第2話中編
その触れた何かは棒の先ほどの大きさだったが、硬いものではなく、むしろ柔らかく、そして適度に力が加わったような感じだった。自分はそれこそ金縛り状態で、その何かよりも明らかに自分の体の方ががちがちになっていた。
背骨からほんの少しずれたその何かは、すぐにその真横の背骨をまっすぐ降りていった。肩甲骨を過ぎて腰の手前で急に左にカーブしたかと思うと感覚がなくなったが、すぐさまその背骨とカーブが始まる分岐点から動きが始まって今度は右側に同じようにカーブした。まるで勢いでもつけたようなスピード感があり、
その後背中には何も触れなかった。
すると、この数秒間、全く聞こえてなかった鳥や虫の鳴き声や、そう離れていない町の喧騒も自然に耳に入ってきた。
体が急に楽になり、すぐに後ろを振り返ったが周りの空気は逆に
「何かあったの? 」
と自分に言っているようなものだった。
「今のは、何だ・・・・・」
そう言えば子供の頃のこの遊びをした。小学校のバスハイクでの
「背中に文字を書く伝言ゲーム」
座席の縦列で競ったが、自分が間違えたのに素直に謝れなかった記憶があった。
「そうだ・・・丁度指先だ、でも大きかったから大人の指だ。何の文字だ・・・えーっと・・・ほとんどまっすぐで右と左で払う・・・
あ!!! 人!!! 人、人か・・・どういう意味だろう」」
そのあとの自分はずっとこのことを考えながら神社巡りをした。「人」とはまたあまりに深遠な言葉である。考えても考えても答えなど出るものではない。
その後回った数か所では別段変わったと事はなかったが、何故か普段よりも逆に落ち着いた感じがした。それはこのあまりに不思議は体験より、子供の頃の苦い経験の方が思い浮かんだからだった。
「今から書くけど・・・書き順が違うかもしれない」
「いいよ! 書いて! 」そう自分はクラスメートに言ったのに、
「え! 僕が? だってこういう書き順で書いたから・・・」
そう言ってしまったのだった。
二十年以上前の事なのになぜか鮮明に覚えている。
「人のせいにしてはダメよ」
その時に担任の先生に叱られたからかもしれない。
この後からだろうか、自分としては「謝る」ことをしない大人になってはいないとは思ったが、時々「素直じゃない」と今でも言われることがある。
「人か・・・まだ人のせいにすることがあるのかな」
とそちらの事の方が気になって、どう見ても神秘体験の方をないがしろにしていた。いや、もしかしたら深層心理ではこのことを
「深く考えたくない」という自分がいたのかもしれない。
しかし、現実的にもっと色々な事がその日に起こってしまった。
「え! ゲリラ豪雨? 」
ほとんど外れることのない最近の天気予報が、この日は自然を読むことができなかったようで、土砂降りの雨はひどくなるばかり、止む気配すらない。
「あの山道は止めよう、倍以上時間はかかるけれど迂回しよう」
と明日は仕事なので、安全策をとることにした。大粒の雨の中、知らない土地を運転するのは疲れるので休み休み行っていたところ、同僚から電話がかかってきた。
「ああ! 良かった! 無事だった!!! 」
「どういうこと? 」
「山を越えるって言ってただろう? さっき落石があったんだって」
背中の文字よりも寒気がした。
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