すごいことだと思いませんか?



「で、どうして七瀬がいるんですか?」

 玄関を開けたところで私の後ろでピースをしているナナミンをジトッと見てロクくんがため息をつく。

「ええ〜あたしとロクの仲じゃないっ!」

「誤解される言い方はやめてください。田中君が泣きますよ」

「うん!止める!すぐ止める!」


 やれやれと肩をすくめて部屋へと戻っていくロクくん。


「おお〜っ、案外綺麗にしてるんだね!ダーリンの部屋とは大違いだっ!」

 だだだっと部屋に駆け込んでキョロキョロと辺りを見回して物色しようとするナナミン。


「期待しているようなものはないですよ、七瀬」

「ちえっ、えっちぃ本の一冊くらいはと思ったのにぃ」

「その沸いた頭を取り替えてから来てください」

「ふんだ、あっそっかぁ〜キョーカちゃんのエッチな身体があるからいいんだね〜」

「……田中君に引き取りに来てもらいましょう」

 ロクくんがそう言ってスマホを取り出す。


「わあぁ〜冗談!冗談だよぅ〜」


 ふふふっ何か楽しい子だなぁ。


「はぁ……全く七瀬は相変わらず変わりませんね」


「そんなコロコロ変われるわけないじゃん、あ、ロクお茶」

「……先生、お茶だそうです」

「はいはい」


 テーブルを囲んで私とロクくん、向かいにナナミン。

「ナナミンはロクくんとは高校で?」

「うん?違うよ〜ロクとは幼稚園からの幼馴染だよ〜」

「え?そうなの?」

「うん、あたしとロク、そいでダーリンは小学校からかな」

 へえ〜だからか、ロクくんの話し方に遠慮が全くないのは。

「実家が隣だったんですよ、残念なことに」

「何が残念よ〜、こ〜んな美少女を捕まえて」

 確かにナナミンはちょっとそこらでは見ない様な美少女だ。

 ……幼馴染ってことは、2人の間には何もなかったんだろうか?


 ううっ……気になるけど……


「あ、キョーカちゃんが考えてるようなことはなかったよ。ね?」

「そうですね、七瀬は小学校からずっと田中君一筋でしたからその点は評価してます」

「小学校から?ずっと?」

「うん!そだよ〜!ずっとダーリン一筋!」


 ナナミンのダーリン大好き話はこの後1時間ほど続いた。

 それはもう……いや、やめとこう、疲れたから。

 ロクくんなんて途中からゲームをやりだす始末で、私も一応は聞いていたけど多分ほとんど独り言みたいな感じになっていた。


「よしっ!折角だから私も入ろっと」

 ナナミンは鞄からロクくんが使っているのと同じヘッドギアを取り出す。

 色がどピンクだったのはご愛嬌だろう。

「キョーカちゃんもね〜」


 誘われるままに私もログインすることに。



「おお〜こっちのキョーカちゃんはこんな感じなんだねぇ」

「な、ナナミンも……目がチカチカする……」

 ゲーム内のナナミンは金や銀のラメ素材を使用した服を着ていて売れない演歌歌手みたいになっている。


「ふ〜ん、キョーカちゃん……盛ったね?」

「うぐっ!そ、それは言わないで……」


「何をバカなことしてるんですか?」

「あ、ロクくん」

「よっ!ロク」

 リアルよりちょっとだけ男前に作ってあるロクくんはあちらでもこちらでもカッコ良かった。



「すっかり遅くなっちゃったよ〜ダーリンに迎えに来てもらおっと」

「田中君にたまに同情しますよ」

「大丈夫だよ!愛があるからねっ!あ、もしもしダーリン?七瀬だよ〜」


 時刻は11時を過ぎ辺りはすっかり真っ暗になっている。

「うんうん、そう、はいは〜い、じゃね〜」

「田中君来るんですか?」

「もちろんだよ、速攻で来るって」

 ニマニマと笑うナナミンはいそいそと帰る用意を始める。

 それから僅か10分後、田中君は何食わぬ顔でやってきた。

「ダーリンっ!」

「お待たせ、七瀬。ロクもありがとな。相川さんも」

「全くです。首輪でもつけといて下さい」

「え?ロクってそんなプレイが好きなの?キョーカちゃんも?」

「さっさと帰って下さい」

「ははは、じゃあまたなロク、相川さん」

 田中君の腕にしがみついて屈託のない笑みで手をふるナナミンを見送り部屋へと戻る。


「はぁやれやれ、騒がしいやつです」

「ふふふ、楽しい子じゃない」

「今日はまだマシな方ですよ、本当に酷いんですから……」

「マシなんだ……」

「はい、今日の七瀬はテンション低めでした」

 ……ナナミンおそるべし。


 夜も更けてしまったけどお腹が空いたので夜食を作り手軽にすませる。

 一緒にお風呂に入ってからベッドへ。


「でもナナミンて本当に美少女だよね」

「みたいですね、ずっと見てきたからあんまりわからないですけど」

「モテるんじゃないの?」

「そうですね、しょっちゅう告白されてますよ」

「でしょうね」

「まぁ七瀬は田中君にしか興味がないので問題ないですけど」

「べた惚れなんだね」

「小学校の頃からずっとあんな感じですよ、本当に驚きを通り越して怖くなります」

「ふふっ、私はロクくんにべた惚れだよ?」

「……それはどうも」


 冷房の効いた部屋は少し肌寒く、ベッドの上でロクくんに絡みつく。


「欲情したんですか?」

「あのね?そんなホイホイと欲情しないわよ」

「そうですか?」

「う、うん?ん〜ちょっとしたかも」


 そんなに焦らなくなったとはいっても……好きな人と一緒にベッドに入ったら、それは、ねえ?


 ね?あれ?ロクくん?


「寝ちゃった……」


 すうすうと寝息たてるロクくんをしばらく眺め仕方なく私も寝ることにする。

 あんなこと言うからちょっと寝にくくなってしまった。


 円周率でも数えるか……



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