第14話 暗闇

 クロウは暗闇の中にいた。どこを見渡してみても、一筋の光さえない。そんな彼に血数いてくる人影があった。明かりのないこの空間で見えるはずもない光景ではあったが、不思議とクロウにはその人影、いや人影たちには見覚えがあった。


 その人影等は、共に苦難を乗り越え冒険し、そして自身の呪いによってその命を奪ってしまった者達——リック、サイモン、そしてソラであった。


 クロウは思わず彼らに駆け寄ると、彼らに問いかけた。


「も、もしかして、呪いが解けたのか!?」


「呪い?」


 やけに平坦な口調でリックは繰り返した。その顔は影になっており良く見えない。


「そうだよ!俺がかけられた呪いで、・・・呪いでお前らが死んじまって、俺はどうしたらいいのか——」


 気が急ぎ、早口で話すクロウとは対照的にサイモンは平坦な口調でつぶやいた。


「死んだ・・・」


 そして、それに続いてソラはこちらへ手を伸ばし


「そう……よ、あ……んたのせい……でわたしたちは……しんだ……のよ」


 恨みのこもった声音でそう言った。リックとサイモンも先ほどの平坦な声とは異なり、恨みがましい口調でクロウを責めた。


 クロウはその声にたじろぎながらも言った。


「そうだよなぁ、お前らが俺を恨むのは当然だよな……。でも信じてくれ! 俺はお前らを死なせちまったことも全部ひっくるめて背負って、誰かのために生きていくって決めたんだ!」


 そんなクロウに対し、彼らはその影のかかった顔をクロウの方へ向け


「ここ十年間魔物しか倒してこなかったのに?」


「平穏な日常を過ごしておいて?」


「誰かのため?何を為すか何も決めてないのに?」


 口々にそう言った。クロウは彼らに言い返す言葉を何も持っていなかった。そうしていると、彼らはクロウに向かってとびかかってきた。そして、無抵抗のクロウを押し倒した。その時になってクロウは初めて気が付いた。彼らの顔には影がかかっていて見えなかったのではない、初めから顔がなかったのだ。顔があるはずの部分は空洞になっており、そこからはクロウにとっては嫌でも忘れることが出来ない——白い灰がこぼれ落ちクロウの顔にかかった。


「うわぁぁぁぁぁ」


 クロウは絶叫し、彼を押さえつける3人を払いのけようとした。しかし、万力のような力で押さえつけられ、全く動くことが出来ない。そんなとき、暗闇に一筋の光が差し、クロウを呼ぶ声が聞こえた。その声はとても尊大な口調で何かを言っていた、しかしその声音にはわずかに不安げな感情が混じっているようにも感じられた。クロウは無我夢中でその光の方へと手を伸ばした。


 次の瞬間、クロウは目をばちっと開けた。ぼやけていた視界が徐々に鮮明になってゆく。彼はどうやら、マリーに刺された場所からそう遠くない野原にあおむけにねているようだった。その時クロウは右手に何か温かく、柔らかい感触があることに気が付いた。見ると、その手はクロウの手と比べるととても小さく、子供の手のようであった。


「ようやく目が覚めたかい。そして、いつまで私の手を握っているつもりだい?」


 その澄んだ声を聴き、クロウは握っているその手の主がアリスであることを認識した。


「あぁ・・・、すまねぇ。ところで、俺はどれくらい寝てたんだ?」


 アリスの手を放し、クロウはそう尋ねた。


「おそらく1時間前後じゃないかな。放心したマリーが血まみれの服を着て家に入ってきて、いやな予感がして飛び出したら君が血の海に浮いているときたもんだ。マリーもそのうち何かアクションを起こすとは思っていたけれど、まさかこんな手段に出るとはね……」


 アリスのそのつぶやきに、クロウは体を起こしながら尋ねた。

 

「おいアリス……、もしかしてお前何か知っているのか?」


 アリスは、目を細め、少しうつむいた。そして、顔を上げその澄んだ翠色の瞳でクロウを見た。


「……そうだね、こうなった以上君には知る権利がある。——いや、本当はもっと前に伝えておくべきだったかもしれないね。君にはつらい話になるだろうけれど、それでも聞くかい?」


 彼女はおそらくクロウがどうこたえるか分かっていただろうが、それでも尋ねた。クロウは先ほどの鬼気迫るマリーの姿を思い出し、そして自身のこぶしをぎゅっと握りしめ、言った。


「あたりまえだ。……きっと俺はあの殺意の理由を知らなきゃいけないんだ」


 アリスは、そうかと言い、そして話し始めた。クロウとアリスがマリーの家を訪れて最初の朝に、彼女とマリーがした会話に関するすべてを。

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