第4話 中学時代
僕が中学校に入ったその頃の日本はまだ中国との戦争状態が続いていました。
最初はすぐに終わると思っていたこの戦争がだんだん長引いていたのです。
僕の中学1年生の昭和15年は日本人にとって特別な年でした。
今では皆さんは年を数えるのに2000年とか西暦と言うヨーロッパで作られた年号を使っていますが、この頃は最初の天皇から数えて何年になるかと言う「皇紀」と言う年号を使っていました。
ちょうど昭和15年は皇紀2600年にあたる年でしたので、キリのいい数字の時代によくぞ生まれたものだと国民全員が旗を持って行列してお祝いをしたほどです。
しかしそのような平和な国内とは反対に中国との戦争はズルズルと長引いていたのです。
その頃になって中国に味方をする国が現れてきました。
今では仲の良いアメリカとイギリスです。
特にアメリカは日本に石油を売ってくれなくなるなど日本が戦争を続けられないように困らせ始めました。
今でもそうですが日本は国内で石油が取れません。
ですから海外から石油が来なくなれば日本は車も船も飛行機も動かすことができませんので大変に困りました。
そこで2つの意見が出てきました。
1つは「アメリカの言うことを聞いて仲良くしよう」と言う意見です。
もう一つは「いや邪魔をするならアメリカと戦おう」と言う意見です。
皆さんも友達と意見が違って喧嘩になることがありますよね。
そういう時はどうしますか?
「友達とよく話し合ってどちらかが譲る」か「喧嘩して相手をやっつける」かの2つに1つしか道がありませんよね。
悲しいことに兵隊さんが日本を動かしていたこの時代ですから当然、「けしからんアメリカと戦おう」と言うようになってしまったのです。
次の年の昭和16年12月8日、寒い朝でした。
僕たちは学校で聞かされたラジオ放送にびっくりしました。
アメリカの1番大きい海軍基地であったハワイの真珠湾に日本海軍の飛行機がたくさん攻撃をかけて港に泊まっていた戦艦やその他の船や飛行機を一瞬にして全部やっつけてしまったのです。
また同じ日に、フィリピンにあったアメリカ空軍の基地をこれまたたくさんの飛行機で攻撃してあっという間に多くの飛行機と基地をやっつけてしまいました。
このことをラジオで聞いた僕は「やった、やった!ついに日本はにっくきアメリカと戦争を始めた」と大喜びしました。
喜んだのは僕だけではありません。
周りの友達や、家に帰ればお父さんお母さんが文字通り日本中が大喜びしたのです。
しかしアメリカは「日本から不意打ちを受けた」と大変怒りました。
なぜなら「今から戦争を始めますよ」と言う連絡なしに相手を攻撃したらルール違反だからです。
この連絡が日本は攻撃の少し後になってしまったのです。
こうして最初のうちは日本はどんどん戦争に勝っていったのです。
そして、次の年にはイギリス海軍自慢の戦艦2隻をマレー沖で日本軍の飛行機が沈めてしまいました。
「飛行機が戦艦を沈める」と言う事は今までになかったことです。
日本が最初にそれをやってのけたのでアメリカやイギリスはその後同じことを日本にするようになりました。
2月にはイギリス軍最大の基地であったシンガポール要塞をやっつけてしまいました。
この要塞は絶対落とせないとされていた無敵の要塞だったために世界中が驚きました。
中学2年生の僕たちは「天皇陛下の日本軍は負け知らずだ」と毎日のようにラジオで伝わってくるニュースを聞いては感動したものです。
こうして最初のうちは「戦えば必ず勝つ」というムードが日本中に広がっていったのです。
「アジアをいじめている悪いアメリカやイギリスなどのヨーロッパの国を追い出せ」と言う掛け声のもと、日本軍は次々と勝ち進んだのでした。
しかし僕が中学3年生になった6月にとんでもないことが起こったのです。
太平洋のど真ん中にあるハワイとの中間のミッドウェイの海戦で初めて日本海軍は自慢の空母4隻を失っててしまいました。
わずか5分間の時間差でアメリカの飛行機が日本の空母を次々と沈没させたのです。
このことは良い知らせではないので国民には知らされませんでした。
ですから僕たちは、まだ日本軍はどんどん勝ち進んでいると思わされていたのです。
本当はこの海戦の後、日本は一度として戦いには勝てませんでした。
中学3年生になった僕は皆さんのお兄さんお姉さんと同じで、卒業後の進学か就職かの進路を決めなくてはなりませんでした。
その頃、街中の至る所には「来たれ、若者よ。七つの海が君を待っている」とか「行け決戦の大空へ。海軍航空隊」などの勇ましいポスターがあちこちに貼ってあり僕の心を惹きつけていました。
ちょうど福山の街に海軍の基地ができた頃で今まで陸軍の兵隊さんしか見たことなかった僕には水兵さんの真っ白いセーラー服姿がとてもかっこよく見えました。
また服装だけでなく、陸軍の兵隊さんのそばへ行くと汗と皮ベルトの匂いが嫌だったのですが、水兵さんが通ったあとは香水の香りがしたのには驚きました。
そして階級が上の人とでも並んで楽しそうに話をしている水兵さんを見かけると、「入るなら絶対海軍だ」と心に決めました。
次の年の1月、お父さんお母さんには内緒で海軍の試験を受けたのです。
その日の朝、神社にお参りした後に筆記試験と体力テスト目や耳などの体の検査がありました。
たくさんの人が試験を受けていたので合格するかどうか不安だった僕は、1番優秀な「甲種合格」と言うハンコを手のひらに押してもらったときにはまるで夢のようでした。
そして嬉しくて、手のひらに着いたハンコが消えないようにお風呂に入る時でも手を頭の上に上げていたくらいです。
こうして僕はついに夢であった憧れの海軍に入ることができたのでした。
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