きっかけもあるんじゃないですか?
夏休みが終わり新学期が始まった。
といっても担任もなく部活の顧問をしているわけでもない私はあまりこれといって忙しくはない。
3年生の担任をしていた時は、それはそれは本当に大変だった。
志望校の選択や内申書、受験に向けた試験準備に保護者との面談などなど。
二度と3年生なんか担任をしたくないと思ったものだ。
それはそうとここ最近、ロクくんがバイトで忙しく全然ゆっくりとかまってもらえていない。
夏休みのあの日、ロクくんと初めてエッチをしてからお預けが続いていたりもする。
私としては毎日でも食べてもらってもいいんだけど、夜遅くに帰ってきて流石のロクくんもそんな元気はないみたいだ。
「ふぅっ、ただいまです。先生」
「あ、おかえり〜」
11時を少し過ぎたくらいにやっとロクくんが帰ってきた。
「お疲れ様、ご飯にする?お風呂にする?それとも……私にする?」
「そこで先生にするって言うとどうなるんでしょうね?」
「ふわっ!えと……それは……ちょっと後にしようかなぁ〜なんて」
「ホント先生って面白いですね」
ソファにぐったりと座ってウトウトとし始めたロクくんの隣に腰掛けて肩を貸してあげる。
「受験生なんだしバイトもうちょっと減らした方がよくないかな?」
「そうですね、考えときます」
コクコクっと寝てしまいそうなロクくんは頭を振りつつそう答える。
寝てしまいそうなロクくんを連れ寝室のベッドへと倒れこむ。
「大好きだよ……ロクくん」
「……ん」
おやすみの口づけをしロクくんを抱きしめて目を閉じる。
お互いにそれなりに忙しい日が続きやがて季節は秋にさしかかる。
蝉の声が秋の虫の鳴き声に変わりすっかり涼しくなってきた。
推薦を貰っていたロクくんは私の知らない間にさっさと受験を済ませてしまい結果を待つだけだと後から聞かされた。
秋が終わり冬が来て来年になればあっという間にロクくんは卒業を迎える。
ロクくんは私についてきて欲しいって言っていたけど、あれは本心なのだろうか?
あれっきりその話はしていないのでロクくんが大学に受かっていたらちゃんと話そうと思う。
「ロクく〜ん!今日の晩御飯は秋刀魚だよ〜秋の味覚だよ」
「早いですね、もうそんな季節なんですね」
秋刀魚の塩焼きをつつきながらそんな他愛もない話をして一緒に笑いお風呂に入って、夜ロクくんに抱かれる。
「ねえ、先生」
「ん?何かな?」
「先生はどうして教師になろうと思ったんですか?」
「どうしたの?急に」
ベッドの中、ロクくんの裸の胸に頭を乗せ微睡んでいた私に不意にロクくんが問いかける。
「将来のことを考えると、先生はやっぱり先生のままがいいのかなと思いまして」
「え?何?」
「ああ、いや、教師になるのに何かきっかけみたいなものがあったのかなと」
「きっかけ……かぁ」
私が教師になろうと思ったのは……多分校長先生の影響が少なからずあったと思う。
両親を亡くしてからは校長先生がある意味親代わりみたいなところもあったし、何よりあんな先生になりたいって強く思った。
元々子供が好きだったこともあり最初は小学校の先生になるつもりだったけど校長先生に誘われる形で中学校の教師になった。
もし中学校で教師をしていなかったらロクくんとも出逢うこともなかっただろうし、こうして恋人になることもなかった。
そんな話を寝物語でロクくんに聞かせる。
「ありがとうございます」
「ん?何が?」
「色々です、色々」
私の頭を撫でながら小さな声で呟く。
秋の虫の鳴き声を聞きつつ静かな夜を過ごす。
そんなありふれた一日の終わり。
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