一緒に帰りませんか?
まったりと寛ぎの時間を過ごしていた私はロクくんの声で我に帰る。
「先生、そろそろ学校に行く時間じゃないですか?」
「え?もうそんな時間?」
夏休みといえど一応教師である私は学校がある。
学生が休みなんだから教師も休みでいいんじゃないかと思うんだけど中々そうもいかないらしい。
ロクくんに見送られて渋々と学校へと向かう。
学校では部活に勤しむ生徒や先生方、自習をしにきている受験生等がいてそれなりに賑やかだった。
私は担任があるわけでもなく顧問をしているわけでもない為、単に電話番的な役割で来ているだけだ。
職員室でポツリと座りただ何となくぼんやりと外を眺めていた。
「あれ?」
そうやって外を眺めていると見知った顔が歩いているのが目に付いた。
「確かあの子って……」
スラリとした長身にショートカット、ボーイッシュな面影の女の子。
確か田中君の彼女さんで……仁科さんだったっけ?
どうしてこんなところにいるんだろ?
職員室でこうしていてもヒマなので私は好奇心の赴くままに外へと向かった。
「どこかなぁ〜」
彼女が歩いていった方向はグラウンドだったのでそちらの方へと探しに行く。
丁度グラウンドでは陸上部と野球部が部活をしていて……彼女は陸上部の顧問と話をしていた。
「あれ?学校の関係者だったのかな?……もしかして卒業生?」
私がそちらを見ていたのに気づいた彼女は誰だっけという風に小首を傾げたけどすぐに思い出したようで花が咲いたような笑顔を見せる。
よく見ると……すごい美人さんなんだ、この子。
以前は着ぐるみを着ていたしさっきも窓越しだったから気にしていなかったけど確かに目を引くような美人さんだ。
ショートカットに綺麗に揃えた髪から見える顔立ちは雑誌に載ってそうなほど美しく整っている。
「あ〜えっと……ロクの……何さんだっけ?」
へへっと笑う顔も同性の私でもつい見惚れてしまいそうになる。
実際、グラウンドで部活をしている男子の大半はチラチラと彼女を見ている。
あ、あと顧問の先生もね。
「相川です、相川 杏香。ロクくんがいつもお世話になってます」
「そうそう!相川さん!うんうん、ロクくんのお世話してますよ〜主にダーリンが」
あはは、と外連味なく笑う彼女。
「ダーリン?田中君?」
「うん、あたしのダーリン!もう超優しくて最高のダーリンなの!」
ずいっとその端正な顔を寄せて飛び切りの笑顔を弾けさす。
うわぁ……この顔で迫られたら……田中君も大変だわ。
「あ〜仁科くん?いいかな?」
「あっすみません。渡辺先生」と私。
「ナベちゃん、ごめ〜ん!」と彼女。
おいおい、ナベちゃんって……
「全く仁科くんは変わらないなぁ、君くらいだよ私をナベちゃんなどと呼ぶのは」
「ええ〜そうですかぁ?可愛くない?ナベちゃん」
いやいや、私に同意を求めるのはやめてくださいな。
渡辺先生って生徒指導の強面先生で少し苦手なんだから。
「いいよね〜ナベちゃん」
「もう諦めとるわ」
そう言うナベちゃん……もとい渡辺先生も半笑いで満更でもなさそうだ。
今度私も呼んでみようかな?
「それでどうかね?後輩達は?」
「う〜ん、そうだねぇ〜」
腕組みしてグラウンドを見つめる彼女──仁科さんは先程とはうって変わり真剣な表情だった。
そこからは仁科さんの独壇場と言っても過言じゃなく的確に後輩達の課題を指摘していく。
こうした方がいい、あーした方がいいと一人一人に丁寧に説明する。
渡辺先生に聞いたら仁科さんはやっぱりここの卒業生で短距離の全国優勝者だそうで中距離も長距離もこなすオールラウンダーらしい。
ひとしきり指摘が終わると渡辺先生と何か話をしだしたので私は職員室に戻ることにする。
「ロクくんといい、仁科さんや会長さんにしても大概な子ばっかりだなぁ」
みんながみんな全国や世界で戦っているんだもんなぁ。
そうこうしているとガラッと戸が開いてピョコっと仁科さんが顔をだす。
「あ〜いたいた!キョーカちゃん!一緒に帰ろ〜」
「き、キョーカちゃん?」
「うん、キョーカちゃん!あれ?ダメだった?」
「う、ううん、全然いいよ、キョーカちゃんで」
うししっと私の隣に座って嬉しそうな仁科さん。
ふふっ変わった子だけど憎めない感じの子ね。
「あたしはナナミンって呼んでね!」
うふっにキラッが付きそうなウインクをするにし……ナナミン。
職員室を出て校門へと向かう途中もナナミンは辺りに愛想を振りまいている。
う〜ん、こんな子が学校にいたらいくら私だって覚えてると思うんだけどなぁ。
隣できゃっきゃと笑う彼女を見て首をひねる。
「あれぇ?キョーカちゃん、何か悩みごと?」
「え?」
「眉間にこ〜んな皺がよってるよぉ」
「う〜ん、ナナミンって卒業生なんだよね?」
「そだよ」
「全然記憶にないから……」
「ああ、それね、だって私中学3年間ほとんど入院してたから」
「入院?」
「そ、ちょ〜っと身体悪くしてねっ」
今隣をスキップしている彼女からは微塵も感じないけど、私の記憶に全くないってことはそうなのだろう。
「ま、詳しくはロクかダーリンに聞いてね」
「う、うん」
あっけらかんとそう言うと彼女はちょっと首を傾げる。
「おっ?もしかしてロクのお家に向かってるのかな?キョーカちゃんは」
「うん、晩御飯を作りにね」
「ほほぅ〜通い妻という奴ですな!響きがエロいですなぁ」
「おっさんみたいだよ、ナナミン……」
特にそのワキワキさせる両手が……
その後結局私はナナミンと一緒にロクくんの部屋を訪れることになった。
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