不安になったりしませんか?


 明けて11月。

 ようやくロクくんとおやすみが重なったので朝からロクくんげ通うことになる大学近くの不動産屋さんに来ている。


 この辺りは大学がいくつか固まっている為、物件はかなりの数があるみたいで今も2人で資料を見せてもらっている。


「この辺りですと……ここなんかはどうでしょう?あとこちらもオススメですね。共に陽当たりも良くて駅やスーパーも近くにありますので新婚さんには人気の立地です」

「……新婚さん……」

「やっぱりそこに反応しますよね」

「当たり前でしょ!やっぱりそう見えるのよね〜」


「お似合いのお二人だと思いますよ」

 と不動産屋さん。


 でしょ?そうよね〜。


「今のところお二人のご希望に合いそうな物件はこのくらいでしょうか。後は少し家賃の方が高くなりますね……」

「じゃあとりあえず今の分を見に行かせてもらってもいいです?」

「はい、ではご案内致します」

 という訳で物件を見て回ることにする。


 …………


 う〜ん、どれも悪くはないんだけど、今ひとつピンとこないんだよなぁ。

「ねぇ?ロクくんはどう思う?」

「僕ですか?僕は特に希望はありませんので先生が気に入ったとこで構いませんよ」

「ええ〜っ、ほら何かあるでしょ?西向きがいいとか、病院が近くにあるとか」

「そうですね……うん、特にないです」

 はい、丸投げですね。

 基本的にインドア派のロクくんなので住めればよし、みたいに考えてるんだよね。


「家賃高めだとどんなのがあります?」

「そうですね……」

 そう言って新しく物件を探してくれる。


「こちらとこちら、あとこちらくらいでしょうか。あ、この物件もですね」

「ふむふむなるほど」

 どれもちょっとお高いけど間取りも広くて結構良さげだ。

「少し考えさせて下さい」

「ええ、すぐに借主が決まるほどでもありませんから」


 結局この日は何件かの不動産屋さんを周り部屋の資料をもらって帰ってきた。



「ロクくんはどれがいいと思う?」

 テーブルに資料を広げて2人で相談すること1時間。

「う〜ん、これですかね、先生は?」

「ああ〜これかぁ、私もちょっと気になってたんだよね〜」

 その部屋は学校からも程良く近くて周りにはスーパーや病院もあるマンションの8階だ。

「そういえば先生は前の部屋はどんなところだったんですか?確かマンションでしたよね?」

「うん、そだよ。マンションの4階。間取りは3LDKだったんだけど1人で住むには広すぎて……」

「3LDKに1人は寂しいですね」

「うん、あ、でも2人だったら丁度いいんじゃない?将来的に子供が出来ても大丈夫だ……子供……」


 将来的に子供……ロクくんとの子供?

 ああ〜っきっと可愛いんだろうなぁ〜。

「あなた、いってらっしゃい」

「行ってきます」

「あ、ネクタイが……」

 みたいな……

 で、玄関先でハグして、ちゅ〜して……


 ああっ!考えただけで色々ヤバイ。


「先生?いい加減に戻ってきて下さい」


 ……よしっ!その為には恋人同士の営みをせねば!

「という訳で、ロクくん!エッチしよ!」

「どんな訳ですか。どんな」

「将来的なことを考えてだよ!」

「はぁ……ホントにピンク色の頭ですね……」


 呆れた顔をしながらもそれなりに優しいロクくんはなし崩し的に私に襲われてくれる。

 あ、でも順番は先に結婚だよね?

 ……どっちでもいいか……



「先生のおかげで今日も晩御飯がこんな時間になってしまいましたよ」

「気持ち良かったからいいでしょ?」

「それはそうですけど……」

「じゃあ問題なしだね」

「問題しかないような気がします」

 少々夜遅くなってもちゃんと晩御飯は作るんだから大丈夫。料理を手抜きにしたりなんかはしないから。


 晩御飯を食べてお風呂に入る。


「はあぁ〜寒くなってきたときのお風呂は天国だねぇ〜ふうぅ〜」

「おっさんみたいになってますよ」

「せめてオバさんくらいで勘弁して……」

「それもどうかと」

「いやいや、30過ぎると色々とあるんだよ?色んなところが曲がり角曲がる感じで」

 ロクくんとは一回り以上離れてるんだよね。

 そう考えるともっと頑張らないとダメな気がしてくる。


「ロクく〜ん!捨てないで〜!」

「わっ!急にどうしたんですか?」

「おばさんでも捨てないで〜!私頑張るからぁ〜!」

「ちょっと何を言ってるのかわからないんですが」

「だって……ロクくんとは一回り以上離れてるし、もしかしてピチピチの若い子が良くなったりするかもって思うと……」

「急に何を言い出すのかと思えばそんなことですか、そんなことで先生を嫌いになったりなんかしませんよ」

「……ホントに?」

「はい、当たり前じゃないですか」

「ロクく〜ん!」


 こうやって毎日一緒にいるからこそ、たまに不安になったりもする。

 年の差はどう足掻いたところで絶対に縮まらないのだから。


 お風呂の中でロクくんにしがみついて私はそんな事を考え少しだけ不安になっていた。




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