、今度は向こうの焚き火で体を温めろ」と言う命令でした。
プールとは反対の方向にはゴーゴーと焚き火が燃えており、その周りを僕たちと同じように裸になった先輩たちが取り囲んでいました。
「これ以上近づくな、火傷するぞ!」と火に近づきすぎた僕たちを両手で止めたのです。
寒さで感覚が麻痺しているので、火の熱さがわからなくなっている僕たちを先輩たちがわざわざ壁を作って熱から防いでくれたのでした。
先輩たちは自分の体を温度計代わりにしてこの位置から近づくと火傷する限界のところで走ってくる僕たちを止めてくれたのでした。
この訓練の意味も後から説明を受けると、北の海で自分が乗っている船が沈没しても今日のこの冷たさを思い出すことで、3分でも5分でも頑張れるのだそうです。
そしてその5分でも長く頑張れたら救助が来るまで持ちこたえられるかもしれないと言うことで、ここでも「命の大切さ」をまた教えられたわけです。
とにかく荒っぽい訓練でしたが全てにおいて海軍は「命を大切にする」と言う思いが込められていました。
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